俳優・古舘寛治 権力が暴走しないシステムを作るための唯一の道

150
2020.3.25

クイックジャーナル_古舘寛治_top

文=古舘寛治 編集=森田真規


名バイプレーヤーとして映画やドラマに欠かせない、今もっとも引く手あまたな俳優と言っても過言ではない古舘寛治。そんな彼は、ツイッターなどで積極的に政治的な主張を発信していることでも知られている。

古舘寛治の「クイックジャーナル」最終回は、2013年にフランスで出版され世界中で話題を呼んだトマ・ピケティによる経済書『21世紀の資本』を原作にしたドキュメンタリー映画を観て考えた、“格差社会”についてです。権力の暴走を止めるために、一人ひとりにできることとは――。

はっきりと見えている格差社会の解決法。しかし問題は――

映画『21世紀の資本』を観た。

これについて書くのはどうかと提案されたのよん。相手は経済の話であり、経済よりも芸術を優先するという変人気質で生きてきた人間にそれを語る資格があると思えないよね。しかし事は人間社会の過去と今、そして未来についての大問題。むしろこれはみんなが考え語るべき事柄であるのだー!と。

私のない頭を絞った連載の最後はこれ。話は第一次世界大戦前夜の欧米社会から始まる。

『21世紀の資本』予告編

それは過去にもあった格差社会。1%の貴族と民衆との大きな格差問題。それがナショナリズムにすり替えられて戦争が起こったという。領土と交易ルートをめぐる戦争だ。英国は当時世界人口の1/4を有していた。ドイツがそれを後追いするために戦争を起こして、その結果国が滅んだ。国の再興には金がいる。民衆には金がない。貴族から税金を取った。貴族階級の凋落。戦争によって一時的に社会の均等化が起こったのだ。戦争という人間の起こす最悪の行為の副産物としての平等。この不条理にまずはガックリ。

しかし、その後に株価の上昇があり再び格差社会が作られた。バブルが弾け、金融の崩壊があり大恐慌が訪れる。

1930年代、資本主義は悪だという認識が広がった。そこでアメリカはルーズベルト大統領の再分配の政策によって社会の安定化を実現した。しかしそれは共産主義から学んだ手法だったのだ。

変わってドイツは貧困によるファシズム化が進んだ。またもナショナリズムへのすり替えである。対してアメリカでは軍需産業によって恐慌を抜け出すという戦争利用が進んだ。

そして第二次世界大戦が終結し、その多大な犠牲の後、再び格差の是正が起こった。一時期の人間性、平等性の実現が起きた。国は資本をコントロールし、勤勉が社会的成功をもたらすモデルが生まれた。中産階級の出現だ。しかし、この格差の少ない平等な社会はまたもやつづかない。オイルショック、スタグフレーション、そしてグローバリゼーション。効率が正義と謳われ、資本主義の暴走がまた始まる。労働組合の弱体化と金融の自由化により資本家の利益がまた上がってゆく。金持ちの税金が下がってゆき、またもや格差社会ができ上がってゆく。

90年代にアメリカは規制緩和資本主義を世界に広め、2008年には金融の暴発。しかし、政府の救済で金融界に変革はないまま現在に至る。

21_capital_sub6
映画『21世紀の資本』より
(c)2019 GFC (CAPITAL) Limited & Upside SAS. All rights reserved

話はさらに深く、我々人間社会の歪みを開示してゆく。

21世紀、我々は再び立ち上がった格差社会に生きている。金で政治が動く社会だ。グローバリズムにより大儲けをしている多国籍企業が、その相応の課税から逃れる。ハイテク企業は雇用も少なくてすむにも関わらず巨額の金を稼いでいる。19世紀の貴族の時代に似た、金持ちの子が金持ちになる構図ができ上がり、金が金を生む金融投資は今や銀行投資の85%となった。

そして映画はその是正の容易さを説き、問題は人間がそれを実行できるかどうかにかかっていると結ぶ。

まさに問題はそこだと思う。映画が一番言いたいのは見えない解決法ではない。はっきりと見えている解決方法に、果たして我々人類が踏み切れるかどうかだ。

政治を考え、語り、参加する。“関わる”ということ以外に道はない


WHAT'S NEW新着

あなたにはこちらもおすすめ