「ちょっとよかったあの日」の記憶を唯一無二の筆致で描くAマッソ村上によるファンタスチックな回顧エッセイ。『芸人雑誌』の連載を飛び出して、今回でサイバー連載第6回目。“今月のオキニのスープ”「桜エビと白菜のクリームスープ」から思い出すのは、“いい匂い”(グッドスメル)を求めて世界を旅する村上の鼻の思い出。
今月のスープは「桜エビと白菜のクリームスープ」
【材料】
・(A)水…100ml
・(A)牛乳…200ml
・(A)酒…大さじ1.5
・(A)コンソメキューブ…1ケ
・白菜…3枚
・桜エビ…鍋の中で気持ちよく遊泳してるなと思うくらい
・玉ねぎ…1/4ケ
・ニンニクチューブ…ブチュ〜〜ン
・オリーブオイル…500玉くらい
・ナンプラー…小さじ1
・塩コショウ…いい感じに少々
【作り方】
①白菜ザク切り、玉ねぎ薄切り!
②鍋にオリーブオイルとニンニクを入れて①を炒める。しんなりしたら、Aを入れる。
③5分ほど煮て白菜が柔らかくなったらナンプラーと塩コショウで味を整える。
④器によそって追い桜エビをのっけて完成!
Q.冬といえばクリーム系のスープ飲みたくなりませんか?
A.うちはなります!
てなことで作ってみました。
優しくてホッとするクリームスープもいいのですが、
今回はナンプラーというタイの代表的な調味料を入れてエスニックさを効かせてみました。
断然クリームスープが濃厚になり奥深い味わいになります。
ナンプラーはクセがあります。うちにもクセがあります。
冬の訪れを感じるのは人それぞれ。
ダウンコートを着た時、白い息が出た時、こたつを出して足をこたつに入れた時、スーパーに鍋のスープが並び始めた時、イルミネーションが街を煌めかせていて、ついつい写真を撮ってしまった時と色々あると思う。
うちは風呂上がりに足を見ると乾燥で粉吹いていた時に冬の訪れを感じる。
そして慌てて、洗面台下の扉を開きごちゃついた収納ボックスを取りだしてボディクリームを探す。
ストックのクレンジングをのけて、大量の入浴剤もどけて、美顔ローラーに「お久しぶり」と挨拶を交わし「またね」とすぐお別れを告げてようやく見つけたボディクリーム。
{ん?このボディクリームじゃない!}
まず出てきたのは安くて臭くてベタつくボディクリームだった。捨てたらいいのに、貧乏性で捨てれないでいる。今度後輩が家に来たらあげよう。
もう一つの収納ボックスを引っ張りだす。すぐにお目当のボディクリームが見つかる。“TOKYOの香り”のボディクリーム!これこれ!と左手にクリームを出して右手にもクリームをおすそ分けしてあげて、足首から上半身にかけてペンペンぺンと軽くタッチする感じでボディにクリームをつけていき、まんべんなく伸ばす。
そしてツヤツヤになった肌を見て
「イルカ〜」
と一言。おかんはツヤツヤなものを見ると「イルカみたい」といつも嬉しそうに言っていた。その表現方法をうちは受け継いでいる。なぜなら可愛いからである。
そこからボディクリームを塗った肌をくんくん嗅ぐ。大阪生まれのソースまみれ女が“TOKYOの香り”を纏うことになるなんて思いもしなかったですが、はい〜纏わせてもろてます。華やかな香りです。自分がゴーストスイーパー美神であるかのごとく長い髪をなびかせるそぶりをとり、悩ましげなボディをまた嗅いで癒やされる。
存分にボディを嗅ぎ終わると濡れ髪にベルガモット&カシスの香りのヘアオイルを付けて髪の毛を鼻に引っ張り寄せて香りを嗅ぐ、いい匂いやなと感じ取ったら「グス!」と一言。(「グス!」は“グッドスメル”の略である。)ドライヤーで髪を乾かし、乾いた髪も鼻に引っ張り寄せ嗅ぐ。ここで再び「グス!」2回「グス!」が出たら次へ。
リリー・ジャスミン・ベルガモットが入り混じった最高プレミアムな香りの柔軟剤で洗ったパジャマを着る。嗅ぐとリラックスな気分にさせてくれる。
パッケージにも「100人中85人がリラックスな気分にしてくれたと回答」と書いている。うちが販売元やったら「100人中98人がリラックスな気分にしてくれたと回答」とパッケージに書くだろう。人数が多いほど良い商品だと思われるから売上が上がるんじゃないかと思うのに、そこを“85人”と書くことによって逆に信憑性が高くなり販売促進に繋がっているのだろうか?人が“85”という数字を見てどう感じるのかを調べる為にまず“85”を調べてみることにした。ウィキペディアには「85は自然数、また整数において、84の次で86の前の数である。」と書かれていた。
「バ〜ロ〜!知ってるわい!ええ加減にせい!やめさせてもらうわ!」byたけなわ漫才師
分かりきってる“85”の情報に萎える。これ以上“85”に執着せず次に行こう!さぁ“86”を調べよう!
「ちょっと待ってくださいよ〜もう数字勘弁してくださいよ〜」by先輩にツッコむ芸人
ポンコツマーケティングはさておき、歯を磨き、口の中を爽快ミントの匂いにして、事前に布団乾燥機で布団を温めてベッドに入る。アロマウッドにジャスミンのアロマを垂らして就寝する。
たくさんの好きな香りを嗅ぎながら極楽に寝る。
だが、ときたまいい匂いといい匂いが喧嘩しあってバスになってしまう。(バスは“バッドスメル”の略である。)バスがうちの鼻腔内に入り嗅細胞を強く刺激し大脳に到着して頭痛が起こり全然寝付けないことがある。
こうなる原因は歴然としている、なんと言っても鼻がデカいからである。鼻がデカいからカービィくらい吸い込む威力がある。いい匂いだけを吸い込めればいいのだが、それ以外も吸い込んでしまうことによりバスを作り出してしまう。このせいで昔から偏頭痛がよくあるのだと最近気づいた。
産まれたてのうちを初めて見たおとんの第一声が「鼻でか」だったそうな。
それから名前が決まるまでは“鼻ちゃん”と呼ばれていたらしい。
容姿いじり全盛期ですね〜。
中学校の時に気になる男子に「スヌーピーに似てる」と言われたことがある。
当時、女子がこぞって体操服入れにスヌーピーのトートバッグを持つほど人気だった。
うちもスヌーピーのトートバッグに体操服を入れて、そそくさと学校に通っていた。スヌーピーは癒やし系でかわいいイメージだったので、褒め言葉だと思いその男子もうちのこと好きなのかなと勘違いしてまんまと恋に落ちた。すると数日後、相思相愛なんじゃないか男子に
「スヌーピーじゃなくてTHE DOGの方が似てる」
と告げられた。THE DOGは魚眼レンズで撮影された犬で、鼻がデカデカと突きだしている。
遠回しに「鼻デカいぞ」と言われてることに気づき、傷ついた。
そして鼻毛のようなしょうもない恋が終わった。
ハナクソ男子に気付かされたおかげでうちは鼻がデカいと自覚し、そして鼻デカとして自負を持てるようになった。
正月の親戚の集まりでコーヒーピーナッツを鼻の穴に入れて上に飛ばし食べるというケッタイな芸で脚光を浴びた。さらに鼻の穴で何か出来ないかと考え小銭を鼻の穴に入れてみることにした。その名も人間貯金箱!小銭を親戚から募り、鼻の穴に小銭が入ればうちが貰えるシステムを構築する。
まずは1円。するりと入った。そして10円。入るよね〜!50円も入り、100円もそりゃ入る!そして500に挑戦!右穴にギリギリ入り!さぁ〜左穴にも500円を入れますよ!寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!と勢いよくグリンと500玉を左穴に入れると鼻血が吹き出した。血が出てみんなが「あ〜あ〜」となり、おかんの「アホちゃうか」が出たところで終了。トータル2156円儲けた。うちのアイデンティティは鼻になった。
もう血を流すのは勘弁なので、嗅ぐことに専念するようになる。
テレビで犬の肉球がポップコーンの匂いがするという情報を手に入れたので早速愛犬のノーティの肉球を匂いかかる。前足を触ろうとするとすぐ振りほどかれる。ノーティが寝転がっている横にうちも寝転がってノーティが油断してる隙に肉球に鼻を運ぶ。う〜ん香ばしポップコーンの匂い!1週間ほど、毎日のように肉球を嗅いでいると、ノーティが嫌気が差したのかうちの顔をおもいっきり踏んできた。うちの鼻にノーティの爪が当たり左鼻翼にかすり傷ができた。また血が出たのでノーティの肉球を嗅ぐことをやめた。流血せず嗅げるいい匂いなものはないかと探す。
そういえば人の匂いをわざわざ嗅いだことないかもと思い人間の匂いを嗅ぎたいと思った。
目の前に妹がいたのでお願いしてみる。
妹は少しぽっちゃりとしていてうちが噛むのにハマっていた時に「腕美味しそうやね、噛ませて」とお願いすると、真顔で腕を差し出してくれる優しい娘なので今回も「全身匂わせて」とお願いしてみる。すると真顔で「いいよ」と即承諾。くんくん嗅いでいると見つけてしまう。脇だ!ジメッとしていて少し酸味のある匂いがたまらなくいい匂い。しかも脇に鼻先がフィットしてここに住みたいと思うほど安心感がある。他の家族の脇も嗅がせてもろたが、みんな違う匂いでいい匂いじゃなかった。妹の脇の匂いが一番うちの嗜好に合うので、暇があれば妹の脇に挟まりにいき嗅ぐのを懸命に取り組んだ。
しかし長くは続かなかった。妹がうちを避けだすようになり、鉢合わせた時には妹が脇を締めて「私の脇はなくなりました。もう挟まれません。」と言い逃げて行くようになった。それでも執着して妹の脇に無理矢理忍びこもうとしてみると肘でグンと跳ね返されたが負けずに鼻先を脇めがけて突っ込んでいくとまた肘でグンと跳ね返される。それを何度も繰り返していたら、ほれみたことか鼻血がタランティーノ。うちの脇嗅ぎはここでEND。またも振り出しに戻る。
流血せず嫌がられることもなくたらふく嗅げるいい匂いなものはないのかと探す。
手当たりしだい目についたものを嗅いでみる。靴を匂いオエ〜。タンスの中を匂いオエ〜。油性マジックを匂いラリ〜。なかなかうちの趣味嗜好の匂いに出会えない。テーブルの上に和菓子屋さんの紙袋があったので顔を突っ込んでみる。一瞬にして世界が変わった!コレや!甘くてさっぱりした匂いでグスー!グスー!グスー!
紙袋もいい匂いなのだが、和菓子の箱を包んでいる包装紙の匂いのがすんごくいい匂い!(余談なんですが、包と匂って漢字似てるね。)
そこからは家にある包装紙を嗅ぎ比べ、好きな匂いの包装紙を選りすぐって好きな匂いの紙袋の中に入れてコレクトした。包装紙の香水があればすぐに買いに行くのにな〜と思いながら包装紙を手首に擦りつけてみたりもしていた。
しかしこれは人間の性なのでしょうか?簡単に手に入れられるものはすぐに興味を失ってしまう。週数間して飽きてしまい、いつの間にかおかんにゴミだと見なされ古紙回収に出されていた。無くなっていることに半年くらい気づかなかった。
今はお弁当の蓋の内側の匂いを嗅ぐのが好きで、楽屋に用意されているお弁当の蓋を食べる前に嗅いでいい匂いなら今日はラッキーDAYとしている。
これからの人生もデカっ鼻がある限りクンカクンカ珍道中は続くだろう。
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