5GAPインタビュー<後編>慢性腎不全になった極貧芸人「父からの移植」と「母の言葉」で生還。恩返しのためにブレイク目指す
芸歴20年の5GAPは、一発屋にもなれなかった自分たちを「0.5発屋芸人」と表現する。
初出演のテレビで地獄のようにスベり、関わった番組はことごとく打ち切りになり、先に売れた後輩からもらった楽屋弁当で空腹をしのぐ極貧生活。しかしそんな挫折も序章に過ぎず、本当の”超”苦節人生はここから始まる。
久保田が慢性腎不全を発症し、余命3年を告げられる。そしてふたりは、相方への思いを新たにし、周囲への感謝を深め、今後の生き方を考えた。
千鳥が「なんでこいつら売れてないん!?」と驚愕した、5GAPの人生とは。
目次
インタビュー前編
10年以上がんばったけど慢性腎不全に。芸人をつづけるために移植を決意
──久保田さんの病気のことについて、お伺いできますか?
秋本 それが一番の山場でしたからね、僕らの。
久保田 最初は、19歳のときに痛風が出たんです。朝起きて激痛で、その日の仕事はすぐキャンセルして。僕はよくいう「贅沢病」だなって軽~く考えていたんです。そしたら痛風の頻度がどんどん増えてきて。
引っ越しのタイミングで別の病院に診てもらいに行ったときに「うちじゃ診れないので、専門の病院に行ってください」って言われたんです。俺そこで、やっと「あれ?」ってなって。で、専門院に移動して、そこから10年通うんです。その当時24、5歳くらい。
その通院中に「慢性腎不全です」っていう診断を受けました。でも「慢性的でしょ? じゃあまだ腎不全ではないんだ」って思って、毎月定期検診に行って数値もキープしてがんばってたんです。でも10年目に突然先生が「移植外科の先生を紹介します」って。毎日気をつけてるのに?って思ったんですけど、「がんばったからといって機能が回復するわけじゃない、ちょっとずつなだらかに落ちていきます。だから透析か移植かの選択をしなければいけない」って。
「あーまじかー、がんばっても意味ないんだ」って。心臓バクバクでした、あのとき。
秋本 痛風も相当ヒドかったですからね。僕ら「動くコント」をやるんで、彼が発症したときだけ「椅子に座るコント」をやっていたんですよ。
久保田 そうなんです、本当に動けなくて。で、移植外科の先生を紹介されて、けっこう悩んでましたね、本気で。透析するとなったら実質動けるのは週に2、3日くらいになるんですよ。これじゃ芸人できないと思って先生に相談したら「じゃあ移植しかないですね」って言われて、芸人つづけるために2016年3月に移植を決定しました。
怒られると思った母との電話。「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」
久保田 まず初めに「親に報告してください」と。親から移植してもらうことがまず第一らしいんです。
俺、電話するのがすごい嫌で。芸人になるっていうのでまず迷惑かけてるんです。親父は学校の先生になってほしかったらしくて、芸人も大反対されて。でも無理やりこの道を選ばせてもらって、群馬の田舎から上京して、お金もないからNSC1年目のころは仕送りももらって。
僕が言うことではないですけど、100歩譲ってお金と自分の職業の選択は「子供として迷惑をかけられるギリギリのライン」だと思ってたんです。で、ここから「腎臓1個分けてくれ」は、ラインを越えているなと。
当時72歳だった高齢の親父から腎臓1個分けてもらうって……。東京行ってお金もなくて体悪くして、芸人としても売れていなくて。でも手術も決まってたんで、電話するしかなくて。
母親が出て、「腎臓があんまりよくないって話してたじゃない? 実は移植をしなきゃいけないんだよね。両親に移植できるか確認を取ってくれって言われたんだ」と伝えて。俺、超怒られると思ったのに、母親が第一声で「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」と言ったんですよ。俺、電話越しで泣きそうになって。しばらく電話離して上向いて泣かないようにして。もう1回電話に耳傾けたら、母親はずっと「ごめんねごめんね」って謝ってきて、「そうじゃない、俺のせいだ」ってやりとりを何回もしました。
で、病院で検査がある日程を伝えたら、「誰の腎臓が合うかわからないから」って田舎から親戚一同で来てくれたんです。
秋本 歳いったお父さんなんですよ。おじいちゃんみたいな。何回も会ったことあるんですけど、あったか~い、やさし~い親御さん。
相方が病気になって気づいた<初心>と<優しい芸人界>。そして<相方の大切さ>
秋本 こいつが手術決まったときに、ルミネの出番の間で「ちょっと話がある」っていきなり言われて。
久保田 舞台ウラの奥のほうまで連れて行ってね(笑)。
秋本 10年間で1回もそんなことなかったから、「あれ? これいよいよ解散って言われんのかな?」とすごい怖くて。そしたら、「実はこういう理由で、いったんお休みしてもいいかな?」って。僕はもう解散告げられると思ってるから「いいよいいよ!」しか出てこなかった。それよりも彼がこのタイミングじゃないと命がやばいっていうから。
久保田 手術をしないと3年で死ぬって言われてたんです。
秋本 僕も生き死にの話ですから不安で。手術しても戻ってこられるのか?っていう。
──告げられた秋本さんも、相当ツラかったですよね。
秋本 でも、いい意味で感謝をしていて。
僕はその間ひとりになるんですよ。もともと入っていた仕事、スタッフさんに「久保田さんいないから出ないですよね?」って言われたんですよ。なんか俺、それにちょっとムカついちゃって。「いやいや、出ますよ!」って言って初めて出たピンの仕事が、とろサーモン、僕、中川家っていう順番で(笑)。劇場はウケて、スベって、ウケてました。
だから、そのピン活動の期間に“芸人の初心”を思い出したんです。ボケに頼ってちゃいけないなって。病気になってるんで感謝って表現は違いますけど、いい経験にはなったなって。コンビで長くいると、相手のせいにすることもあるじゃないですか。そういうのよくないって気づきました。
──ピンで活動された期間はどれくらいだったんですか?
久保田 4カ月かな?
秋本 先輩方も本当に優しくて。僕ら(博多)華丸・大吉さんにずっとお世話になってるんです。久保田が報告に行ったときに「相方は任せておけよ」と言ってくれたらしくて、本当に飯に連れて行ってくれました。久保田だけじゃなく、俺のことも気にしてくれたんです。
ザ・パンチの(パンチ)浜崎さんなんて、「バイトとかあんの? 大丈夫?」って言いながらクッチャクチャのお札くれて「なくなったら言って!」って。昭和の芸人ですよね。「バイトしろって言わねえから! いいじゃん! 久保田がいないことを笑いにしてこうよ!」って。相方がそうなって、芸人の世界にいてよかったなっていうのと、相方がいないと困るなってことにちゃんと気づけたんです。
久保田 なかなかないもんね、そんなことって。
秋本 生死に関わる話はないからね。戻ってくるかどうかが超不安でしたね、僕は。
こいつ、愛されてるんで芸人がいっぱいお見舞いに来てくれてたんですよ。僕もそれは知ってて。でも僕は1回しか行かなかったんです。行きたかったんですけど「気遣うだろうな」って。「心配させてごめんな」って思わせるのも嫌じゃないですか。だから手術前に1回だけ行って、恥ずかしいですけどお守り渡すくらいしかやれることがなくて。だって、いっぱい行ってネタの話とかするのも違うし……。一番相方のことを考えたタイミングじゃないですかね。
涙が止まらなかった手術までの4カ月間。管だらけなのに顔芸を見せる“芸人魂”
──この件で「コンビ解散」や「芸人を辞める」という話にはなりましたか?
久保田 「解散話」はないですけど、手術のリスク……たとえば、もしかしたら右足動かなくなりますとか、過去の事例を全部説明されるんです。そうすると「ひょっとしたらそういう可能性もあるのかな」とかは思いましたね。
2016年3月に、7月に手術することが決まりました。その4カ月間は、普通に仕事していたんです。けど、仕事帰りの電車の中で涙出てくるんですよ、不思議と。本当ボロッボロ出てくるんで、ホームに1回降りて涙拭いて、また乗って。で、2駅くらい進むとまたボロッボロと涙が。最寄駅の1個前で降りて歩いて帰ってもその途中で泣いてるし……。
親とか相方もそうですし、今の奥さんである当時の彼女のこととかよぎるんです。たとえば相方が「お前の身体のことなんだから、こっちは心配しないで手術行ってこいよ」って言ってくれたこととか、うちの母親の電話でもらった言葉とか。考えないようにするんですけど、やっぱりよぎるんです。
秋本 なかなかその若さで生死に関わることってぶつからないですからね。1回お見舞い行ったときに、彼が管だらけで。その姿見て、本当は心の中で「大丈夫かな?」と思ったんですけど、まぁ病人にそういう感じ見せるわけにもいかないから。で、相方も顔芸とかやり出すんですよ。
──久保田さんの気遣い、ですね。
秋本 その写真撮って芸人仲間に見せたらもうみんな感動しちゃって。「こんな状態でも久保田は超芸人だな。すごいな」って。がんばってほしい、本当に帰ってきてほしいってみんな言ってましたね。
芸人仲間からの愛のあるお見舞い、そして相方からのお守り
秋本 でもやっぱり、芸人の見舞い話聞いたらおもしろいんですよ。そんな状況なのにめちゃくちゃエログッズ持っていったり(笑)。
久保田 しずるのふたりですね。もらったエロ本とかアダルトグッズを自分の個人ロッカーにしまうんです。でも集中治療室に移動するとき「荷物全部移動させますね」って看護婦さんに言われて、「あっ、ちょ、大丈夫です」とか言って無理やり彼女にやってもらって。何が悲しくてこれから手術する彼氏のエログッズを移動させる彼女がいるんだっていう(笑)。
秋本 本当は笑ったら痛いらしいんですよ、管だらけだったから(笑)。
久保田 痛かったですね。けど、笑って楽しかったです。
──先ほどお話にも出た、秋本さんからの“お守り”について詳しく聞かせてください。
秋本 僕『いろはに千鳥』放送内での、そのみちゃん(久保田の妻)の手紙で、相方がそのお守りをカバンにずっとつけてくれてることを初めて知ったんです。
──それまで気づかずに?
秋本 あげたお守りを手術のときに持ってくれていたのは聞いていたんですけど、いまだにつけているのは知らなかったです。
久保田 僕もその手紙を読みながら気づいたんですけど、今思えば、お守りをつけていることを嫁に見せてないし、「これつけてんだ~」とも言ってないんです。だから、勝手にそういうところも見てくれてるんですよ。それもうれしかったですね。
実は僕の手術と同時進行で、嫁のお母さんが乳がんの末期だったんです。だから嫁は、東京で僕がいる病院に来て、福島のお母さんとこ行ってって、連日往復してて。だいぶ迷惑かけました。だから、収録中の涙は、相方と嫁への「ありがとうございます! いろいろ面倒かけてます!」っていう涙でした。
秋本 びっくりしましたもん(笑)。でもなんか、本当こいつらしいっていうか、物をすごく大事にする人なんです。1年目に衣装で買ったハーフパンツを、20年目の今も履いてるくらい。
久保田 今そのお守りをつけているカバンも、嫁が初めて僕に誕生日プレゼントで買ってくれたものなんです。かなり年月経ってるんで、取手とかもボロボロ。でもなんか捨てられないし、そういうのは大事にしたいですねぇ。
相方の結婚式で大号泣。<血縁関係>のような関係性
──病気を乗り越えてコンビ仲は深まりましたか、という質問を用意していたんですが……その質問、する必要がないですね。
秋本 (笑)。自然とそうなっちゃいましたね。
久保田 なりますね(笑)。
秋本 もともと、揉めない性格同士ではあるんですよ。仕事で言い合ったりした時期もありましたけど……本当に仲悪いとかはないです。僕らの同期って、コンビの解散が多いんですよ。でも僕らはお互いほかの誰とも組まずに来てるんで、まぁそういうのも縁なのかなぁ、とか思いながら。
──もともとコンビ仲がよかったんですね。
秋本 でもなんか、年々よくなってる気がします。歳食ってって。僕が人生で一番泣いたの、彼の結婚式なんです。親戚のおじさんみたいにずーっと動画とか写真撮ってて、まわりの芸人も「そんな相方いる?」ってゲラゲラ笑ってました。でも俺は「いいだろいいだろ! めでてぇんだし」って言いながらボッロボロと……。
──そんな相方さんいますか?(笑)
秋本 (笑)。でも、素直にうれしいじゃないですか。群馬から出てきた歳下を、歳上ぶってちょっとかわいがるみたいな……。昔っからお互いの恋愛話をよく知ってるのもあるし。相方が昔好きだった子に変なアタックして嫌われたエピソードとか……。
久保田 やめろぉ!! やめろ、やめろぉ!(笑)。
秋本 もっとあるよ。突然「どこいるの?」って電話してきて、「どしたの?」って聞いたら「彼女に振られたから話聞いてほしいんだよねぇ」って(笑)。
久保田 やめろぉ!!(笑)。
──振られたときに“相方”に話を聞いてもらいたいって思うのって、珍しいコンビのように感じます。
久保田 ……確かにそうですね(笑)。
秋本 同級生じゃないコンビでその感じ、まわりではなかったかもしんないなぁ……。
久保田 そうねぇ。ほかに印象的なことは、うちの相方が最近付き合った子がいて。僕と嫁はめっちゃ喜んでたんですよ。これでようやくふた組で家族同士の付き合いができるなと思って。でも別れちゃって……俺何気に本当ショックでしたからね。
秋本 俺、振られたのを一番最初に話したのこいつですからね。電話で「あのさぁ……振られちゃったぁ!」って。
久保田 僕も「おい~! まじかよ~! なにそれ~!」って(笑)。
秋本 ノブコブの吉村とかは、のどちんこ見えるくらい口開けて「やった~!! そうでなくっちゃ~!!」とか言ってたけど、相方は芸人のソレとは違いましたね。
久保田 本当にショックでしたから(笑)。どっちも結婚してるコンビ、たとえば品川庄司さんとかがたまに家族ぐるみで食事するみたいなの、憧れるんですよ。
秋本 なかなか僕がね……。だから今は、久保田の娘のことを自分の姪っ子だと思っています。フェイスブックでそこだけチェックしてますから、今。
──でも本当に、親族のような、血縁関係のような空気をおふたりから感じます。
久保田 あ~、そうなってるかもしれないですねぇ。
目標は史上初の“ルミネのトリコント師”。売れて、先輩方に恩返しがしたい
──これから芸人、コンビとしての目標があれば教えてください。
秋本 もちろんテレビも出たいですし、売れている同期と並んで一緒にやりたい、お世話になった先輩に恩返ししたいとかいっぱいありますけど……でもやっぱり、ずっと劇場に立っていられる芸人でいたいです。
久保田 史上初の“ルミネでトリを飾るコント師”にならないとダメなんですよね。基本トリは漫才師なんで、任せられるくらいにはなりたいですよね。
秋本 僕ら、本当に志村けんさん大好きだったから……ルミネでドリフみたいなことしたいです。
久保田 志村さんへの想いをツイッターでちょっと書かせてもらっていて、それだけちょっと見てもらえたらうれしいです。
秋本 奇跡的に志村さんの誕生日会に参加させていただいたことがあって、そのときにみんなに配っていた志村さんverのビックリマンシールを、ふたりでお守りにして大切に持っています。
──おひとりずつ、個人の人生の目標はありますか?
秋本 どうだろうな。でも……「死なない」だよな?
久保田 まずはそうですね。
秋本 そしてやっぱり、売れたいです。最近ふと思うんです。芸歴積んできて歳も取ってると、あと何年この体動くのかな、あと何回相方とネタやれるだろうとか。
久保田 売れればその回数も増えるしね。華大さん、千鳥さん、パンクブーブーの黒瀬(純)さん、ペナルティさん……ほかにもお世話になった先輩方にも恩返しできるし、一番いいですよね。全員が幸せになれるんで。
──おふたりは本当にまわりへの愛が強くて、同時に芸人さんからもすごく愛されていますよね。
久保田 ありがたいことにそれはよく言っていただけるんです。芸人が袖から観て笑ってくれたりとか、愛をすごい感じるんでうれしいですね。バカにされてるだけかもしれないですけど(笑)。
──最後に、この記事の読者にひと言お願いします。
秋本 これをきっかけに我々「5GAP」っていう、第七世代ではない古いおじさんコンビを知っていただいて、今はコロナ禍で大変でしょうけど、ぜひ劇場に観に来てもらいたいです。ほかにもおもしろい芸人さんいっぱい出ているんで、僕らと1セットで一緒にいっぱい笑っていただけたらうれしいです。
久保田 僕の変な動きとかを観て、笑ってください。
<おまけ>YouTubeチャンネル『5GAPのピッ!ピッ!ピッ!』
5GAP公式チャンネル『5GAPのピッ!ピッ!ピッ!』は、コロナ自粛期間に久保田が編集もすべて覚えたとのこと。ふたりのおすすめは、久保田の「お友達キャラクター」シリーズ。コメントは実際にホワイト赤マンが自ら返信しているらしい(最近は更新がちょっとご無沙汰になっているとのこと)。