短編映画ってコントみたい?
こがけんさんに事前に観てきてもらった3作品について感想を聞いていくと、あふれ出るように話をしてくれた。幼少期に家族と何度も観た『ブルース・ブラザース』(1980年)が原体験だったという彼は、果たしてインディーズ映画をどう鑑賞したのだろう。
上映時間がだいたい2時間くらいのメジャー映画と違ってインディーズ映画は「時間がまちまちだった」っていうのは先ほども言いましたけど、まずはそれぞれの時間の使い方が秀逸だと思いました。
『俺の切腹』は21分、『Repeat After Me』は15分、そして『オーファンズ・ブルース』は89分。『横道世之介』(2012年)や『子供はわかってあげない』(2021年)で知られる沖田修一監督の『俺の切腹』は、コントユニット「シティボーイズ」が出演した短編映画で、主演は当時ピン芸人だった夙川アトム。まじめな時代劇の様相を呈しながら、「切腹間際の武士は何を考えているのか」という問いをコメディチックに掘り下げいく。
『俺の切腹』は、「主人公が考える辞世の句(死を目前にして詠んだ俳句)がめちゃくちゃ」というワンアイデアで突っ切る。短い時間をどう有効に使うかっていう点で、コント作りの発想とかに似てくるのがおもしろいと思いました。この映画は、今の芸人の世界でいうと「ニッポンの社長」のコントみたいでした。『Repeat After Me』も同じで、タイトルにあるキーワードに対してフリとオチがきちっとあって、時間に対してまったく無駄がない精緻な映画だなと。
『Repeat After Me』は、自分の感情に無関心だった英会話講師のヨシが、ある女性と接する過程で孤独を自覚し、徐々に感情を取り戻していく物語だ。英会話教室で主人公が何度か発する「I’m sad.」という言葉にこもる感情の変遷が、主人公の心の変化をも雄弁に物語る。「短編映画はコントみたい」という理論も確かにうなずけるきれいな構成になっている。
「どこが笑うポイントか」っていうのは僕たち芸人も意識するところですけど、この短編映画2本は「何を伝えたいか」が明白ですよね。『俺の切腹』は序盤の数分がシリアスだけど、コメディだとわからせるために「あれ、この奥さん変じゃない?」って要素を徐々に盛り込んでくる。短編映画ってこんなに理路整然と作られているんだって、驚きました。
「期待すんなよ、映画に」
一方の『オーファンズ・ブルース』は、89分の中長編映画。『第40回ぴあフィルムフェスティバル』でグランプリを受賞した作品で、期待の新鋭監督・工藤梨穂が大学の卒業制作で撮り上げたものだ。
これはまさに短い時間でできないことをやっている映画ですよね。僕たち観客が行間を読んでいろいろ考える余地があるから、説明ゼリフとか説明的な描写がまったくないのも気持ちよくて。主人公のエマが記憶を失っていくという設定も含めて、ミステリー然としているところがある。ポスターを見ただけだと「恋愛映画なのかな?」とも予想できるんですけど。でも僕はみんなによく言うんです、「期待すんなよ、映画に」って。
ここで、こがけんならではの矜持が飛び出した。「期待すんなよ、映画に」。それは要するに、「恋愛映画だと思っていたら、予想に反してシリアスでよくわからなかった」といった感想に対しての見解だ。
期待してたのと違う、みたいな。それって勝手に想像しているから期待が外れるだけで、まっさらな状態で観ればいいんですよね。僕の友達は『千と千尋の神隠し』(2001年)を観て、千尋の両親が豚になった瞬間ついていけなくなったんですけど……映画にとって既成概念は邪魔だなって思います。『オーファンズ・ブルース』はずっとよくわからないけど、散りばめられた要素から想像するのが楽しい映画でした。
「わからないことがある」って大事ですよね。今は商業的なエンタメ作品のほとんどが多くの人に観てもらうために「わかりやすくする」という意識のもとに作られていますけど、こういった映画を観ると、「わからないのがおもしろい」と思います。
この3作品は、自分の中でメジャー映画となんの垣根もなくおもしろかったです。単純に人の頭の中が映像化されているので、映画において大作とかインディーズとかは関係ないのかもしれない。
お笑いでもそうですけど、地下芸人とテレビに出ている芸人に優劣があるかっていったら、まったくそうじゃないんですよね。かつては地下芸人だったハリウッドザコシショウさんが今やメインストリームにいたりするので。映画では『カメラを止めるな!』みたいなことも起こりますし、あとは多くの人に観てもらえる機会があるかどうか。DOKUSO映画館さんがその場所を用意しているというのは素晴らしいと思います。
DOKUSO、新サービスが続々ローンチ
最後に、DOKUSO映画館が9月から展開しているいくつかの新サービスについても、こがけんさんの目線からひと言いただいた。
これ……芸人にも同じものがあったら、みんなフリーになりますよ……。ライブやオーディションの情報もまとまってて、ファンの方にはサポートもしてもらえて、売り上げも一元管理できる。これだけのものがあるなら、むしろフリーのほうがいい(笑)。クリエイターとか俳優側のサポートを強化したってことですね。
そうですね。コロナ禍で皆さん苦しんでいるのは見えていたので、何かできないものかと思っていました。今後は「映画を撮りたい」と思ったら、まず「DOKUSO SUPPORTERS(ドクソーサポーターズ)」でプロジェクトを立ち上げてもらって、そしたら公式サイトを作らなくても情報発信ができたり、商品を販売したりすることができます。
その上でキャスティングに困れば「DOKUSO SCHOOL(ドクソースクール)」や「DOKUSO WANTED(ドクソーウォンテッド)」でワークショップやオーディションをしてもらえますし、映画が完成したら「DOKUSO FILMFES(ドクソーフィルムフェス)」で映画祭検索して出品してもらって。そのあとは「DOKUSO LIVE(ドクソーライブ)」やDOKUSO映画館で映画を公開することもできます。劇場興行以外のところは、このサービスで網羅することを目指しました。
このご時世で一番役立つのは「DOKUSO SUPPORTERS」だと思います。コロナ禍で、noteからのサポートに助けられている芸人をいっぱい見てきましたけど、そのマッチングさえできれば、自分の好きなクリエイターのことを応援したいと思っている人は絶対いると思うんですよね。あとこれは伝えておきたかったんですけど……DOKUSO映画館さんはサイトがめちゃくちゃ見やすい!
ありがとうございます(笑)!
これはマジで重要だと思うんですよ。そこでストレスがかかったらダメで。すごくおしゃれで使いやすいし、読み込みのスピードも速い。スタッフやキャストが一覧になっているのも、とても親切で便利だと思いました。
こだわっているところをすべて褒めていただいて、うれしいです。今後もっとよいものにしていきたいです。
僕は2時間の映画を観るとしたらサブスクであっても途中休憩なしで観たい人間なんですけど、最近はなかなか時間がなくて。でも、インディーズ映画には尺の幅がすごくあると知ることができたので、これからは短編映画とかも積極的に観ていきたいです。全部色が違うと思うので、好きな作品を見つけたい。まだまだいろいろな映画があるんだろうなと考えると、めちゃくちゃ楽しみです。
こがけん
1979年生まれ、福岡県出身。映画好きお笑い芸人。『R-1ぐらんぷり2019』ファイナリスト、『M-1グランプリ2020』準優勝(おいでやす小田とのユニット「おいでやすこが」で出場)。特技は「どんな曲でも洋楽ロック風に歌うこと」。
Twitter:@kogakogaken