「スベり過ぎて鳥肌が立っていた」
2組目のママタルトのネタは「中華料理店」。漫才中、ツッコミの檜原洋平が客席中央のカメラをまっすぐ見据えてしゃべる姿が印象的だった。ライブ配信という特殊な状況に合わせて、芸人たちもそれぞれ細かく演出を工夫している。
3組目のザ・マミィは「オネエ」のコントを披露。オネエに扮した酒井が力任せの“パワーギャグ”を連発し、誰もいない客席がさらに静まり返る。もちろんギャグがスベるのはコントの設定上の演出なのだが、相方の林田洋平によると「スベり過ぎて酒井の腕に鳥肌が立っていた」そうで……。
慣れない空気を乗りこなすために試行錯誤しつつ、1本目のネタを終えた3組。ステージ上で配信中の視聴者のコメントを読み上げながら、無観客でのネタの感触を振り返る。リアルタイムでファンの感想が読めるのも、生配信イベントならではのこと。視聴者数も2000人を超え、気を取り直した酒井は「時代が動いた感じがしますね」と感慨深げに話していた。
ママタルトとザ・マミィも独自の世界観で笑いを生む
2本目もかが屋、ママタルト、ザ・マミィの順にネタを披露。1本目でそれぞれ感触を掴んだのか、かが屋の演技にもさらに熱が入り、普段のライブと同じように生き生きとした表情を見せていた。配信スタッフも取材班も遠慮なく笑い声を上げ、大きな拍手を送る。
ネタブロックのトリを飾ったザ・マミィは、中年男性のルームシェアを描いた新ネタを披露。もともと企画していた新ネタライブが中止となり、やるせない気持ちを抱えていたふたり。その鬱憤を晴らすかのように、ドラマチックなコントを見事に演じ切った。
またお笑いライブが再開したら
トラブルなくすべてのネタを終え、エンディングで再び3組がステージに集まる。ネタ時間が20分も押したため、予定していたトーク企画が飛ぶなどイレギュラーな展開となったが、舞台の上で全力を出し切った芸人たちは晴れやかな表情を浮かべていた。
ある人は自宅のリビングで、ある人はいつもより乗客の少ない電車の中で、この配信を観ていただろう。画面の向こうにいる芸人たちの姿は、どんな風に映っていただろうか。
お笑いだけではなく、エンターテインメントに関わるすべての人が苦境に立たされているのが現状だ。そんななか、新たなチャレンジに踏み切ったかが屋のふたり。芸人たちは今まさに、先行きの見えない不安と戦っている。それでもなお多くの人に笑いを届けようとする彼らの姿を劇場の端から眺め、思わず胸が熱くなった。
今回の試みは芸人仲間からも注目され、かが屋の元には配信後に多くの芸人から「どんな感じだった?」と感触を聞く連絡があったそうだ。さらにこのライブの好評を受け、3月20日(金)には第2弾の生配信も決定している。
お笑い業界の最大手である吉本興業も劇場からの生配信をスタートしたが、自粛ムードのなかで舞台に上がれない日々を過ごしている芸人はまだ多い。
またライブが再開したら、今度は満員の劇場で彼らのネタを見たいと思う。きっとそのときは、今日よりもずっと大きな声で笑うことができる。