やさしいズ・タイ×9番街レトロが語る、ウケるだけじゃない会場中がワクワクする企画ライブの作り方

2025.12.25
やさしいズ・タイ×9番街レトロ

文=浜瀬将樹 撮影=澤田詩園 編集=梅山織愛


お笑い芸人が自ら中心となって主催する企画ライブは、どのように発想を得て企画されているのだろうか。そこには演者も手ぶらで楽しめる仕組みや、客席を巻き込む発明的なアイデアが詰まっている。即興性や一体感を大切にしながら、時に“お笑いの実験場”ともなるその舞台には、芸人たちの哲学や挑戦心がネタより色濃く表れることも。

そこで、さまざまな企画ライブを主催するやさしいズ・タイ、9番街レトロのふたりに、それぞれの企画ライブの哲学を聞いた。

タイ
1985年6月26日生まれ、東京都出身。やさしいズのボケ担当
京極風斗
(きょうごく・かざと)1995年8月9日生まれ、大阪府出身。9番街レトロのボケ担当
なかむらしゅん 
1994年1月24日生まれ、大阪府出身。9番街レトロのツッコミ担当

主催ライブでは、なるべくゲストに負荷がかからないように

やさしいズ・タイ×9番街レトロ

タイ 基本は自分がやっても楽しそうだな、と想像した企画をやります。あと、僕もプレイヤーとして出ることがあるので、なるべく手ぶらでできる楽しいものを考えるようにしています。

なかむらしゅん(以下、なかむら) タイさんのライブすごいっすよ。マジでリハーサルないんで。

タイ なるべくリハをせず、手ぶらで出られるのがいい。せっかくライブに来てもらったのに、何か用意してきてもらうのが申し訳ないなって思うんですよ。昔、企画ライブに呼んでもらったときに「いや、おもしろいけど、なんでこんなに準備が必要なの?」と思うことがあって(笑)。だからなるべくノーカロリーで楽しみつつ、何をしゃべってもウケる仕組みを作れたら最高だなと思っています。

京極風斗(以下、京極) 「ゲストに負荷がかからないように」「手ぶらで来られるように」というのは一緒なんですが、僕は自分が好きなのもあって大喜利系の企画が多いですね。基本、「企画ライブをしないといけない」ことなんてないので、思いついたら劇場に申請するようにしています。なので、ひとりでやる企画ライブが多いかもしれないです。

京極 そうですね。人間って売れてもスベるじゃないですか。スベったときにテンパったらもう取り返しがつかないので、気持ちをリセットできるよう鍛えています。

なかむら 僕が心がけているのは一個だけ……。一日一善(机を2回叩く)。

京極 何してんねん。文字で「一日一善、コンコン」って載るんか?

なかむら 間違えました。僕が企画ライブをやるときは、ウケ方が見えてないとやらないので、実験的なことはしないんです。個人YouTubeチャンネルのライブ『劇場版えぐいっちtokyo(仮)』では「この人とこのくだりをやる」と決めた人だけを呼んでいます。

タイ それすごいね。新喜劇みたいなことじゃん。

なかむら そうですね。あと、ハードルを下げるために、当日まで自分以外の演者は発表してないんですよ。「たまたまそこで起きたこと」みたいに振る舞っています。

なかむら いいんです。茶番なんで!

タイ 楽しくやってくれそうな人、普段見ていて僕が「勉強したい」と思う人、あと「出たい」と声をかけてくれた人などを呼んでいます。キンボシは食べさせていかなきゃいけないので、親心で呼ぶことがありますね(笑)。

京極 大喜利系の企画は、大喜利が好きな人か嫌いではない人を呼ぶことが多いです。あと、大喜利が苦手でもしゃべるとおもしろくなる人もいるんで、そうした人を呼ぶこともありますね。負荷をかけてしまうのが申し訳ないので。

なかむら でもたまに負荷をかけたらおもしろくなる人もいらっしゃるんですよね。

タイ そうなんだよなー。

やさしいズ・タイ×9番街レトロ

出演者も楽しい企画ライブの1位は…

京極 タイさんシリーズは全部楽しいです。

なかむら スケジュールを見たときに、昼にネタ3本の寄席があって、夜にタイさんの企画ライブがあったら、夕方くらいで仕事が終わってる感覚というか。あとは楽しむだけみたいな。もちろんライブの中でボケるんですけど、やっぱり楽しさが勝つんですよね。

タイ そういう気持ちでいてくれるのはうれしい。

京極 ほかでいうと、マルセイユ別府(貴之)さんのライブ『名別府スグン』シリーズもおもしろいですね。目隠しとヘッドホンをした別府さんがお題に対して何をするのかをほかの演者が当てるだけなんですけど、別府さんが1個目の動きをやるから、がんばったら当てられるんですよ(笑)。

タイ あれはすごいよな〜。

京極 これの何がおもしろいって、当の本人はアーカイブを見返すまで、何が起こったか知らない点なんです。別府さんは1時間のライブ中、50分間何も聞こえないし、何も見えていない状態。あれは楽しい企画やし、負荷があるのは別府さんだけです。

なかむら こういう企画って回答する側はだいたいボケるんですけど、『スグン』だけはボケたら「もうええって」っていう空気になるんですよ。

京極 「それやりそう!」を答えたほうが盛り上がるんで、ウケを狙わなくていいんです。やりそうなやつを出して、別府さんがそのとおりやったときの盛り上がりがエグいです。

タイ 囲碁将棋さんの『あわせましょうポーカー!』もおもしろいですね。よくある「合わせましょう」をポーカーの役とかけ合わせているんですけど……。ルールが複雑なので、マジで配信を買ってみてください! 「『ニノさん』(日本テレビ)でやればいいのに」って話をしたほど盛り上がりました。

なかむら 僕は企画ライブの1位を知っているんですよ。タイさんの『最強のクラスを創造して、運命の席決めをする』です。

タイ あれね(笑)。

なかむら たとえば「学校一のヤンキー」というお題があったら、そこに自分たちや芸能人を含めて合う人を当てはめていく。みんなで考えながらやるから楽しいんですけど、最後の20分で席替えタイムが入るんです。これがおもしろい! お客さんも「そことそこが隣!?ヤバッ!」みたいな反応になるし、僕らも久しぶりに席替えをしてる気持ちになれるので、むっちゃ盛り上がるんです。

京極 僕の主催ライブは、なぜか自分が楽しいと思えば思うほど、売れないんですよね。デシベルを測る機械を用意して、100を超えないと僕に聞こえへんという企画ライブ(『超大声ライブ~マイク割れるまで~』)や、大声で笑いを取ったらアカン『大声禁止ライブ』もやったんですけど、そういうライブって僕自身、めっちゃ楽しいのに売れないんです(笑)。

客席も企画に巻き込む発明的ライブ

やさしいズ・タイ×9番街レトロ

なかむら タイさんの『最強のクラス』もだいぶ発明やと思いますけどね。

京極 タイさんの企画ライブは全部そうですよ。

タイ ありがとう。うれしいわ。骨折しているように見える写真を持ち寄る『骨折-1グランプリ〜早く病院に行って〜』とか、kento fukayaの企画ライブもおもしろいんだよな〜。あと、ニッポンの社長・辻(皓平)さんの『あるあるサクセション』もすごい。ひとつのテーマであるあるを出していく企画なんですけど、あれもだいぶ発明だなと思います。

京極 発明もクソもないですけど、まるむし商店・磯部(公彦)さんの『いそべのゲームワールド』は、磯部さんのスピードでやりすぎてるおもしろさがあるんです。マジで説明なしにボンボン次行くんで(笑)。

なかむら 自分のライブだと、チンベルをお客さん全員に渡して、おもしろくないと思ったら鳴らしてもらう企画。まだおもしろくなってない時間にベルの音鳴って盛り上がっちゃうとか、演者が出てきただけでチーンって鳴って「何が?まだ判断せんとってよ」みたいなこともあって(笑)。わりとよかったんですけど、全額自腹でチンベルを買うから金かかってしゃーないです。

タイ 毎月やってる『庭』で毎回3つくらい企画を出すんですけど、最初はその中のひとつでした。「そもそもクイズって問題に対して回答するけど、問題がなかったらどうなるんだろう?」みたいなところから始まって、ライブでやってみたらすごく盛り上がって……。

なかむら このライブのダイジェスト配信がXで流れてきたときに、おもしろそうすぎて配信買いましたもん。いち早くタイさんに「出させてください!」ってお願いしました。

京極 芸人なんで、ウケるために努力してしまうんですけど、それがめっちゃ空振るんです。とにかく真剣に取り組んで当てにいくしかない。外すとスベった空気になるから、めっちゃ楽しいけど、めっちゃムカつきもするっていう。

京極 このライブには「入れる」という概念があるんです。たとえば答えが「ゾウ」やったとき、誰かが別の動物を答えたら、カテゴリーは合ってるから、「入った!」って盛り上がるみたいな。僕、けっこう入れるほうなんですけど、入れても人数が多いとなかなか次の解答権が来なくなるから、答えをかすめ取られることもあって。

なかむら それがいいんですよ。「(答えは)さすがにあれやろ」ってなったときに限って、全然わかってなかったヤツに解答権が回っちゃう(笑)。

京極 クイズ自体はほんまに「バカにしてんのか」というくらい簡単なんですよ。あのクイズに対して、大人があれだけ本気でやってるのがおもしろいなと思います。

『超難問』は、じゃんけんよりルールが簡単

やさしいズ・タイ×9番街レトロ

なかむら 出てるメンバーがエグすぎるんで、ここで優勝したいっすね。QuizKnockの鶴崎(修功)さんも出られますけど、クイズ系の企画で唯一勝てる可能性があるっていう。

京極 ここで優勝できたら気持ちいいやろうな〜。

タイ このライブで優勝する人って、運もある人だし、全力で挑み続けられる人だし、やっぱり売れる人なんだろうなと思います。

タイ めちゃくちゃプレッシャーですよ。たぶん、この会場でお笑いライブをやるのも初めてだと思うので、不安なぶん楽しみもあるというか。みんなに「楽しかった」と帰ってもらえるようにしたいと思っています。演出面もいろいろと考えていますね。

タイ よみうりホールでやったときは歓声がうねるというか……。ダンビラムーチョの原田フニャオが一発当てをしたんですけど、叫び声が聞こえてきました。

タイ 感じたことを素直にリアクションしていただければと思います。それを頼りに演者が答えを探る参加型の楽しさがありますし、落胆したり、喜んだり、スポーツ観戦みたいな楽しみ方もできます。

京極 ほんまにサッカーのゴールぐらい盛り上がるんですよ。しかも、それがとんでもない頻度で来るので、単純にその音で元気になると思います。

タイ お客さんの脳汁もすっごい出るんじゃないですかね。

なかむら このライブでは、「どうやって楽しんだらいいかわからない!」なんてことはあり得ないと思うんですよ。じゃんけんよりルール簡単なんで。

京極 バカバカしいっちゃバカバカしいですけど、それがシンプルでいい。

タイ やらなくてもいいムダなことを一生懸命やって、それを見て笑うって、お笑いのいいところが詰まっていると思うんですよね。

京極 別にお笑いに興味がなくても、なんならちょっと芸人が嫌いでも盛り上がれる企画ライブなので、ぜひ来てほしいですね。

タイ そうだね。お笑いめっちゃ好きな人も、普段のライブでは見られない芸人の顔が見られるし、見たことのない笑いが生まれるので最強だと思います。

京極 あと、やっぱりこのライブは現地がいいんですよね。

なかむら たしかに。それが如実に出るライブだと思います。

京極 もちろん配信もおもしろいけど、現地観戦のあの感じは体感できないですからね。

なかむら でっかい拍手とか大きな歓声に圧倒されて、泣いちゃう人も出てくると思います。

タイ 演者はもちろん、お客さんのライブでもあるので、たくさん入ってくれればそれだけ楽しいし、僕たちもアドレナリンが出て、よりはしゃぐ。ぜひ、体感しに来てほしいですね。

やさしいズ・タイ×9番街レトロ

やさしいズタイpresents『超超超、超超超、超超超超超難問王決定戦 超大晦日
日時:2025年12月31日(水) 13:00開場/14:00開演/16:30終演
会場:TOYOTA ARENA TOKYO(東京都江東区青海1-3-15)
出演者:やさしいズ・タイ
銀シャリ、見取り図、相席スタート・山添寛、ロングコートダディ、マユリカ、キンボシ、コットン、紅しょうが、レインボー、エバース、9番街レトロ、令和ロマン・松井ケムリ、モグライダー(マセキ芸能)、ヒコロヒー(松竹芸能)、かが屋(マセキ芸能)、佐々木久美(Seed & Flower合同会社)、花澤香菜(大沢事務所)、和田雅成(ルビーパレード所属)、佐久間一行、ニューヨーク、男性ブランコ、バッテリィズ、QuizKnock・鶴崎修功(ワタナベエンターテインメント)
料金:「超超超、超熱狂席」前売7,800円(先行予約にて受付終了)「超熱狂席」前売5,800円/当日6,500円/配信2,500円
FANYチケット:https://ticket.fany.lol/event/detail/7893
FANY Online Ticket:https://online-ticket.yoshimoto.co.jp/products/cho-cho-cho-namon-ol-251231

『えぐいっち学習ノート3冊セット』
発売日:2026年1月30日(金)発売
価格:1,650円(税込)
仕様:B5/3冊セット

【ご購入者様の名前入り特別版】『えぐいっち学習ノート3冊セット』

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浜瀬将樹

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浜瀬将樹

(はませ・まさき)1984年生まれのライター、インタビュアー。お笑い、ドラマ好き。移動中に深夜ラジオ聴くのが癒やし。