運命のズボン「山と道『5-Pocket Pants』」と、ケニアの悲劇――ハイパーハードボイルドギアリポート(1)

ハイパーハードボイルドギアリポート_1

文・写真=上出遼平 編集=鈴木 梢


過酷な環境下で生きる人々に密着し、食事を共ににするテレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)。そんな番組を手がける上出遼平が取材の持ち物にまつわるエピソードを語る本連載、第1回は彼が決まってロケに穿いていくズボンの話。

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』とは

初めまして。テレビ東京で『ハイパーハードボイルドグルメリポート』という実に長ったらしい名前の番組を作っているカミデと申します。
本来は「上出」と胸を張って漢字表記すべきところをなぜわざわざカタカナにするかというと、「カミイデ」と読まれる事件がことのほか多く、それをいちいち訂正するのに辟易しているからです。ですから、カミデでいきたいと思っておりますのでどうかご承知おきくださいませ。

上出遼平(C)テレビ東京

番組のことをご存じない方が大半かと思われますので、まずはその説明をいたします。
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は読んで字のごとく“すごくハードボイルドな飯番組”です。何がハードボイルドかといえば、虫やなんかの“ゲテモノ”を食すなんてことではなく、“食べている人”がハードボイルドなんです。
リベリアの墓場に住む元少女兵の娼婦、台湾のマフィア、ロシアのカルト信者、ロサンゼルスのギャング、セルビアで国境を越える難民たち……その他、地球上のありとあらゆる過酷な環境で生きる人々。 彼らと食卓を共にすることが番組のゴールです。圧倒的な異世界の住人に見える人々も、共に飯を食えば見えてくるものがある。それがこの番組の目論見です。

ご想像のとおりこのロケにはたくさんの危険が伴います。また、僕のロケは現地人ガイドとのふたり体制。本来テレビの海外ロケといえば、最低でも5人(ディレクター、アシスタント、カメラマン、音声、コーディネーター)は必要で、多ければ20人や30人でロケをするなんてこともざらです。そんななか、僕はひとりで日本を出ていくわけですから、最初から最後まですべての局面で工夫をしなければなりません。

飛行機を何度も乗り換えるのにいちいち荷物を預けてなどいられませんし、手元に置いておかなければ壊れてしまう精密機材ばかり。ロストバゲッジ(預けた荷物が消えてしまうこと)のリスクも高い。結果、僕の荷物はすべて機内持ち込みのサイズに納めることになります。小さなリュックサックとボストンバッグ。それだけ。そこにロケで必要なすべてを詰め込み、日本を発つのです。

そう、僕のカバンに収められるのは熾烈な一軍争いを勝ち抜いた、エリート中のエリートたち。ということでこの連載では、僕の旅の道具について書きたいと思っています。
失敗を重ねて辿り着いた道具、どうしても手放せないでいる道具、それなしでは命に関わる道具。そんなもろもろに思い出を添えて。

僕、道具が大好きなものですから。

第1話 ズボンの巻

ロケに穿いていくズボンはもう長いことひとつに決まっている。
日本の小さな山道具メーカー『山と道』の「5-Pocket Pants」である。

山と道 5-Pocket Pants(筆者撮影)

ナイロンベルトが内蔵されているからウエストの調整は片手で楽々。腰回りはゆったり作られていて10時間以上飛行機に乗っても窮屈に感じず、それでいて足首にかけてすぼまっているからどんな靴を穿いても裾のうしろを引きずることがない。

そして商品名のとおり、ポケットが5つもあるのがこのズボンの大きな特徴だ。
一般的な左右のフロントポケット、右側の尻に財布を入れるジッパーつきのポケットと左側には地図が入る大きめポケット。そしてスナップボタンで開閉できるiPhone用のポケットが右腿の外側にある。それぞれ絶妙な位置に配されていて、何を入れても、座っていても走っていても、全然邪魔にならないのである。登山の道具は基本的にロケにぴったりだが、こいつは落ち着いたデザインを含めて群を抜いて優秀なのだ。

けれど最も大事なポイントは、そこじゃない。素材である。
このズボンは耐久性と速乾性に優れたナイロンでできている。つまりなかなか破れないし、洗ってもすぐ乾く。僕がこのズボンを選ぶに至ったのは、ケニアでのある経験があったからだった。

アディダスのジャージとケニアの悲劇

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上出遼平

(かみで・りょうへい)テレビディレクター・プロデューサー。1989年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年株式会社テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全過程を担う。空いた時間は山歩き。

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