マシンガンズの最高の負け様『THE SECOND』“遊び”に満ちた賞レース

マシンガンズ

(C)フジテレビ

文=てれびのスキマ 編集=菅原史稀


テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。

THE SECOND』(5月20日放送)

立木文彦ナレーションの、これぞフジテレビの煽りVTRというオープニングで始まった今大会。「彼らは今、全盛期」というコピーが痺れるし、そのBGMがこの大会のコンセプトにぴったりで完全にテーマソングのようになったTHE YELLOW MONKEYの「バラ色の日々」だったり、出囃子が10-FEET「2%」で、決勝戦ではNetflix版『火花』の主題歌であるOKAMOTO’S「BROTHER」に変わったり、決勝審査発表前の大会ハイライトのBGMが「今日ですべてがむくわれる/今日ですべてが始まるさ」と歌う泉谷しげるの「春夏秋冬」だったり、無骨なほど制作者の熱い思いがダダ漏れになっているのがとてもよかった。

そうなると悲愴感が前面的に出た雰囲気になりそうなところ、全編ベテランならではの余裕が感じられて“遊び”に満ちていたため、お祭りのような雰囲気で多幸感があって4時間超の長丁場でもずっと楽しく観られた。

基本的にノックアウトステージ(予選)と同じ審査システムで行われたが、大きな変更は、採点のタイミング。1組ごとではなく2組が終わった時点で採点するため、予選のときほど後攻有利という感じはなく、絶対評価を呼びかけていたが相対評価をしやすくなったため、点差がつきやすくなったように感じた。

けれど松本が「お客さんのジャッジはしっかりしてるな」と言っていたように、首を傾げるような審査はほとんどなかった(松本の評価はもちろん、ネタ後の本人たちの振り返りコメントなどはあと回しにして、採点が終わるまでネタ以外の要素を入れないようにしているのもよかった)。観客審査だったことで、従来の賞レース的には“禁じ手”に近いものも評価されることで、これまでとは違う味わいになったのではないか。

囲碁将棋
囲碁将棋(C)フジテレビ

やはり今大会一番のハイライトとなったのは、準決勝第2試合の囲碁将棋vsギャロップ。松本が「一番悩むよね」と言ったとおり大激戦。先行の囲碁将棋がマシンガンズと並ぶこの日の最高得点「284点」を獲得。思わず文田が「勝ったっぽい」と呟くが、囲碁将棋のネタを見て急遽3本目のネタと入れ替えたというギャロップが同じ「284点」で、まさかの同点。3点の人数が多いギャロップが辛くも勝利となった。

正直、さすがにこのギャロップの漫才に1点は厳し過ぎると思ったので1点を切り捨て、3点が多いほうを勝ちとするルールは理にかなっているなと思った。文田「皆さんに“事実上の決勝”だったってたくさん言ってもらって、仕事が増えるようにしてほしいです(笑)」。

マシンガンズ
マシンガンズ(C)フジテレビ

決勝はマシンガンズvsギャロップという対戦に。大会冒頭に松本が『M-1』に比べて2分多い6分というネタ時間について、「単純に+2分って考える人もいると思いますけど、2分間でどう“遊び”を入れていくかっていう6分」と言っていたが、まさにその遊びの部分を最も体現していたのがマシンガンズ

「もうネタがない」と言いつつ「ずいぶんと派手な決勝になりましたね」「事実上の決勝はもう終わりましたからね」「ネタがないのにここに立ってるメンタルってすごくないか?」などとアドリブ満載のツカミ。

いや、ツカミだけではなく「ちょっとまあ……ふわふわしたけど」「ちょっと笑いが少なくなってきましたね」などと出来に自分たちでツッコんだり、「どこのバカが賞レースの決勝で(ネタを)引き伸ばしてんだよ! 詰めろ、詰めろ! イオンに営業来てんじゃねぇんだぞ」「まだまだ時間があるからもう1個やるか」など、むしろアドリブの部分のほうが多いんじゃないかという、“競技漫才”とはまったく違う、ライブ感満載でふたりの人間丸出しの漫才を披露。

ギャロップ
ギャロップ(C)フジテレビ

対するギャロップは、真逆な考え方の漫才。やはり松本がネタ時間について、先につづけて言った「間とかテンポとか緩急をつけることができる」という部分を体現していた。準決勝までの平場で「林の背中がおもしろい」という流れがあったため、ツカミなどに背中で笑いを取ることもできそうなところ、そこは使わず、あくまでも6分間の、考え尽くされた緩急と構成力で爆発的な笑いを取っていく。観客の審査コメントで思わず「お疲れ様でした」と言ってしまう気持ちがよくわかる、2組のこれまでのキャリアが凝縮された決勝戦だった。

そして、採点結果発表。マシンガンズはまさかの「246点」。この日の最高得点と最低得点を叩き出す奇跡。審査員が急に正気を取り戻して「漫才」としての完成度に点数を入れたみたいな感じがして可笑しかった。西堀の「低くないですか?」という言い方も最高だし、勝利を確信した林が思わず「……うれしいです」と言ってしまうのも笑ってしまった。結果はやはりギャロップが上回り優勝。けれど、マシンガンズにとっては一生ネタにできる最高の負け様だったのではないか。

優勝を決めたギャロップ
(C)フジテレビ

松本が「誰も損しない大会だった」と言っていたとおり、1回戦で敗れた組も含めてみんな持ち味を発揮していたし、初回からこんなにもとどこおりなく、不満もストレスもほとんどない賞レースは、ホントにスゴい。

毛利の「劇場の出番があんまりなかったんですよ。漫才やりたいのにすごいショックで。これ獲ったら出番増えるでしょ?」という、漫才師のプライドに満ちた優勝コメントもよかった。林「くすぶってるみんな、夢めちゃくちゃあるよー!」「まだまだ行ける!」。

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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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