大石昌良と母親が対談。“音楽不毛の地”でミュージシャンを目指せた理由は家族にあった

2021.8.23

「あの味は一生忘れへん」

——そして在学中にデビューするわけですね。

大石 今だから聞くけど、送り出すときどんな気分だった? ひとり息子を遠くの街に送り出す親の心情って。

 やっぱり寂しかったよ。寂しかったけど、夢を持って大学へ行って、バンドとかやりたいっていうのはわかってたんで。意思も固かったもんね。それは応援してあげようとはずっと思ってました。ひとりっ子なんで、本当はね、近くにいてほしかったですけど。

大石 でも確か当時、「大阪より上には行くな」って言ってたよね?

 そうそう。だって大阪だったら、なにかあったときに車で行けるからね。

——親心ですね。

大石 泣かせるでしょ?

 大阪くらいまでだったら、なにかあったらすぐ車で走って行けるからって。お父さんと話してたから。

大石 実際、大学1年生のときにインフルエンザで40℃の高熱が出て、うちの父親が神戸まで迎えにきてくれましたからね。

 夜中に走ったんですよ。正月前やったよね?

大石 そうそう。

 正月に帰るバスのチケットを取ってたんですよ。それなのに「熱が出た~」言うて。夜にお父さんが仕事終わってから車で走っていって。そのままその足で連れて帰ってきて。帰ってきたらケロッとしとったもんね。熱も下がって。

大石 なんか安心したんやろね(笑)。

 お父さんがあっちでうどん食べさせたって。

大石 そうだった。うちの父親って本当に1ミリも料理できない人で、仕事しかしない亭主関白な父親なんですけどね。そのときだけ、コンビニかなんかで鍋焼きうどん的なものを買ってきてくれて、コンロに火をかけて食べさせてもらったんですけど、もうあの味は一生忘れへん。めっちゃ焦げ臭かったんです(笑)。ただ五臓六腑に沁み渡るとはこのことかと。ずっとごはんを食べてなかったし、ひとり暮らしして初めての病気だったなって。

 よく熱を出す子で、こっちで心配しとったもんね。

大石昌良
大石昌良

スタジオもライブハウスもない宇和島にステージを手作りしてくれた父親

——小さいころから昌良少年に対して優しく寛容なご両親であることが伝わってくるエピソードでしたが、ひとり息子が音楽の道に進むことに対して、心配はありませんでしたか?

 いやあ、私はもちろん心配もあったと思いますけど、お父さんがすごく賛成してましたので。

——へえ!

 「本人がやりたいことをやらせえ!」って。私もそれを聞いては「そやね」って話してたんですけど。

——お父さん、かっこいいですね。

 なんせ協力的でしたよね。学生のころから庭にスタジオ建ててやったりね。ビールの空箱を集めてきて裏返して並べて、ステージをこしらえてやったり。

大石 愛媛の宇和島市っていうところは当時、スタジオもライブハウスもない場所だったから。「なかったら建てればいい」ってうちの父親に言われて。うちは田舎だから土地だけはあったんで、余った土地に掘立小屋みたいなスタジオを建ててもらって。そこに当時のバンドメンバーの機材を持ち寄って、毎日練習できるようにしてくれたんですよ。

 そうだったねえ。

大石 「ライブする会場がないんだ」って父親に相談したら、「待っとけ。お父さんがステージ作ったるから」って。カラオケのパーティルームの大きいところを借りて、そこにトラックで乗り付けて、空のビールケースを山ほど運び込んで。そのうえにベニヤ板敷いて、絨毯敷いて。「ここでやれ」って。

——しびれますね。

大石 いや、ほんまにかっこいいんですよ。宇和島って昔から音楽不毛の地って言われてたんですけど、父親が息子の夢を追いかけることに対して、すごく献身的だったから……。

 すごいねえ、あんたも努力したよねえ。

大石 父親があんなにしてくれなかったら、練習する場所もなかったし、披露する場所もなかった。バンドでやっていこうなんて夢は、見られなかったかもしれないね。でも、あんなお父さんを見ておかんはどう思ってたの?

 お父さんが言うことにお母さんは右に倣えだから。「はいはい」で(笑)。

大石 昔ながらの家だからね(笑)。

 私も応援してましたので。

——それだけ応援してた息子がSound Scheduleとしてメジャーデビューしたときは、ご両親もうれしかったでしょうね。

 そうですね。最初のワンマンライブも観に行きましたから。

大石 神戸のときか。

 そうそう。「ここで初めてするけん。来て!」って電話があったけん、「もちろん行くよ」って。年に2、3回はねライブを観に行っていました。

大石 ばあさんもよく来てくれてたっけ。HEP HALLっていう大阪のホールでやったときに、あまりにもお客さんが飛び跳ね過ぎて、うちのばあさん会場の揺れに耐えられなくて「床が抜けるー!」ってずっと言ってたらしくて(笑)。90分間ずっと床が抜ける恐怖と戦ってたらしいです。

——かわいそう(笑)。

大石 でもいまだに大阪のライブはばあさんも来てくれるよね。

 そうなんですよ。ずっとこの子の歌が好きでねえ。おばあちゃんも一緒になっては観にいきよったり。コロナでね、去年からずっとライブに行かれなくなったし、ちょっと寂しいんですけどね。また行けるようになったら、行くけんね。

大石 いいでしょ? うちの家族。

大石昌良/オーイシマサヨシ
1980年生まれ、愛媛県宇和島市出身。シンガーソングライター。アニメやゲームの楽曲はオーイシマサヨシ名義で活動している。また、Sound Scheduleのボーカル・ギター、Tom-H@ckとのユニットOxTのボーカルを担当。ほかにも多くのアーティストに楽曲提供を行っている。8月25日には1stアルバム『エンターテイナー』をリリース。9月19日には、アルバムを引っさげたワンマンライブ『エンターテイナー』がパシフィコ横浜にて開催される。また今秋には、『世にも奇妙な物語 ’21秋の特別編』(フジテレビ)に出演し役者デビューも果たす。

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