年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く──まさに「お笑いに生かされている」という言葉がふさわしい、19歳・タレントの奥森皐月。
今回から新連載「奥森皐月のお笑い事件簿」と題して、彼女が見つけたお笑い界隈の事件やトピックを毎月お届けする。今月は、決勝直前の『THE SECOND』、4月にオープンした「大喜利カフェ」のすごさを語る。
お笑いは「コアな趣味」なのか?
「お笑いが好きです」と言うと、「コアな趣味だねぇ(笑)」なんて言われることがある。返す言葉がなくて適当に返事されているだけならよいのだが、もし本気でそう思われているのであれば少し違うのではないかと言いたい。
お笑いほど入口が広いものもなかなか珍しいと思う。あまりにも定義が曖昧だから、どこからがお笑いかと考えるのすら難しい。
漫才やコントは「お笑い」という言葉から連想しやすい。しかし、テレビでもラジオでもYouTubeでも演芸場でもライブハウスでも文章でもSNSでも「お笑い」はある。
お笑い自体の範囲が広がりつづけていることもあって、今は「おもしろいもの」の総称を「お笑い」と言っているような。「笑い」に「お」がついただけの不可思議な単語がここまで広がっているのは変だ。でも、だからこそ、おもしろいのかもしれない。
私は本当に広い意味での「お笑い」が好きだ。芸人ラジオを週20本聴いていますとか、お笑いライブに年間100本以上行っていますとか、わかりやすいように説明してきた。けれど実際はもっとシンプル。お笑いが全部好き。
テレビのゴールデンタイムのバラエティでも、お客さんが3人の劇場でも、深夜のラジオでも、文字媒体でも、同じだけ楽しんで笑いながら日々を過ごしている。
今回からは、お笑いと共に生活し、お笑いに生かされている私が、最近の「お笑い」にまつわる事件や情報を毎月紹介していく。ビッグニュースはもちろん、目撃者が限られている事件についても書く予定なので、まとめサイト感覚で読んでいただきたい。
【お笑い事件簿・その1】『THE SECOND』決勝戦が始まるよ!
今月の大イベントといえばやはり『THE SECOND~漫才トーナメント~』の決勝戦が放送されることであろう。彗星のごとく現れ、お笑い好きを震撼させた新生賞レース『THE SECOND』は、予選からとにかく注目度が高かった。
結成16年以上で『M-1』に出場できなくなった芸人さんがスポットライトを浴びる機会という、お笑いファンなら一度は考える夢の舞台がついに実現。知名度のある芸人さんも続々出場することが決まり、予選の座組みを見るだけでよだれが止まらなくなる豪華さだった。
レイザーラモンやトータルテンボスといった名の知れたコンビや、三拍子や磁石などの有力候補といわれていた組が選考会の時点で敗退し、「どうやらガチだ」という声がちらほら聞こえた。
目の前のお客さんをどれだけ笑わせられるか競うというのは、冷静に考えてカッコよすぎやしないだろうか。刹那的なのに底知れぬ熱量がある。それも、16年以上お笑いに人生を捧げている人たちの本気だ。こんなにもアツいものを楽しませていただいていいのだろうか。
開幕戦ノックアウトステージでは、ランジャタイvsインポッシブルのイリュージョン対決や、東京ダイナマイトの欠場による金属バットの不戦勝など、またもや胃もたれするほどのドラマチックな展開が多発。
公式ホームページに載っているトーナメント表を見るだけでお腹いっぱいになれる。これを見ながらお笑い好きで集まろうものなら、朝まで語り倒せることであろう。
出場者の芸歴に応じて、熱中しているファンの年齢層も普段のお笑い賞レースに比べて若干高いように見受けられる。お笑いをずっと愛している人だけで形成されているような空間に、興奮が止まらない。
先日、ついに決勝戦となる「グランプリファイナル」に進出する8組とそのトーナメント順が決定した。
トップバッターが金属バットになる波乱の幕開けだが、最高の大会になる予感しかしない。誰よりもトップなわけがないコンビが1番を引き当てるのだからおもしろい。
『M-1グランプリ』が復活した2015年のトップに、ダークホースのメイプル超合金が出てきたときのどよめきは未だに忘れられない。ワクワクして仕方ない気持ちを今から想像して、笑みがこぼれてしまう。
吉本興業が制作に関わっている大会で、8組中4組が吉本以外の芸人さんというところにもガチさが表れていてよい。
好きな芸人さんばかりの決勝なので誰が優勝してもうれしいのだが、個人的に一番応援しているのは囲碁将棋だ。漫才師の中でもカリスマで、芸人さんが憧れる存在でありつづけている。
しかし『M-1グランプリ』では、一度も決勝に進まぬまま芸歴制限を迎えてしまった。その後も常に最高の漫才を更新していて、私も劇場で幾度となく涙を流すほど笑わせてもらっている。「漫才師のセカンドチャンス」を謳う大会となると、やはり囲碁将棋を応援したくなってしまう。
先日放送されていた『しくじり先生』にて、囲碁将棋のふたりが「テレビバラエティに出演しても55点の振る舞いしかできない」と吐露していたが、『THE SECOND』の決勝ではきっと100点の漫才を披露してくれると思う。それで優勝したら55点で全部のテレビに出演してほしい。
5月20日の19時から4時間超えの生放送。楽しみで仕方ない。来年以降も開催されてほしいのでみんなで観よう。絶対。約束。
【お笑い事件簿・その2】「大喜利カフェ」が現れた!
ここ数年で確実に人気が高まっているお笑い文化の中に「大喜利」があると思う。
『笑点』や『IPPONグランプリ』など、地上波での大喜利の番組はこれまでもあったものの、最近は新たな広がりを見せている。
大喜利だけを投稿しているYouTubeチャンネル『大喜る人たち』や、大喜利専門YouTuber「こんにちパンクール」が人気を博したり、TikTokで大喜利がバズったりと、大喜利が身近なものになっている。
気軽に投稿できるネット大喜利をする人も多くいて、芸人さんではなくても大喜利をできるようになった。
「生大喜利」と呼ばれるジャンルもある。人前でお題に対する回答をホワイトボードに書いて出すもの。お笑いが好きだとか芸人になりたいとかではなくても、社会人の趣味として大喜利ができる。
大喜利が好きな人で集まって会を開いたり、300人弱がエントリーする大会が行われたりと、その在り方は多様化している。この文化自体は最近できたものではないようだが、前述したような要因が重なり、知名度が上がったことで人口が増えている。
大喜利界で有名な人がライブを開催したり、『ニコニコ超会議』内で大喜利大会が開かれたり、テレビに出演したりと、日々活性化しているように見受けられる。
私も、この空前の大喜利ブームを楽しんでいるうちのひとり。もともと大喜利を観ることが好きだったが、いつの間にか自分もプレイヤー側をするようになり、大喜利ライブにおじゃまするまでになっている。一介のタレントが大喜利をすることを許される世界がここにある。
そして2023年4月にはついに大喜利カフェなるものが誕生した。そこに行けば誰でもすぐに大喜利ができるという嘘のような本当の話。ボードゲームカフェや将棋カフェの誕生につづいて、秋葉原にオープンした世界初の大喜利カフェ「ボケルバ」に先日足を運んでみた。
予約制ではあるものの、満員でなければ飛び入りでも参加可能で、13時からの昼の部と18時からの夜の部に分かれているため、暇つぶしでも仕事帰りでも立ち寄れる。私が訪れたのは平日の昼の部だったのにもかかわらず、自分含めて7人が大喜利をしに来ていて驚いた。
ドリンクを注文し、ボードとペンを借りて席に着く。モニターに出されるお題に沿ってゆったり大喜利が始まる。
もともと大喜利会などで大喜利を経験していた人もいれば、たまたまこのカフェを知って大喜利デビューしたという人もいておもしろかった。何ひとつ道具をそろえる必要がないので、初期投資が必要ない趣味だと改めて思う。
店員の方がMCとなってお題を変えたり、指名をしたりしてくれるので、回答を思いついたら挙手して答えるだけ。真剣に取り組んでもいいし、ほかの人の回答を楽しんで観ていてもいいし。
「ウケたらラッキー!」という触れ込みではあるが、誰がなんと答えてもかなりおもしろいので、ずっと楽しかった。慣れている人がおもしろいのはあるが、初心者の方の回答もおもしろいし、誰が行っても楽しめる気がする。
それに、おもしろい人に自分の回答で笑ってもらえるとめちゃくちゃうれしい。こればかりは体験しないことにはわからないだろうが、かなりの爽快感でストレス解消にもつながるような気がした。
頭も使うし、ほんとよい趣味だ。お年寄りとかにも流行ってほしい。おじいさんと大喜利したい。
人数が多い日は対戦形式で1位を決める場合もあるとのこと。今度は休日にでも行っていろいろな人の大喜利を観たいと思う。
改めてすごい時代。大喜利がボウリングぐらいの感覚になったら日本がだいぶおもしろくなるだろうから、少しずつ普及したい。
来月はどんな「おもしろいこと」に出会えるのか
日々お笑い界が進化しているおかげで、生活が豊かだ。そしてこの連載に書くことも尽きなそう。
この感謝をどこの誰に伝えたらいいのかわからないのもまたおもしろい。おもしろいことばかりだということを伝えるのを使命としてみよう。
ここから1カ月のことを思い浮かべて、胸が高鳴る。
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