写真を撮ることにこだわりを持つアーティストやお笑い芸人による連載「QJWebカメラ部」。
金曜日はザ・マミィ林田洋平が担当する。『キングオブコント2021』では、準優勝に輝いたザ・マミィの頭脳、林田。そんな彼は、自身のインスタグラムで発信するエモーショナルな写真も話題となっている。林田が、日常の中で、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
寅
明けました。完全に明けました。2022年1月7日。完全に年が明けました。
丑が去り寅がやって来た。毎年恒例。祖母の手作り干支ぐるみ。何頭か候補がいる中で、一番凜々しい顔をしている寅を選んだ。同じ手順で作っても一つひとつ全然顔が違うからおもしろい。
アマビエもいる。これもちろん祖母の手作りで、数年前に我が家にやってきた。玄関先に置いてあって、そうすることで厄やら何やらを祓うやらなんやらしているらしい。ひと昔前のギャルみたいな配色で超かわいい。
寅年と聞いてまず思い出した寅は、ビートたけしさんの寅だ。何年か前に『ビートたけし杯』というお笑いの大会で、一度だけたけしさんにお会いする機会があったのだが、そのときに見た寅だ。
その日、僕たち出演者のネタの出来はあまりよくなくて、優勝者は該当なしというなんとも不甲斐ない結果に終わってしまった。その旨をお客さんに発表しているたけしさんの背中を見ながら「これは大変なことをしでかしてしまった」と思わず視線を落としたとき、その寅はいた。たけしさんの腕にいた。
たけしさんがしているものすごくいかつい腕時計の中に、いた。時計の盤にあしらわれた躍動感しかない寅。こちらに身を乗り出し牙を剥く寅。王だけがつけることを許された寅時計だった。よりによってこんなときに寅に睨まれるとは。
「ああ、これはきっと僕らのような不甲斐ない芸人を噛みちぎるための寅なんだろうな」と思って強めにあとずさりしてしまった。完全に気圧された。自信がなくて黙ってしまって。やり過ごしてしまった。力不足を実感した。あのとき少しでもたけしさんに食らいついていけたら何か起きたかもしれないのに。悔しかった寅の思い出。
あとは旭山動物園でホワイトタイガー見たことあるくらい。寅の思い出。
せっかくの寅年なんだ。またあの時計寅に会いたい。たけしさんが笑ったらあの寅も笑うのかな。笑わせたい。目標。
加賀翔(かが屋)、前田こころ&平井美葉(BEYOOOOONDS)、セントチヒロ・チッチ(BiSH)、長野凌大(原因は自分にある。)、林田洋平(ザ・マミィ)が日替わりで担当し、それぞれが日常生活で見つけた「感情が動いた瞬間」を撮影する。
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