東野幸治のYouTubeチャンネルがリアル『映像研には手を出すな!』と化している件(ラリー遠田)

2020.3.10


東野幸治と娘、『映像研』さながらの奮闘と野望

回を重ねるごとに編集を担当する娘Dの存在感が強くなっていくのも興味深い。第4回の「娘ディレクターのまさかの野望とは!?」は傑作だった。東野の1歳下の51歳の後輩芸人が、東野のYouTubeチャンネルを見て、彼に対してふたつのアドバイスを送った。

「音声だけの動画の場合、設定で画質を落として見たほうが容量の節約になるので、それを告知したほうがいいのでは?」
「音声だけのチャンネルは広告が入らないので、収益化ができないのでは?」

東野がこの意見をどう思うか娘Dに問いかけたところ、彼女はその両方をあっさりと否定した。まず、前者に関しては、そんなことはみんな知っているからわざわざ告知する必要はない。

そして、後者に関しては「広告が入らないことはわかっている。このチャンネルでは、スポンサーをつけたりグッズを販売したり、別の形で収益化することを考えているので、広告が入らなくてもいいと思っている」と答えたのだ。

父親の後輩芸人の親切心からのアドバイスを、娘Dはバッサリ斬り捨てた。彼女は東野も知らないところで、このYouTubeチャンネルをどうやって収益化していくかということまで考えていたのだ。強い。そして頼もしい。

その後、さらなる急展開が待ち受けていた。第8回の「娘Dと吉本がもめております」では、娘Dと吉本興業の間で勃発している抗争について語られていた。前述のとおり、娘Dは音声のみのYouTubeチャンネルでは広告がつかないことを知っていた。

東野幸治の幻ラジオ 【第8回】娘Dと吉本がもめております

ところが、娘Dの知らないところで、吉本興業のスタッフが東野のYouTubeチャンネルにログインして、広告設定を勝手にオンにしていたのだという。娘Dはそれに気づくと激昂して、どういうことだと東野に詰め寄った。娘Dは広告設定を再びオフにした後、パスワードを変更して、吉本興業のスタッフがログインできないようにした。そして、スタッフには新しいパスワードを教えないようにしてほしいと東野にも厳しく言った。

その後にアップされた第9回では、吉本興業側が勝手に広告設定をオンにしたという疑いをかけられていることについて「そんなことはしていない」と全面否定したことが明らかになった。抗争はまだまだ終わりそうにない。

ここで展開されているのは、手作業でモノ作りをする小規模クリエイター集団の前に障害が立ちはだかり、それをどう乗り越えるか、という物語だ。そう、これは、YouTube版の『映像研には手を出すな!』なのだ。実際、東野自身も現在放送中の『映像研』のアニメにハマっていて、その影響を受けて手作りでYouTubeを始めることにしたのだという。

作品自体の良し悪しはわからないが、人材マネジメントと収益化に並々ならぬこだわりを見せる娘Dは『映像研』の金森氏(金森さやか)にそっくりだ。その意味で娘Dは実質的に「娘P」でもある。一方の東野幸治は、収益化などの社会的な難しいことからは目を背けて、作品の中身を作ることに没頭する浅草氏(浅草みどり)だろうか。

クリエイターが今までにないものを作ろうとすれば、外部から強い抵抗や反発を受けるのは避けられない。それを乗り越えるためには、モノ作りを志す集団は、創作物の細部への偏執狂的なこだわりと、それを具現化してビジネスとして成立させるプロデュース能力の両方を備えていなければいけない。

東野は、ラジオのようなYouTubeチャンネルを聡明な娘と一緒に作ることによって、この種のクリエイターの日常的な闘争そのものを現在進行形のドキュメンタリー作品にすることに成功しつつある。リアル『映像研』としての「東野幸治の幻ラジオ」からますます目が(耳が?)離せない。

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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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