シリコン・ティーンズ
石野 つづいて、ウチらにとってすごく大事な、シリコン・ティーンズ(※10)ってバンドがデビューするんですよ。「現役高校生の女の子と男の子4人組のエレクトロニックバンド」っていう売り込みでデビューして、アー写とかビデオとかもあるんだけど、でも実は全部でっちあげで、全部ダニエル・ミラーがひとりでやってたっていう。曲はほぼ8割方カバーで、50’sとかのポップスをアナログシンセでカバーするっていう。アルバムは1枚しか出てないんだけど。で、ウチらは高校時代、これにどっぷり浸かったっていう。
瀧 どっすーーーーーん!って感じでね。
石野 一番最初に聴いたのが「Red River Rock」(1980年)ってカバーなんだけど、これは『タモリのオールナイトニッポン』(※11)のフィラーで流れてて。「フィラー」っていうのは、放送してる地域によってCMの長さが違うから、その番組の放送時間帳尻合わせるために流す音楽で──。
瀧 2時半くらいにかかるやつね(笑)。
石野 そこで流れてたのが、これ。もちろん当時シリコン・ティーンズなんて知らないし、『Shazam』なんかもないからね。「レーザーディスクは何者だ?」の時代だから。っていうか、まさに今、「レーザーディスクは何者だ?」だよね。
瀧 吉幾三に時代が追いついたってこと(笑)?
石野 若い子たちにはネットがあるから、テレビは観なくなってるじゃん。ラジオも今『radiko』だから。
瀧 「テレビも無ェ ラジオも無ェ」だ。
石野 だから、あれは未来を予言してた歌なんだよね。
瀧 (感心した顔で)ああ、そうか。なるほど。
石野 だからそのうち、みんなで銀座でベコ(牛)飼うべ?
瀧 そうだろうな。これから、ガソリン車もそれほど走らなくなるかもしれないね。
石野 こうして都市伝説って勝手に真実味を帯びてくんだろうね(笑)。シリコン・ティーンズの話に戻ると、ラジオで聴いたときは調べる術もなくて……ちなみに、当時の静岡のラジオで1時になるときのコマーシャルって知ってる?
瀧 え~……?
石野 「あなたの未来をひらく 古庄自動車学校が1時をお知らせします」。
瀧 あ~、かかってた(笑)!
石野 ちなみに、そのときにバックで流れていたのがクラフトワーク「放射能」。
瀧 なかなかの時間帯だったわけだ。
石野 で、高校生のとき、「洋盤屋」っていう地元の輸入盤屋さんへ行くんだけど、そこにカーくんって名物店員がいて──。
瀧 「ミスターハンサム」だ(笑)。
石野 そのお兄さんに「こういうエレクトロニックなのが好きなんだけど、なんかない?」って聞いて、薦められたのがこのアルバム(『Music for Parties』)。ちなみに日本盤も当時出てて、『ようこそ!テクノ・パーティーへ』っていうタイトルなのよ。今日は色んなバージョンを持ってきたんだけど、これがちょっと珍しいんだよ。
瀧 あっ、韓国盤じゃん! え~!?
石野 この韓国のレーベル、調べたらデペッシュ・モードとかもライセンスしててね、相当珍しいですよ。これは日本盤で、帯は捨てちゃったのかな。微妙に違うんだよね。
瀧 色が違うね。
石野 これが、当時聴いてたアメリカ盤。これが再発盤。カラーレコードかな、オレンジ色の。中身は全部同じです。
瀧 でも、あったら買っちゃう感じはわかるわ。
石野 1枚しか出てないから、そんなに沼も深くないっていうかさ。ちなみに、ずいぶん前にシリコン・ティーンズの日本盤CDが出てるんですけど、実は僕が監修したんですよね。海外でもずっとCDになってなくて、当時アルファレコードがミュートとの契約があって国内ライセンスを持ってて知り合いもいたので、ぜひシリコン・ティーンズのCDが欲しいと。
瀧 これをCD化したのはいい仕事ですよ!
石野 解説とかも書いたんですけど。向こうのミュートとダニエル・ミラーに直接問い合わせてもらって、プラス、ボーナストラックを入れたいと。7インチのB面に入ってるバージョン違いとか、シングルにしか入ってない曲があるんで、それを足して日本国内盤として出したいんですけど、っていう話をしたらOKが出まして。そしたらそのあと、俺が選んだこの曲順でミュートから再発盤が出たの(笑)。
瀧 「いいチョイスだね」って(笑)。
石野 これは、俺の功績のひとつ。それに唯一入らなかったのがこれ(シリコン・ティーンズ「Red River Rock」とデイヴ・エドモンズ「Gonna Move」の7インチシングル)で。『大災難P.T.A.』(1987年)っていうスティーヴ・マーティン主演のコメディ映画があるんだけど、それに「Red River Rock」のリメイクバージョンが使われてて。実は俺、全然知らずに映画を観て、「なんだこれ!? 聴いたことないバージョンだ」って。もともとの曲がカバーだから、同じ曲をカバーしてるんだと思ったんだけど、エンドクレジットを見たら「シリコン・ティーンズ」って出てきたから、おったまげた。っていう話を、CDのライナーで書いてる。
瀧 メリーノイズでやってたよね。
石野 やってた。「Judy in Disguise」とか「Do You Love Me?」とか、やってましたよ。そのほかでは、これ(「T.V.O.D. / Warm Leatherette」)はノーマルが最初に出したのと、これはニセ物。
瀧 何これ(笑)。「Warm Bitch」(※12)って。
石野 ニセ物っていうかもう、まんまだよね。あと、ほかの作品では、ダニエル・ミラーは最初のころ、名前を隠してやってたから──ラリー・リースト(※13)っていう偽名というか、ペンネームとかね。
これ(「Big City Bright Lights」)はミッシング・サイエンティスツ(※14)っていう名前でやってんだけど、テレヴィジョン・パーソナリティーズ(※15)っていうロックバンドのメンバーと一緒にダニエル・ミラーがやってる。あと、これ(「Stay with Me Tonight」)。アレックス・ファーガソン(※16)っていう。
瀧 サー・アレックス・ファーガソンですよ。マンUの監督。
石野 あの人とは別なんだけど(笑)。オルタナティヴ・TV(※17)とかサイキック・TV(※18)にいた人とやってるやつ。これはもう、音は完全にシリコン・ティーンズ。あと、これ(「Sign In, Dream On, Drop Out!」)は最近なんだけど、ダニエル・ミラーがシリコン・ティーンズ時代のラリー・リースト名義で、リミックスで参加してるポピー&ザ・ジゼベルズ(※19)っていうやつ。
※10 シリコン・ティーンズ(Silicon Teens):ダニエル・ミラーとフランク・トーヴェイによるプロジェクトで、ダニエル・ミラーがほぼすべての音楽を手がけながらも、「ダリル、ジャッキー、ポール、ダイアンの4人組」という設定だった。ミュートからアルバム『Music for Parties』(1980年)と3作のシングルをリリース。プロデューサーは、後述する「ラリー・リースト」。「Red River Rock」は19世紀末のフォーク/カントリーウエスタンの曲。『Music for Parties』は1993年にCD化された。
※11 タモリのオールナイトニッポン:1976年10月から1983年9月まで放送されていた、ニッポン放送のラジオ番組。
※12 Warm Bitch:リチャード・Xとして知られるリチャード・フィリップスがガールズ・オン・トップ(Girls On Top)として2001年にリリースした7インチシングル。
※13 ラリー・リースト(Larry Least):ダニエル・ミラーの変名。シリコン・ティーンズ、ミッシング・サイエンティスツ、アレックス・ファーガソンをプロデュース。
※14 ミッシング・サイエンティスツ(Missing Scientists):テレヴィジョン・パーソナリティーズのダン・トレーシーと、クリエイション・レコーズの設立者のひとりであるスローター・ジョーことジョー・フォスターによるユニット。発表した作品はラフ・トレードからリリースした7インチシングル「Big City Bright Lights」(1980年)のみ。
※15 テレヴィジョン・パーソナリティーズ(Television Personalities):1977年にダン・トレーシーが結成したポストパンクバンド。
※16 アレックス・ファーガソン(Alex Fergusson):1952年、スコットランド生まれのミュージシャン。オルタナティヴ・TVやサイキック・TVのメンバーだった。1980年にダニエル・ミラーが参加した7インチシングル「Stay with Me Tonight」をレッド・レコーズからリリース。
※17 オルタナティヴ・TV(Alternative TV):1977年にマーク・ペリーとアレックス・ファーガソンが結成したパンク、エクスペリメンタルロックバンド。
※18 サイキック・TV(Psychic TV):スロッビング・グリッスルの解散後、ジェネシス・P・オリッジとアレックス・ファーガソンが1981年に結成したエクスペリメンタルロックバンド、アート集団。
※19 ポピー&ザ・ジゼベルズ(Poppy & The Jezebels):2005年に結成されたイギリス・バーミンガムのロックバンド。2012年のシングル「Sign In, Dream On, Drop Out!」は前述のリチャード・Xがプロデュースしており、「Richard X meets Larry Least Mix」が収録されている。
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