テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。
『M-1グランプリ2022』
「敗者復活戦」のトップバッターはまさかの社会人男女コンビ・シンクロニシティ。ローテンションの彼らは野外での敗者復活戦は不利だが、お昼の出番順抽選回では、よしおかがボソッと「日が暮れないうちにできてよかったです」と言って「1番引いた史上一番ポジティブ!」とノンスタ石田に驚かれていた。ネタでもしっかりそのよさを見せつけていた。
個人的には森山直太朗の「生きとし生ける物へ」をしりとりとして歌い上げたダンビラムーチョが印象に残った。また「敗者復活の貫禄じゃない」(by石田)かもめんたるもインパクトがあった。ネタ以外のトーク部分では視聴者採点の途中経過の平均が最下位だったママタルト檜原が「じゃあこの僕らの81点は、みんなが好きに使うといいですよ」「この激戦の明暗を決めるのが、このあと僕が配る点数ってことですね!」と終始朗らかに言っていたのがおもしろかった。大鶴肥満と合わせてポップなテレビスターの雰囲気を漂わせて来年さらにバラエティを席巻しそう。
あえて定番の『ドラえもん』をモチーフにして、その高いハードルを凌駕した令和ロマンをかわして「復活」を果たしたのは、やはり前回準優勝で抜群の知名度と物語性のあるオズワルドだった。
そして「決勝」。いつものようにカッコよくて胸に迫るオープニングVTR。今回の「俺たちが一番おもしろい」枠は、さや香・新山。今年初めて紳助、上沼を継ぎ手前端の審査員席に座る松本人志は「今回俺もドキドキしてて」「どんどん年長になってきたからかな」と緊張感を漂わせる。対して初めて審査員に加わった山田邦子は『水曜日のダウンタウン』での「しんどい先輩」ネタをイジるなど、この場を目いっぱい楽しんでいる感じ。復帰した大吉は「太田さんのせいですよ!」と叫ぶ。
トップバッターはカベポスター。いきなり得点がなかなか出ないトラブル。これに「焦っちゃったんで5点マイナスにしちゃった」と松本がボケると永見が果敢に「絶対に許されない」「人生なんやと思ってんの?」とツッコんでいく。山田邦子はひとりひと際低い84点。つづく「アンコントロール」というキャッチフレーズをつけられた真空ジェシカに11点も高い95点を与えて悪目立ちしていた(が、全体として見ると破綻のない審査をしていたように見えた)。逆に松本は「ボケに対するツッコミが大き過ぎる」「声のバランスが逆ならいい」と低評価。
まず最初の爆発が起きたのが4組目のロングコートダディ。マラソンをモチーフにWボケで走りつづけるコント風味のある変化球の漫才。オープニングVTRにあった、なぜか漫才で足がつっているシーンの謎が解き明かされる。「いい根性してるよね。この大舞台でこのネタ放り込んでくる。ずっと縦(の動き)で漫才を見せていくっていうのが」と松本も絶賛。「兎やし競争でかかってるのかな?」と言うと兎「かかってます!(笑)」。
塙と大吉は称賛しつつも20秒残しの短めのネタ時間に言及していたのも印象的だった。堂前「ネタ合わせし過ぎてふたりの足が速くなってしまって(笑)」。
つづくさや香は一変してこれぞしゃべくり漫才というかたちでロコディを一気に上回りトップに。「ボリュームから言ってることまで全部我々がそれを言ってくれっていうツッコミにシンクロしていくうまさ。いやー、気持ちよかった。美しい漫才」と松本。塙「佐賀のことをイジったのでプラス5点にしました(笑)」。
男性ブランコは「音符を運ぶ」というシュールなネタ。「おもろいわ、こんなん大好きやねん」と松本。この怒涛の3本が本大会にうねりを起こしていたように思う。大会後配信された『打ち上げ』では大悟が「浦井、意外と志村さんのコントできるタイプやろ?」と評していた。
その打ち上げでは最下位に沈んだダイヤモンドや9位のキュウに「来年オモロなるのは10位と9位」(大悟)、「大舞台で結果が出ないって大いなる財産」(ノブ)と、『M-1』で結果がなかなか出なかった千鳥だからこその説得力あふれる優しい言葉をかけていたのがとても素敵だった。
そして、審査員全員が頭を抱えたヨネダ2000。「イリュージョン。女版ランジャタイ」と志らくが評せば、富澤も「ランジャタイがいなくてホッとしてたのにー!(笑)」。
笑神籤はなかなかタイタンの2組を出さず、結局キュウが9番目、ウエストランドがトリというなかなか考えられない出番順に。結果、キュウは、清水が『打ち上げ』で言っていたように、結成9年目、ネタ順9番目、順位9位、ネタ終了時間が9時9分、と「9」に彩られるかたちに。そして最後の最後でぴろが「松本さんの点数低かったんで……太田さんの事務所だからかなぁって思っちゃいました」とぶち込むと松本「いや、マジマジ(笑)」。
「観てた人が奇跡的に誰ひとり怒ってないことを祈るのみ」(井口)という毒舌漫才を最後に披露したウエストランドは男性ブランコをかわし最終決戦へ。富澤「このネタで笑ってるって人は気持ちのどっかでそれがあるってことですから、共犯だなって」。
そのウエストランドが最終決戦の1本目に。つまり2本連続でウエストランドの漫才。『打ち上げ』でも「連続でできたことがよかった」と振り返っていたとおり、フォーマットがまったく同じネタを選んだことで結果的に相乗効果が生まれることになり、コント系漫才のロコディ、しゃべくり漫才のさや香を勢いとパワーで制し、見事優勝。惜しくも優勝を逃したさや香に『打ち上げ』で大悟が「お前ら、漫才師のカッコよさ見せたで」と声をかけていたことに胸がいっぱいになった。
漫才中、「『M-1』もウザい! 『アナザーストーリー』がウザい! いらないんだよ! 泣きながらお母さんに電話するな!」と井口が腐していた『アナザーストーリー』の演出を昨年まで担当していた下山航平氏が決勝の総合演出になった今回、ウエストランドが優勝するというのがおもしろい。果たして『アナザーストーリー』で泣きながら電話するシーンが出るのか、楽しみでならない。2020年の決勝のネタ中にあった「お笑いは今まで何もいいことがなかったヤツの復讐劇なんだよ!」という言葉を体現するかのようなリベンジ劇。優勝決定の瞬間、涙を流す河本に「こんなにセリフも少なくてネタを飛ばしたヤツがなぜか大号泣してるんで、今日いろいろ言いましたが、それが一番腹立ちますね」と笑う井口。井口は『大反省会』や『打ち上げ』でも、まったく浮足立つことなく、いつもの感じを貫いていて頼もしかった。
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【連載】きのうのテレビ(てれびのスキマ)
毎夜ライフワークとしてテレビを観つづけ、テレビに関する著書やコラムを多数執筆する、てれびのスキマによる連載。昨日観た番組とそこで得た気づき、今日観たい番組などを毎日更新で綴る、2021年のテレビ鑑賞記録。
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