演劇モデル・長井 短。平成5年に生まれ、平成を生き抜いてきた彼女が、忘れられない平成カルチャーを語り尽くす連載「来世もウチら平成で」。
今回は、平成時代の小中学校で大ブームを巻き起こした「プロフィール帳」の思い出を振り返る。
目次
相手のことをなんとなくでも知れる「プロフィール帳」
ここ最近、初めましての人とお仕事をする機会が多かった。
頭では「仕事だから友達になる必要はない」とか「そもそも友達を作りに来ている人は誰もいない」とわかっていても、身体はいうことを聞かない。
せっかく一緒に作品を作るんだから、みんなでおしゃべりするんだから、友達になれたほうがうれしいし楽しいじゃない?って、いらぬ気合いが入ってしまうのだ。
「友達が欲しい!」と思っているわけじゃないけれど、「友達になれたらいいな」と思うくらいの親しさを感じたいし、感じてほしい。
それに、友達になったほうがクリエーションもポジティブになっていくんじゃないの?なんて考えながら仕事に行くけどまぁできねーな友達は!
そもそも相手のことを知らなすぎる。知る時間もない。こういうとき、どうしたらいいんだろう。ゆっくり会話する時間のない相手のことを、なんとなくでも知れる方法ってありませんか?
あるんです、私知ってるんです。プロフィール帳だよ!
マイナンバーもたじたじの鬼個人情報
古より伝わる「プロフィール帳」……あなたは、覚えていますか? 全国の文房具店に売っていた、バインダーみたいなのにまとめられたアレですよ、アレ。
初めて存在を知ったのは、たぶん小学3年生のとき。クラス替え直後の教室で名刺交換よろしくプロフィール帳の紙交換が始まったときだ。
「長井さんこれ書いてぇ」のひと言とともに手渡されるあまりにもカラフルな紙……製作者は女児への解像度が高すぎる。
ディズニーベースなどキャラクター物もあったが、大半はなんか「LOVE」とか書かれただけだったり、ギャルっぽい女の子の挿絵が描いてあるようなノンタレプロフィール帳だった。むしろそれが大人っぽかった。
基本的に、どんな色合い・柄のプロフィール帳でも、大まかな記入事項は同じである。
名前、住所、生年月日、年齢、血液型、電話番号、メールアドレス。マイナンバーカードもたじたじの、鬼個人情報である。それに加えて、本来ならたくさん会話をしないと知り得ない趣味嗜好への質問が両面に続く。
あだ名、チャームポイント、長所と短所、特技と趣味。好きなブランドと好きな色、好きなキャラクター、好きなテレビ番組、芸能人。ちょっとした心理テストを添えて、本質をあぶり出そうとしてくる狡猾なものもあった。
恋人の有無はもちろん、好きなタイプについても細かく聞かれる。結婚相談所かよ。「宝物は?」という質問まであった覚えがある。初対面で踏み込んでいい領域ではない。
小3〜5のプロフィール帳は「いかにぎっしり埋めるか」
私はプロフィール帳に夢中だった。すぐに近所のアートマンに買いに走って、自分に一番しっくりくるデザインと、聞きたい質問が多いプロフィール帳を1時間近くかけて選んだ。
あのころ、週に一度はアートマンの床にしゃがみ込んでいた気がする。ついに手に入れたプロフィール帳を持って、私も無事、社交的かつイケてる女児の仲間入りを果たした。
さて、手元には十数枚のプロフィール用紙である。どうやって書くか。まずさ、どのフォントで書く? 読みやすいほうがいいけど、書道みたいだとダサいから、ある程度は丸文字のほうがイイよね?
あと色。『チャレンジ3年生』との契約によって手に入れたコロンペンでいい匂いさせたほうがかわいいかな?
記入を始める前から考えることは山積みだ。ようやくペンを決め、フォントが落ち着いたところでいざ、ペン入れです。
小3から小5までは、いかにぎっしり埋めるかが鍵だった。空欄があるのはいかがなんでしょうね? それってイケてなくないですか? だから、誰も使っていない家族PCのメアドも書きます。悪いけど送られても気づけません。
好きなタイプとかもないし恋人だっていないけど、ナメられたくないから「ヒミツ」で。持ち主への第一印象とかいう褒め言葉のカツアゲには真摯に対応し、フリースペースには「これからよろしくねン」完璧だろ。
小6のプロフィール帳は「大人っぽさと小慣れ感」
小6になると少しだけ色合いが変わる。それまでの「かわいく! 元気に! イェイ!」ってノリが落ち着き始め、マウント合戦は次のフェーズへ突入するのだ。
大人っぽさである。そして小慣れ感である。書きたくないことは書かないという大人の対応。彼氏の有無には空白が増えた。
それに加えて、知識でマウントを取り始める。好きなタイプに「ユアン・マクレガー」って書いてた私を、誰か殺してください。
このころ、プロフィール帳の書き方で参考にしていたのは習い事の先輩たちだった。合唱団に所属していた私は、中学生のお姉さんたちにもプロフィール帳を書いてもらっていたのだ。今でも覚えている。中3のアライさんと五味さん。
ふたりのプロフィール帳は圧倒的に洗練されていた。使ってるペンはハイテックC。私にはわかる。それの、一等細いやつの強めの水色とピンクをそれぞれ使っていた。
細くて華奢ながらも読みやすい、少し角張った文字は、圧倒的な大人感があった。自分の転がるような丸文字がマジでダサく感じて泣いた。アライさんは、手書きなのにすべて半角みたいな字だったし。超かっこよくね?
そして、ふたりにははっきりとした趣味嗜好があった。まったく知らないブランド名や芸能人の名前をさらさら書いていたのだ。そんなん見ちゃったらさ、私もユアン・マクレガーくらい書くよ。
同クラ男子・Nくんのかわいすぎる回答
ちなみにこの間、男子たちはどうだったかというと、マジで変化がない。
基本空欄が多く、フリースペースには「よろしく」と鉛筆で書き殴られているだけ。そう、男子は鉛筆で書くのよ。なんなら手でこすれて黒くなってたりもしたし。
私が一番覚えているのは、小3から小6まで同じクラスで、毎年プロフィール帳を渡していたNくんだ。あいつよく4年間も書いてくれたな、マジでありがとな。
Nくんはほかの男子たちと同じように記入が少なかった。でも、毎年絶対に埋まっている欄があるのだ。「好きなブランド」である。この先を読んだらきっとみんな、Nくんが好きになります。
小3 アリダス
小4 アデダス
小5 アデイダス
小6 adidas(ただし震える文字で)
くっっっっっっっそかわいいな!!!! アリダスかっこいいもんね!?!? アデダス履いてサッカーしてたもんね!?!?!?
このミスに気づいたのは私ではない。母だった。我が子がうれしそうに眺めるプロフィール帳をのぞき見した母は、娘の耳元で大笑いし始める。
「Nくん! かわいいね! 来年はなんだろね!? 見せてね!?」
私は絶対に書き間違いをしないよう、細心の注意を払おうと強く誓った瞬間である。
大人になった今、脳内にプロフィール帳を仕込んで
プロフィール帳を最後に渡したのはたぶん、中1のときだ。中2以降はたしか、前略プロフィールなんかに乗っ取られて、紙媒体での自己紹介は終焉を迎えた気がする。
でもさ、あれってほんと、本当に素敵だったよねぇ。いまだに実家に帰ると、ふとページを開いてしまう。みんなは今どこに住んでるんだろうとか、もし今もう一度これを渡したら、どんな字で、どんなことを書いてくれるんだろうとか。みんな、元気かなぁ。
そして、プロフィール帳はマジで役に立った。きちんと会話の糸口を示してくれた。正直、今のほうが必要な気がしてますよ。舞台の顔合わせの日とか、みんなに配りたいもん。絶対楽しいし。ドラマのクランクインの日に、それぞれの楽屋に置いておきたいです本当は。
両面に続くポップだけどかなり踏み込んだ質問たち。あれだけ聞ければなんとなく、どんな人かが見えてくる。「私もその映画好き!」とか「心理テストの結果はぁ〜」とか、話してるうちにきっと、本当の会話ができる。
現場で配りたいなと思うけど、まぁ十中八九イカれた奴だと思われるし、普通にみんな忙しいし。大人は大人の方法で、相手を知る必要があるんでしょう。それが何かは見つかっていない。
だからひとまず脳内にプロフィール帳を仕込んで、その順番に質問していきたいと思う。名前・住所なんかは飛ばしますから安心してね。
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