【第1回】窪塚洋介 「反戦」「平和」の真意(2003年12月収録)

2020.1.15

『GO』をやったことで、あらゆることが変わった。

――一体、どこから、この流れが始まったのかな。俳優として『GO』(※5)という映画以前と以降で、やっぱり自分のスタンスが変わった?

窪塚 うん。それまで、自分で一番好きな出演作品って挙げられるものがなかったんですよ。でも『GO』をやったことで、あらゆることが変わった。それまでも子供の頃から、自分自身というものにフォーカスはしてるんだけど、自分自身をもう一回「みる」という作業のきっかけになってる。ホント。あの映画で一番影響を受けたの俺じゃないかなって思ってるんですけど。ターニング・ポイントになった作品。それがまた『GO』というタイトルだったのも、面白いなって。それから社会的な視点が自分には加わってきた。

――単に役を演じるだけでなく、役がメッセージになっている。そういう意味では映画『凶気の桜』(※6)では、特に社会的なメッセージを感じる。そのあたりはどうなの? ひとつは朝鮮、ひとつは日本という、まったく別なスタンスですよね。

窪塚 それ、当時すごく言われた。『GO』では「国境線をなくしてやるよ」と言ってたのに、「凶気の桜」をやった時は「今度はなんで国境線作るんですか」って。それはね、まず国境線を認識するということをしないと国境線が消えないんじゃないかと思ったから。そん時の俺の国境線というのは、そこらじゅうが国境線だった。渋谷の街の中でもここからここが国境線だ、みたいなさ。お前と俺の間にこんだけ違う国境線があるみたいな、なんかそういう意識がすごくあった。

でも、やっぱり一度境界線をひくことによって、認識することによって壁を壊すというか。意識してみないと、何が壁で何が壁じゃないのかも分かんなかったからね。それについては、9・11以降がやっぱりすごく大きいと感じる。9・11の日から、世界がすごくピースな部分でつながっていったと思う(※7)。起きた事件は痛ましいことだけど。それを「痛ましい→なんでこんなことが→あいつらがいけないんだ」みたいなところに行くんだったら、そんな「痛ましい」とか言わないほうがいいと思うんですよ。

結局、ああいうテロがある今あるから、反対に「反戦」「平和」が叫ばれ、すごくピースな思いをみんなで共有できてきている。『凶気の桜』という映画は「ファック・ブッシュ!」っていう感じで、そういうモチベーションで作ってた映画だったんですよ。でもやっぱそれじゃ何の解決にもならない。やっぱり、前蹴りしたらいかんのですよ(笑)(※8)。それじゃあ、俺もブッシュと同じじゃん。あいつがムカつく、あいつが悪いと言ってたわけだからね。それはなんか「大和」じゃないなと、大和はやっぱり、「和を以って尊しと成す」としたい。

――対立ではなく、和していく。そういう流れが出てきていると。

窪塚 いや、でもホント、「敵は己の中に」っていうかね。


*注釈

※1:地球維新   
窪塚自身がプロデュースしたTVドキュメンタリー番組(フジテレビ/03年5月18日放映)。2013年の近未来から10年前のすなわち現在の地球を見つめる。そして「水・麻・光」の三つのテーマで、よりよい地球の未来の姿を描いていく。「2013年、世界の石油が枯渇した。人々はどうしていいかわからない。今、わずかに備蓄された石油をめぐって、世界は戦争の真っ最中。せめて10年前に何か手を打っていれば……。せめて10年前にその問題の大きさを考えていれば……。ボクは今、後悔している……」――「地球維新」より。

※2:ポジティブ・チューニング  
おそらく、現在の窪塚のスタンスを最も明確に表す言葉。「地球維新」をやった結論がこの言葉だった。たえず「ポジティブ」なところにチューニングを合わせ、自分に起こるあらゆる出来事をガイダンスとしてとらえていく。

※3:空飛ぶ円盤の話  
最近、窪塚は空飛ぶ円盤を目撃したらしい。満月の夜。場所は伊豆半島の盥岬だという。窪塚自身、「確信はないけど、自分自身という言い方もできるような気がする」と語る。「意識体が空中にあって……」慎重に言葉を選んでいるが、さらに質問を続けると、「一体それが何だったのか、そんなことは誰にも分からない」と、ふたたび役者の顔になった。

※4:ゼロポイント  
ゼロポイントとは右でも左でもなく、上でも下でもない。十の中心点。中道。どこにも影響されず、逆にどこでもつながることができる。「自分がゼロでいればどんな役ができてもポンっといける」

※5:『GO』  
監督を行定勲、脚本を宮藤官九郎が手掛けた01年公開作品。第123回直木賞を受賞した金城一紀氏の同名小説の映画化。その年の日本アカデミー最優秀監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞、など総ナメにした。窪塚は主人公、在日朝鮮人の高校生・杉原役を演じた。

※6:『凶気の桜』 
監督を園田賢次、音楽をK DUB SHINEが手掛けた02年公開作品。窪塚が原作の同名小説『凶気の桜』(ヒキタクニオ著・新潮社刊)に感銘を受け、企画段階から映画制作に参加した。白装束のナショナリスト集団、ネオ・トージョーのリーダー的存在である主人公・山口進役を演じている。

※7:9・11   
01年9月11日に起きた米国同時多発テロ事件以降、イラク戦争へと連なる流れのことを、窪塚は「ありがとう、ブッシュ大統領。でもいいかげん気がついてくれよ」と語った。皮肉な物言いではあるが、そこにもユーモアがある。そのスタンスは、世界的なベストセラー作家、パウロ・コエーリョに近い。「ありがとう、ブッシュ大統領。私たちを無視し、反対者を除け者にし、無力感といかに戦うかを教えてくれて」

※8:前蹴りしたらアカンのです  
03年10月3日、窪塚が写真を撮影した女性週刊誌『女性自身』の男性カメラマンに対して暴行した事件。その後、窪塚は反省し、代理人を通じて謝罪。カメラマンは被害届を取り下げ、示談が成立した。インタビュー中の「敵は己の中に」というコメントにつながる。


【第2回】窪塚洋介 「環境=神様」なんです(2003年12月収録)に続く

窪塚洋介 (くぼづか・ようすけ
俳優・アーティスト。1979年5月7日生まれ。神奈川県横須賀市出身。1995年に俳優デビューし、映画を中心に舞台でも活躍。2002年『GO』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を最年少で受賞。2017年にはマーティン・スコセッシ監督作『Silence-沈黙-』でハリウッドデビューを果たし、BBC×Netflix London連続ドラマ『Giri/Haji』にも出演するなど、海外にも積極的に進出。レゲエDeeJay“卍LINE”として音楽活動を行う他に、モデル、映像監督、カメラマン、執筆など幅広く活動中。
Netflixにて『Giri/Haji』独占配信中。

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