俳優・古舘寛治 クソみたいな時代に再認識しておきたい「全体」の話

2020.2.26
クイックジャーナル_古舘寛治_top

文=古舘寛治 編集=森田真規


名バイプレーヤーとして映画やドラマに欠かせない、今最も引く手あまたな俳優と言っても過言ではない古舘寛治。

ツイッターで政治的な発言をしていることでも知られる彼が今回テーマに選んだのは、「全体」の話です。ご自身で「クソまじめな文章」と称しているド直球な話ですが、「このクソのような時代」に忘れてはいけないことでもあるはずです。

不満や不安を持った人間が向かう先、それは……

ずっとわかっているつもりだったことを、改めて「気づいた」と感じることがある。それは私の記憶力が悪いから起きることなのかもしれない。しかし、その新たな実感は自分にとってとてもいいことだと感じている。わかっているつもりだったことを更新することによって理解が深まるのだと思う。だから新たに起こる「気づき」による再認識はいいことだし、さらにそれを書き起こしておくこともいいことだろう。何に気づいたのか、説明しよう。

先日、フェイスブックである記事が流れてきた。アドルフ・ライヒヴァイン氏についての記事だ(「ナチスに屈しなかった父親が最後に娘に綴った『人生でいちばん大事なこと』」BuzzFeed News)。それを読んで私にはある仮説が蘇ってきた。

彼は反ナチスとして闘った教育者だという。ナチスが台頭してくるときに反ナチスとして活動しながら迫害を受け、しかし国に留まることを選び教職をつづけ、最後には処刑される。

記事は氏の強い意志、行動を称えたもので、もちろんその「個」としての人間の生き様に驚かされ、感動するのであるが、むしろ私がそれで改めて実感したのは、いかにナチスが国民の期待に応えて権力を握っていったのか、ということである。

独裁者は市民の知らないうちに何か卑怯な方法によって権力を握るのではない。むしろ市民の要求に応えるかたちで堂々と権力を勝ち取るのだ。

あのころのドイツは第一次世界大戦で敗北した後、多額の賠償金を戦勝国から請求されて経済がボロボロだった。国民には経済的不満と将来への不安があった。そういった経済的問題をヒトラーが改善した、ということももちろんあるだろう。しかし私はほかの力が働いた仮説を考えたい。

不満や不安を持った人間はどこへ向かうのか?

前にも書いたが、また「全体」の話である。どうやら私はこのことがとても気になるらしい。人間とは全体的存在で、個になると弱い。不満や不安を抱えた個は、その問題の解消のためにどうするか? 不満や不安を抱えている弱い個である自分がその感情から逃れるには、自分を強くする必要がある。

自分を強くする努力ができる者はいいが、できない者はどうすればいいのか? 容易に自分を強くするためには自分を全体に同化させればいいのだ。「全体」という見えはしないが巨大な存在に自分を埋没させれば、そのときだけは不満や不安は解消される。つまり不満や不安を抱えた個は全体主義を欲するものなのだ。

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