かが屋・加賀&放送作家・白武ときおの【エロ自由律俳句|第10回後編】メモリアル回のゲストには短歌の世界から東直子が


東直子の5句

【東直子の句①】
日が射してくる米をといでる

夜に何かがあって、あまり熟睡することもできず「あー、もう朝が来ちゃったんだ。米でも研ぐか」という情景です。夜の延長線上にいる朝というか。

一軒家ほど広い部屋ではない、アパートなのかな……それもちょっと平成っぽい。そこに女性がひとりでシンクの前に立っている。とても眠たそうなのが感じられて素敵です。

朝がやってきたことの新鮮さは感じつつ、まだ夜のだるさを引きずっている。

まどろみにいるんですよね。でもお米をセットして炊飯器のスイッチを押すことでパチっと切り替わりそうな予感もします。そこでやっと日常に戻っていくような。

米を研ぐのってエロティックじゃありませんか?

わかります。どんどん透き通っていく様子ですよね。エロというと濁りのほうがイメージされがちですけど、水が澄んでいくのもエロい。

尾崎放哉の自由律に【入れものが無い両手で受ける】という句があるんですが、ひとつの句の中で文章がふたつ重なっている構造が好きなんですよ。

僕も好きです。

あの構造いいですよね。俳句だと【や】とかで切れちゃうので文章を並列させるのが難しいんですが、自由律ならこれができるなと思って。

これもエロ自由律俳句の看板があるないでは全然印象が変わってきますよね。

【東直子の句②】
わたしたちの雪どけ水のゆくえ

お二人はどのように受け取りましたか?

僕はけっこう直接的に読んでいました。ケンカしたあとってめっちゃ盛り上がるよねという受け取り方がひとつと、春が来ましたよっていう、恋の始まりのたとえにも読めるなと。

どちらも素敵な読みですね! 白武さんはどんなふうに読みましたか?

まだ掴み切れてないですね。雪どけ水が仲直りみたいにポジティブなことを表現しているのか、それとも関係性さえも溶けていっちゃうネガティブな方向なのか。

今は夜の空そのものになったような一体感を感じている(前編を参照)“私たち”だけど、これからどこへ行くんだろうという不安もある。雪どけ水ってちょろちょろと流れていくので儚いんですよね。このままどこかいいところへ流れていけたらいいけど、別れてしまうかもという期待と不安が入り混じっている状況を思いました。

ダスティン・ホフマンの『卒業』が近いニュアンスなんでしょうか。花嫁を奪い返せたけど、このあと待ってる二人の未来が明るいものかどうかはけっしてわからない、みたいなエンディングでしたよね。

ふたり共、最後のシーンで神妙な顔してましたもんね。

最近の僕はこんな感じですね。雪どけ水のような生活を送っています。今は楽しいけど、この先に春が来るのか。

【東直子の句③】
梅雨の晴れ間の眉間の蠢き

すごく好きな句です。メロメロ大好き!っていう気持ちがすごく伝わります。

曇りがつづいている中で急にぱっと晴れると、特別な眩しさがありますよね。それに反応して眉が動いてしまう。

それを“うごめき”と表現しているのが、あまりに相手に集中し過ぎている……ぎゅーって食い入って見てるようで素敵です。

これもポジティブとネガティブの曖昧さがあるように思いました。どんよりしてたところに現れた晴れ間はよいものなのか、もしくは生活を乱すギョッとするものなのか。

確かに、好き過ぎて集中し過ぎてるのかなっていう第一印象でしたけど、逆にいうと不安だから集中している可能性もありますね。心配のあまり相手を観察し過ぎてしまう。

あんまり感情については考えていませんでした。このエロ自由律俳句の連載を読んでいるときに、加賀さんが片眉を寄せてるような写真があって。そこから着想を得たんです……加賀さんの眉毛、すごく動きませんか?

僕、眉毛がすごい蠢くんですよ。

芸人の中で一番表情筋を動かせる男。1000の表情を持つ男ですから加賀くんは。

読者の皆さんも探してみてください。東さんに一句作らせてしまった俺の眉間のうごめきを。

【東直子の句④】
手帳の端をゆっくりちぎる

電話番号とか、何かをメモしなきゃってなったときに手元に紙がなくて、しょうがないから手元の手帳でってちぎる様子が色っぽいなと。

ドキドキしますね。

「え、いいの?」っていう背徳感と、私のためにちぎってくださるなんて、という感情がないまぜになります。

キュンとくるのと同時に、僕は「あ、怖い人だ」って身構えてしまいますね。この人を好きになってしまうとよくなさそう。

目的のためなら手段を選ばない狂気性も少し垣間見られます。それが色っぽさだと思うんですが。

これってゆっくりなのがポイントで、ジャッてちぎられると嫌なんですよ。手帳がダメにならない程度に丁寧にゆっくりと。ある程度思いやりを持ってちぎってほしい。そのゆっくり感が色っぽい気がして。

昔、コンビニでバイトしていたときに忘年会があったんですよ。僕はその忘年会が嫌過ぎて、せっかく店長が派遣のバイトさんを雇ってくれてたのにシフトに入って働いてる時間があったんですね。そのときに派遣の人に……2、3個上の女の人だったんですけど、終わり際にレシートにバーッて連絡先を書いて渡されて、「これ私の連絡先だから連絡して」って言われたのを思い出しました。

モテてますねえ。

マジで忘年会来てよかったって思った記憶が蘇りました。

僕も昔ベローチェでバイトしてる女の子と付き合ってて、その子はかわいいからサラリーマンのおじさんとかからめっちゃ連絡先を渡されるのが大変だって言ってたのを思い出しました。

それは受け取らないでつき返すんですか?

たぶんレジ横のゴミ箱に捨ててたんじゃないかな。それを聞いてるから自分からこういうことができないのかも。

ちぎって捨てられる運命を予測できていると切ないですもんね。

【東直子の句⑤】
結露に書いた文字のしたたり

結露した窓に、ふざけて何か書いたりしますよね。時間経つとそれがとろーんと下のほうに溜まっていく。

いいですね、残らないあの一瞬だけっていうのがいいのかな。

「好き」と書いても、それがたらんと垂れると崩壊を予言している感じもあって。さっきの【雪どけ水】と同じように、二人の関係性の中に少しだけ不安もある。

“したたる”はセクシーですよね。東さんには透き通った水、という印象を感じることが多いです。

短歌でもモチーフとして水を使うことは多いです。米の句もそうだし、梅雨もそうですね。エロ自由律俳句も水がポイントなのかも。

これを読んで、電車の中だったらいいなって思いました。僕の地元の電車は横並びのボックス席なんですけど、同じ列に二人で座っていたら窓に文字書くときに片方は絶対窓のほうに身を乗り出すじゃないですか。その距離感というか光景がうらやましい。

なんていう文字を書いたのか、人それぞれ思い出が違いますもんね。

“好き”とか書いてみたいな。もう一生書かないだろうな。

今すぐ書いてもいいんですよ。

お風呂場で。

以上が東さんの10句でした。たくさんいい話を伺うことができました。

作るのも人の句を読むのもすごい楽しいですね。

うれしいです。読者の皆さん、東さんもこう言っていますよ?

かが屋・加賀&放送作家・白武ときおの【エロ自由律俳句|第10回後編】メモリアル回のゲストには短歌の世界から東直子が
左から、東直子とかが屋・加賀

白武の5句

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福田 駿

(ふくだ・しゅん)1994年生まれ。『クイック・ジャパン』編集部、ほか『芸人雑誌』編集も担当。

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