パラリンピックは、車いす陸上解説の花岡伸和さん!
一方パラリンピックは正直、最初かなりアレレと思わせる実況解説が目立って残念に感じていたところ、ボッチャの「ビッタビタ」新井大基さんや、ソフト関西弁が特徴な車いす陸上の花岡伸和さん、といった只者でない解説陣が視野に入ってきて驚きました。
特に花岡伸和さん。
彼の解説は、自身のパラアスリートとしての経験にもとづく戦術分析、競技用車いすの仕様やその技術面のウラ話、選手エピソードのワールドワイドさなど、
・情報量が豊富
・ネタの切り出し方が絶妙
・語り口が明るくフランクで親しみやすい
という点が特徴で、実際、世間的にもそんな感じで好評だったのだけど、何やら、それではじゅうぶんに彼の魅力を述べ切ってない感があるのですよ。ううむ。彼が語っていた内容で妙に私の印象に残っているのが、
「アメリカの学生の車いす陸上競技者は、大学でスポーツ医学などの学問を専攻していることが多く、学位取得を競技よりも優先させがちなのが競技成績の変動に表れたりする」
「同じ車いす競技者でも、状況により、たとえば成長後での欠損よりも四肢発育障害の選手が優位になる場合がある」
といった話で、ここで重要なのが、そのいずれについても「そういうのもアリなんです。それもまたよし!」という雰囲気で語られていた点です。
これらは、いわゆる身障者ダイバーシティ系の社会啓発コンテンツの王道たる「がんばっている彼らをリスペクトしましょう」的文脈のお行儀よさからはビミョーに遊離した話です。が、逆に、実際のダイバーシティ推進効果がめっちゃ高い気がするのです。別に王道コンテンツがダメとかいうつもりはないんだけど、人間って、問答無用に内容豊かでオモシロで結末が読めない領域を自然にリスペクトしやすいと思うのですよ。啓発系っぽくない装いで中身のあるヤツのほうが、結果的に啓発パワーも高いというか。花岡伸和さんは競技の解説だけじゃなく、別種の「価値体系」の魅力を絶妙にチラ見させてくれるというか。そう、彼の「語り」の真のすごさはそのへんにある気がするのです。
結果としてそこに現出するのは、あらゆる境界や障壁を超えた愛とリスペクト。これは先述した田中琴乃さんも同じでしょう。「いい勝負だった!」というだけでなく「ここにはいい世界がある!」と感じさせる、その魂に私は深く敬意を表したい。
産業化された「知的興味」の既存文脈を揺さぶるアクションを
パラリンピック紹介番組はだいたい「この感動を、社会の共生化推進でどう活かすか、それは私たち観客の在り方にかかっています」みたく締められてて、具体的には街中のあれこれのバリアフリー化に対する理解・認識アップみたいな話につながることが多いけど、私としては「たとえば花岡伸和さんのトークをしばらく聞けなくなるのが寂しい。パリって3年後ですか。えーなんとかしたい」みたいなのがあって、何か即できるわけではないものの、考えてしまうのです。それは単に彼がどこか目立つ場所に引きつづき登場すればいいという話ではない。適切な文脈と状況がセットされた上でなければ、そもそも意味ないし楽しくないし。で、そのためにも、産業化された「知的興味」の既存文脈がいろいろなかたちで揺さぶられることが望ましい、と思うのです。そのアクションの末端では何かやれるかもしれない。そうか。それが「私にできること」のひとつなのか。切り口というのは人それぞれだ!
……というのが今回のお話ですが、最後にセルフ広告です。
池上彰さん、増田ユリヤさんと私が「現状ドイツってどうよ?」と語り尽くす対談本『本音で対論! いまどきの「ドイツ」と「日本」』がPHP研究所さんから出ました。日本社会にあふれるドイツ礼賛/糾弾の言論って、だいたい構成パーツはそれなりに言えてる内容だけど結論が極論ぽくまとめられがちで、なんだかなぁという感じになってしまう。しかもそういうのがやたら目立つし。もっと思考材料からうまくダシを取りながら、是々非々で議論し吟味しましょう!という路線の本です。
池上さん、増田さんが70年代からゼロ年代あたりまでの日本人的な「ドイツ」イメージを繰り出し、それを私がひたすら受けるという情報の千本ノックみたいな展開ですが、世代間対話的な面もあって興味深い。世代といえば社会的な既得権をめぐる呪いの応酬に収斂しがちなSNS言論とは違う空気がそこにあるというか、こういう面でやはり紙媒体的な「論」の空気はいいな、と感じる瞬間が多かったです。
そんな感じで、どうぞよろしくお願いいたします!
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR