目の前のちっちゃい「伝説作り」に夢中だった
公立中学での1年間はこれといった問題もなく楽しく過ごすことができた。あっという間に時が過ぎ、高校に通うことになった。
この高校は兄も姉も通っていたところで、父が務めていた大学だったから授業料が安くなったのだ。
しかし、自分にはそんなことは関係なかった。入学前から、すぐに高校を辞めるつもりでいたからだ。
「あんなところ行っても意味ないから働きたい」
入学式の数日後、母に向かってそう伝えた。母は動揺した様子で「働くなら夏休みにどこかへ行くこともできるでしょ?」「あなたが受かったおかげでひとり落ちてるんだよ?」と引き止めたが、なんと言われても響かない。だいたい、卒業後にどうせ働くために高校に行くなら3年もあんなところで無駄にしてないで早く働いたほうがいいはずだ。
「中学、高校、大学と進学して、そのまま大人になる。その王道ルート、本当に意味ありますか?」と思っていた。これは今もあまり変わっていない考えかもしれない。高校へは電車で通学していたが、行きも帰りも満員電車で「自分はこんなこと平気でやってるやつらの仲間にはなりたくない」と当時は感じていた。それは当時、兄の影響で聞いていた尾崎豊の受け売りでもあるし、ほかにもいろんな人が言っていた常套句でもある。その言葉を、僕は本気で信じ込んでいた。これもまた「自分の物語」的な、自意識過剰のなせる業だったように思う。
その「何者か」というのは、職業や立場のような、名前があるような何かではない。みんなが高校に行っているなかで自分だけ働くということが、すでに「何者か」になっていることに思えた。勉強やスポーツ、学校の中のメインじゃ目立てないから「外れ方」で目立とうとしたとも言える。
5年、10年先のこともほとんど考えていなかった。これらは、今もあまり変わっていないように思える。
漠然と将来の夢はサッカー選手や漫画家と思っていたけど、現実的に漫画家を目指して死ぬ気で漫画を描いたりはしない。とにかく、いきなり転校するとか、タバコを吸うとか、すこーしだけ悪いことするとか、そういった目の前のちっちゃい「伝説作り」に夢中だった。
先日、中学生になったばかりの娘が、早くも高校の資料を取り寄せて見ていた。娘はかわいい制服がどこにあるかばかり見ていたが、それにも驚かされる。3年後に自分がどうなっていたいか考えて、その目標を叶えるために動く。女子のほうが精神的に大人だとは言われるが、僕の世代の特に男子で、中学に入った途端に高校の制服を気にするような者は、キン肉マンかパーマンになることしか考えていなかった僕を筆頭に、まったくいなかったと思う。
話は戻り、予定どおり高校は入学した4月に退学した。
■岩井秀人「ひきこもり入門」第2回後編、2020年7月11日配信予定
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岩井秀人 最新情報
岩井が代表を務める「WARE」では、これまでのイベントやハイバイ過去公演の映像を配信中。
ラインナップは今後、続々と発表予定! 最新の情報はHPから。
また、微妙にリスナーが増えつつある自主ラジオ『ワレワレのモロラジ』もnoteで不定期更新中。 -
【連載】ひきこもり入門(岩井秀人)
作家・演出家・俳優の岩井秀人は、10代の4年間をひきこもって過ごした。
のちに外に出て、演劇を始めると自らの体験をもとに作品にしてきた。
昨年、人生何度目かのひきこもり期間を経験した。あれはなんだったのか。そしてなぜ、また外に出ることになったのか。自分は「演劇ではなく、人生そのものを扱っている」という岩井が、自身の「ひきこもり」体験について初めて徹底的に語り尽くす。
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