「どんな企画でも空気を読んでなんとか成立させてしまう敏腕コント師」のキャスティング



ゲストは誰でも良かった

最初にラブレターズが番組に登場したのは2017年4月に放送された「ワンコンタッグマッチ」というコーナーである。「目隠しでコントローラーを持つプレイヤーと、画面は見えるが直接操作ができない指示役の二手に分かれてコンビでゲーム対決をする」という内容で、事前に行ったスタッフシミュレーションにおいても「誰がやっても盛り上がる」かなり期待値の高い企画であった。

こうなってくると悩むのはゲストのキャスティングだ。「誰がやっても盛り上がる」ということは、逆に言えば「ゲストは誰でもいい」ということでもある。だからといって「じゃあとんねるずで!」っていうわけにはいかないので予算だったりMCとの関係性だったりを考えつつちょうどいいラインを探ることになる。というかとんねるずをすぐ仕込めるような敏腕プロデューサーだったら僕はもうちょっと出世してなきゃおかしい。

「ワンコンタッグマッチ」の初回ゲストがラブレターズになった経緯は、正直イマイチ覚えていない。強いて言うなら「アルコ&ピースと仲が良さそう」っていうぐらいのふわっとした理由で起用したのだと思う。企画自体に自信があったので本当になんとなくのキャスティングだった。一応撮れ高の保険として敗者が相方と履いているパンツを交換する「男のユニフォーム交換の刑」というまともな大人が考えたとは思えない罰ゲームも用意していたが、多分そこまでやらなくても十分盛り上がるだろうと考えていた。

「これこそお笑い番組の正しい姿だよな」

しかし台本通りにいかないのがバラエティ番組の常。収録当日に一番盛り上がりをみせたのはそのおまけで用意していた罰ゲームのほうであった。極度の潔癖症を理由にパンツ交換を涙目で拒否する溜口、パンツ交換のついでにチンコを見せろと謎の要求をする輩アルコ&ピース、緊張からくる発汗で小豆色のパンツをビショビショに濡らす塚本、と三者三様の悪いところが爆発。学ラン姿の4人の男が「パンツを脱ぐ、脱がない」で揉めるその様子は完全に男子校のいじめそのものであり、世に言うところの「誰も傷つけないお笑い」とは数万光年離れた所に位置する悪意にまみれたお笑いであった。

この手のお笑いが好きか嫌いか、それに関しては人によって意見が異なるだろう。しかし重要なのはそこではない。僕が感動したのは“いじめっ子”を演じきるアルコ&ピースと“いじめられっ子”を演じきるラブレターズという2組のコント師が台本では書けない「男子校コント」をアドリブで作り上げたことである。スタッフが企画を考え、出演者が現場でそれをもっと面白くする。「これこそお笑い番組の正しい姿だよな」と大笑いしながら涙したのを今でも覚えている。

パンツを剥ぎ取られた塚本がスタジオで最後に叫んだ。

「これのどこがゲーム番組なんだよ!」

そのひと言でみんながハッとした。そうだ、『勇者ああああ』はゲーム番組だったと。何が「これこそお笑い番組の正しい姿だよな」だ。やはり実力派コント師は現場を立て直すのも抜群にうまい。

この出会いをきっかけに僕らは新企画を考えるときに「ラブレターズだったらどんなリアクションをするだろう」というのをぼんやり考えるようになった。<SNSに『ラ・ラ・ランド』の痛い映画批評を投稿する(塚本に執行)>という罰ゲームも<親の経験人数を電話で確認する(溜口に執行)>という罰ゲームもすべてそんな感じで生まれたのである。蛇足かもしれないが一応伝えておくと溜口父の経験人数はひとり(奥さんのみ)である。

どんな性格の悪い企画でも視聴者に罪悪感を一切感じさせることなく“いじめられっ子”を演じきる番組のマスコット的存在、ラブレターズ。そんなふたりは「誰かを傷つけるお笑い」のおもしろさを信じている僕らスタッフにとって、なくてはならない存在なのである。


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板川侑右

(いたがわ・ゆうすけ)2008年テレビ東京入社。制作局で『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ』などのADを経て『ピラメキーノ』でディレクターデビュー。その後『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などのディレクター業務を経て特番『ぽい図ん』で初演出を担当。過去に『モヤモヤさまぁ〜ず2』のディ..

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