銀シャリ・橋本直は「パーフェクト芸人」。鰻が心酔する日本語力、リズム、声量、センス、センサー【魅惑の相方 vol.3】


初めてのネタ合わせから楽しかった

──銀シャリさんは、鰻さんからお誘いして結成されたんですよね?

 そうです! NSC出て2、3年は別のコンビでやってて。橋本の元相方と僕が仲よくて、飲んでるときに「ビールズ(橋本の元コンビ)解散するかも」って話を聞いて、ちょうどそのとき、僕も当時のトリオ(ポジションパーラーすえすえ)を解散するときで。そいつから「お前橋本合うんちゃう」って言われたんですよ。僕のことをよく知るそいつが言うんやったらって思って、橋本の番号聞いて「ご飯行けへんか」って電話しました。

──その一回目のご飯で、橋本さんにご飯をごちそうしたという話は本当ですか?

 本当です。アイドリングトークで「最近誰かと組もうと思ってんの?」って聞いたときに、「実は3、4人から誘われてて、1カ月ごとに全員とやってみようと思ってんねん」って言われて。そんなんやってたら、僕4カ月後になるやん! それはちょっとキツイなって思ったから、橋本がトイレ行ったときに会計払って、「会計払っといたで。だから最初、俺からやってや」って(笑)。

──なんかちょっとズルい(笑)。

 ズルいです(笑)。橋本からしたら順番は別にそこまで気にしてない感じだったので「まずはやろか」と。

──そのご飯が、初めてふたりでゆっくりお話しする機会だったんですか?

 会ったことはありましたけど、しゃべったことはほぼなかったですね。

──共通の知り合いから「合いそう」と言われただけでは、なかなか「組もう」までは決められないと思うんですが……。

 僕、そのときすでに何組か解散してて。それって、自分の相方の選び方では結果として合ってなかったわけじゃないですか。じゃあもう、一番近くでよく飲んでるやつのほうが僕のことを知ってるから、それを信じようと思ったんです。

──なるほど。実際に会ってお話ししてみても心地よかったんですね?

 しょっぱなから全然違いましたね、気持ちいいなーって。初めてのネタ合わせから楽しくて、最初のライブが感触よかったです。

──運命の人ですね。

 そうです。橋本のツッコミは、パーンって入ってきますよね。すごい絶妙な切れ味の包丁というか。

──ツッコミとボケのポジションは、今までずっと変わらず?

 銀シャリとしては変わらずです。今はもう自由ですけどね(笑)。橋本もボケたいんでしょうね。「漫才とは」ってのが別にないので、「自由にやったらええやん」って感じで。ふたりのやりとりでおもしろかったら、それでええと思ってるんで。

──橋本さんのボケもツッコミも、両方好きですか?

 両方好きですけど、ツッコんでるときの橋本を見るのが好き。おもしろいんですよ。横におるのって、特等席じゃないですか。今までは「ボケの人がニヤニヤしたらあかん」と思いながらやってたんですけど、最近はそんなんもうええわと思って。そのまんまの感じでいくと、めちゃくちゃ笑ってまうんですよ(笑)。

──橋本さん自体が鰻さんのツボなんですね。

 そうですね、ツッコんでるところがやっぱりおもしろいですね。だいぶ長尺のときあるじゃないですか(笑)。「こいつ何言うてるねん、ずっと」ってホンマに思うときあるんで(笑)。

──橋本さんのツッコミって、アドリブなことも多いんでしょうか?

鰻 そのときに出たことを言うてます。当初はどこで終わるんかわからんぐらいでしたけど、今では「あ、もう終わる」ってわかります。橋本が「もう言いたいこと言うたんやろうな」ってのが。

──すごい。阿吽の呼吸。

 これは長年やらないと。「この人がどこでしゃべり終えるか」っていうのは、家族レベル……家族でも噛み合わないときありますよ。僕がネタのキッカケなんで、「この人は言いたいこと言い終わった」ってタイミングで入りますね。言ってる最中はおもしろいんで、ずっと笑ってますけどね(笑)。

──何千回とやっているネタなんだろうけど、毎回橋本さんは本気で言ってるんだろうなって思うのは、本当にその場その場で言いたいことを言っているからなんですね。

 本気で思ってるんちゃいます?(笑)

銀シャリ鰻
橋本のツッコミを思い出し、取材中もニヤニヤしていた鰻

──その橋本さんの熱量とリアリティが、銀シャリさんの漫才の魅力のひとつですね。予定調和でやっていないというか、言葉の一つひとつに気持ちを乗っけている。

 そうですそうです。それがホンマに理想ですよね。

──それに笑ってしまいながら話を戻してるっていう鰻さんの魅力もあって。

 笑ってしまいますねぇ。だから、僕がもっとその場でしゃべってる感じが出せれば……僕自体演技が下手だから、そこもっといきたいんですけどね。

──そうなんですね? 今が一番いい状態なのかと思っていました。

 いや、僕ももっと言葉が自然に出るほうが、橋本ももっと自然になると思うんで。自然になり過ぎず、その人が一番テンション高い、一番いい、なんかおもしろいことしてるなってときを演じられたら100%です。演じたらっていうのもあれですけど、そこに持っていけるかどうかです。

──なるほど。

 自分が主役になれたなぁってテンションあるじゃないですか。あれを自分で操作して持っていくんですよ。それが理想ですけど、そのスイッチがめっちゃムズいと思います。……でもあんまり裏側を言うのもあれか。

──漫才の裏側をこんなに聞いていいのかな?と思いながら聞いていました。

 ホンマは何も考えてないって思われたいですからね(笑)。そもそも、あんまりネタとも思われたくもないですし、永遠のテーマなんですよね。ネタだけど、ネタって思われてもね。……これどこまで掲載するか、僕だけのものでないんで、橋本の反応も見てくださいね。マネージャーというか、橋本ですね(笑)。

M-1を優勝しても、満足なんかしたことない

銀シャリ鰻
漫才の裏側を語ってくれ、次第に『M-1』の話題へ……

──ふたりが噛み合わないとか、うまくネタが作れない時期、いわゆるスランプってありましたか? 

 うーん……それ言うたら、ずっとスランプじゃないですかね。満足なんかしたことない、ずっとスランプです。だって自分のこと過大評価してないですもん。

──『M-1』を優勝されていても……?

鰻 それで満足したら終わるじゃないですか。『M-1』チャンピオンはめちゃくちゃうれしいですけど、僕はあんま考えないようにしてます。考えると、人間図に乗りますから。

──その気持ちがあるから、ずっとおもしろくなり続けているんですね。

鰻 いやいや、わかんないです。ずっとできひんままですよ。「なんでこんなできひんねんやろ」ってずっと思ってます。そりゃ全力でいいものを人に見てもらいたいけど、こっちとしてはまだまだ。

──どういう状態になったら「スランプから抜けた」って思うんでしょうか?

 「スランプから抜けた」ってなったらもう引退やと思います。それ以上伸びないと思います、たぶん。俗にいうスランプみたいなのはあんまり考えたことがないですけど、ずっとそう思っとかなあかんなと思ってます。

銀シャリ鰻
「満足なんかしたことない」と言い切る姿からは、熱い闘争心が窺えた

鰻の“根拠のない自信”が、橋本を救う

──2021年3月から1カ月間、橋本さんが休養されていましたね。問題なく復帰できて本当によかったです。(片側顔面痙攣を患い、1カ月休養していた)

 いやぁよかったですね、成功して。ひとりだと心細いんですよね。万が一ってこともありましたけど、僕は治るって信じてたんで。「こんなことで失敗する人間じゃない、大丈夫や」と。

──鰻さんはおふざけで「僕も療養してました」とコメントを出されていましたが、その期間もお仕事はされていたんですよね。

 休みみたいなもんですよ(笑)。劇場出番はピンで出ました。

──普段ふたりで出ているところに、ひとりで出るのはどうでしたか?

 不安なんですけど、逆に「どうなってもいい」って思ってましたかね。緊張はしますけど、そういうのに出るの好きなんですよね。めちゃくちゃスベってもいいしなって。

──連絡は取っていましたか?

 してました。手術直前にも「絶対成功するから」って連絡しました。橋本から、「鰻のそれが欲しい!」って言われて。

──鰻さんの「成功する」が欲しいと! すごくいいお話ですね。

 そういうとき、僕がハッキリ言うんでしょうね。「絶対大丈夫です」って。そのへんが橋本にない部分なんですよね、いざというときの僕の突っ込む感じとか……どう言ったらいいんや?

──断言する力……根拠のない自信?

 そうです! 根拠のない自信が常にあるんですよ、何に対しても。それがあるから、こういうときハッキリ言えるんですよね。……言ったことが間違ってる場合もあるんですけど(笑)。

銀シャリ鰻
何に対しても白黒つけられるタイプだと自分を分析

橋本は、過小評価されていない

──『アメトーーク!』(2021年3月18日放送「企画プレゼン大会」)では、「橋本さんが過小評価されてる」と話題になっていました。

 あれなんなんですかね? 過小評価されてるっていうの。

──鰻さんは共感できなかった?

 そうです。近くにい過ぎてわかんない、思ったことないですね。

──橋本さんって芸人さんの五角形バロメーターが完璧な人なので、もっとテレビに出てもいいのに!という世間の声だったような気がします。

 それが僕ら的にはあんまり……。昔は「テレビに出てる=売れてる」でしたけど、だんだんそれだけじゃないと思ってきたんで。

──テレビには出ずに、劇場でものすごく活躍されている方もいらっしゃいますもんね。

 テレビに出てないから売れてないっていう、その意見を気にしてたらキリないんで。100人おったら100通りの考えがあるんで、それはそれに従うしかないですよね。こっちから強制したらダメ。それすると変な人間ばっかり集まって、日本がおかしくなるんです(笑)。

──橋本さんは、能力に見合った評価をされていると思いますか?

 世間に、ですか?

──はい。たとえば、バラエティのひな壇でうしろの列に並んでいるとかが、世間でいう過小評価にもつながるのかと。

 そこもね、ちょっとおかしいんですよ。橋本はたぶんうしろのほうが好きなんですよ。「前列がいい」っていう暗黙の了解みたいな概念が僕の中ではないんです。本人がどこにおったら一番やりやすいかっていうだけ。僕は、橋本はうしろから言ってるほうがいいんじゃないかと思います。……橋本に聞いてみないとわかんないですけど(笑)。

──なるほど。それは相方さんでないとわからない感覚かもしれないです。

 過小評価に対しては、「そう思う人もおるわなぁ」って感じです。でも実際、僕は横に橋本がおるんで、「全然違うのになぁ」って思います。評価してくれてる人もおりますし、なんやったら過大評価してる人もおります。それくらいいろんな人がおるから、あんまり気になってないですね。

博識でセンスがある、パーフェクトな人

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