オスカー作品賞獲得『パラサイト』が名作になった理由 7年前にあった布石

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2020.1.29

『パラサイト』メイン画像

文=細川洋平 編集=田島太陽


2020年のアカデミー賞で『パラサイト 半地下の家族』が作品賞にノミネートされた。韓国映画としてはもちろん、アジアで製作された作品として初の快挙。日本国内でもすでに話題を呼んでいる今作は、なぜここまで“名作”と称えられているのか。

ライターで俳優の細川洋平が、7年前にアメリカで公開された作品から、今作とのつながりを解説する。

同作でカンヌ国際映画祭パルムドールも受賞したポン・ジュノ監督

発端は2013年の『スノーピアサー』

映画館で『パラサイト 半地下の家族』を見終わった直後のこと。隣にいたふたり組が発した「韓国映画って感じだったね」という言葉がやけに耳に残っている。冷めた感じのひと言に驚いた。なんせそのとき、僕は「やってくれたなぁ!」と打ちのめされていたからだ。

物語中盤。豪雨の中でやってくる“ある人物”のなりふりのかまわなさ、表情。そのほか、あらゆる瞬間での俳優たちの実在感。すげえ、どうやって演技してるんだ!

『パラサイト』が名作になった理由 7年前にあった布石
『パラサイト 半地下の家族』ポスター

『グエムル -漢江の怪物-』など、韓国を舞台にしたポン・ジュノの長編作品は、むせかえるような熱気を感じさせるものが並ぶ。『殺人の追憶』のソン・ガンホたちによるドロップキックをはじめ、「ついやってしまった!」「え、それやる!?」みたいな、人間たちのどうしようもなさがスクリーンや画面からヒシヒシと伝わってきて、観終わったあとは強い酒を飲んでしまったかのようになる。中でも最新作『パラサイト』はずば抜けた衝撃作だった。

今作のパンフレットで、ポン・ジュノ監督はこの作品の構想をハリウッドで製作した『スノーピアサー』(2013年)のポストプロダクション(編集・仕上げ作業)中に考えたと話している。

この両作は作品の手触りが大きく異なるが、監督の中ではどのようにつながっているのだろうか?

ポン・ジュノの過去作との違い

『スノーピアサー』は、地球上の生物が滅亡してから17年後が舞台の近未来・ディストピアのSF映画。わずかに生き残っている人類は、永久機関で走り続ける列車「スノーピアサー」の中でのみ生きることができ、最後尾の車両に押し込められた貧しい人々が、前方車両で暮らす富裕層に反乱を起こす物語だ。

この映画の公開時、ポン・ジュノ監督を取材する機会に恵まれた。監督はとても物腰が柔らかく、取材疲れも感じさせず、充実した時間となった。

しかし作品については、最下層の人間が富裕層に反乱を企てるという筋立ては批評的でおもしろい一方で、期待していた舞台設定とは違っていたために戸惑った。

『パラサイト』が名作になった理由 7年前にあった布石
『スノーピアサー』DVDパッケージ

近未来、ディストピアに生きる登場人物たちに対して、どこにリアリティラインを設定すればいいのか、正直迷ってしまった。現代であれば、「汚い」「くさい」「楽しい」といった感覚も自分に引き寄せて理解できるけど、感情移入がちょっと難しかった(それでも映画の最後に強烈な感動が訪れるのはさすがだ)。

そういった迷いの大きな理由として、演技スタイルの違いがあったように思う。韓国の映画に憧れてしまうのは、“演技をしている人”ではなくて、“その世界に生きる人がもがく姿”が見られるから。たとえば「この人、普段から土を食べてるんだろうなぁ」と思えるような生々しさやペーソスがあり、強烈に惹きつけられる。『スノーピアサー』でも異彩を放っていたのは、ソン・ガンホとコ・アソンの佇まいだった。

同作も大好きではあるが、ポン・ジュノ作品でありながら、俳優の演技があまり生々しく見えない。その理由、ひとつの答えのようなものが先日、本人の口から聞けて驚いた。

2020年1月8日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』でのことだ。ライムスター宇多丸が行った、ポン・ジュノ監督とソン・ガンホへのインタビュー。そこで監督からビッグバジェットに対するとまどいとも受け取れる言葉が出たのだ。


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