「おもしろくなさをおもしろがる」ピン芸人kento fukayaが追求する独自の“お笑い”と今後の構想

2025.6.11

文=釣木文恵 撮影=上村 窓 編集=脇 みゆう


『R-1グランプリ』決勝を3回経験しているピン芸人、kento fukaya。自身のネタ以外にも、「さえない似顔絵」をはじめとしたさまざまな企画ライブが話題を呼び、最近ではプロデュースを手掛ける芸人アイドルグループZiDolが高い注目を集めている。活動を広げ続けるkento fukayaに改めてこれまでの歩みを語ってもらうとともに、「おもしろい」に対する独自の感覚、そして今抱えている思いを聞いた。

kento fukaya
NSC大阪校33期出身。ピン芸人として、「R-1グランプリ」2021、2022、2024年ファイナリストに。自身の同期である、マユリカ中谷、ニッポンの社長ケツ、男性ブランコ浦井、紅しょうが稲田、スーズ高見の5人による芸人アイドルグループ・ZiDolのプロデューサーでもある

奇行を繰り返すどん底の日々から「人間的なおもしろさ」で芸人の道へ舞い戻る

どっちがいいですか? 全部ウソで答えるか、それとも真面目か。

高校時代、ウッチャンナンチャンさんやさまぁ~ずさんの深夜番組を観て、「めっちゃおもしろいな」と。気だるそうだけどめっちゃ楽しんでる感じに憧れたのが最初です。そのうち『オンエアバトル』(NHK)でネタというものを知って、「これはやってみたいな」と思うようになりました。

親がけっこう厳しめだったので、「大学は行ってくれ」と。お笑いに一番近そうな学科を調べたとき、一番上に出てきた京都造形芸術大学の映画学科俳優コースに進学しました。で、大学時代にお金を貯めて、大阪のNSC(吉本の養成所)に。


『オンバト』で好きだったのは「テンダラーさんの、しかもコント。『すいますいません』というフレーズがめっちゃおもしろくて」

めっちゃリアルでおもしろくない話になりますけどいいですか? 僕はNSCで初めて生のお笑いに触れて。みんな関西弁でおもしろくて、圧倒されたんですよ。そんな中まず最初にコンビを組んだ人はホストだったんですけど、すぐに飛んでしまったんです。で、次に組んだ相方がツッコミのうまいエリートで。そいつから「お笑いってこういうもんだ」とか毎日いろんなことを言われまくっていたら、ある日ストレスで目がうまく開かなくなっちゃったんですよ。

さらに、その薬の副作用で鬱っぽくなってしまって。NSCにも行かなくなり、気づいたら裸足で銀閣寺を歩いたり、パチンコで千円入れたけど座ってられなくてそのままどっかに行ったり、奇行を繰り返すようになり……。そんな人生の最底辺のとき、映画学科の仲間に「お前おもろいな」と声をかけられて『カミハテ商店』(2012)という映画に出演したんです。この作品が海外の映画祭に招待されて、レッドカーペットまで歩くことになって。同じ映画祭にモーガン・フリーマンもいました。

それを観た滝音の秋定(遼太郎)が「全く売れてないヤツが映画出てレッドカーペット歩いてんの、おもろいな」とわざわざ連絡をくれたんです。そのとき「ネタ以外でも人間的におもしろいことってやれるんだな。違う角度から一気にまくることもできるんだな」と思えたんですよ。しかもこうして映画に出るのって、最初に憧れたウッチャンナンチャンさんの、社交ダンスをやったり、曲を出したりする企画みたいじゃないですか。そう思ったら楽になって、無事芸人の道に戻ってくることができました。今度はまず自分が好きなことをやってみようとピン芸人として活動を始めたら自分に合っていた、という感じです。


「さえない似顔絵」という人気企画があるように、「さえない」はkento fukayaにとって重要なキーワードのひとつ。「自分自身が誰よりさえない存在というのもありますし、『陰キャ』とかより愛があってやさしい感じがして好きなんです」

「意味がわからないものが売れる」のが楽しい

そうだと思います。もちろん最初は簡単にはいきませんでしたよ。数年前、ふと高見(スーズ、当時はヒガシ逢ウサカ)のことを「非TikToker」と表現したらダブルヒガシの大東(翔生)がめっちゃ笑ってくれて、2人で6時間くらい盛り上がって。「これをイベントにしたい」とよしもと漫才劇場の支配人にお願いしたんですけど、「意味がわからなすぎるし、集客できないからダメ」と言われたんですよ(笑)。3回断られたくらいの時期に、コロナ禍で劇場にお客さんを入れられなくなってしまって。「無観客なら」ということでようやくイベントが実現したら、いきなり配信が500枚くらい売れたんです。その実績で、客入れ再開してから「まきのちゃん」という誰も知らない50代のおじさんをフィーチャーしたイベントもできました。劇場には100人くらいしか入りませんでしたけど、その配信が700枚。骨が折れているように見える写真を集めた「骨折-1グランプリ」からは配信1000枚超えるようになって、謎のムーブメントが生まれて。

芸人さんが楽しんで広めてくれたのが大きかった気がしますね。ロングコートダディ堂前(透)さんとかニッポンの社長辻(皓平)さんとか、人気のある芸人さんたちもおもしろがって協力してくれました。僕にとっては「意味がわからないものが売れる」こと自体がお笑いなんですよ。だから利益は関係なくいちばん安い金額で配信チケットを販売してました。わけのわからない企画ライブに全力を出す。これが僕の“キモ青春”の始まりです。

そのピークがZiDol(マユリカ中谷、ニッポンの社長ケツ、男性ブランコ浦井、紅しょうが稲田、スーズ高見によるアイドルユニット)のプロデュースです。今でこそすごいメンバーですけど、結成当時は中谷とケツのツーマンライブのお客さん、20人くらいでしたから。そういう人たちを集めてアイドルを作るというおもしろさですよね。このときはちょっと工夫して、10ヶ月間動画を撮り貯めて、本物のアイドルのオーディション番組のようにYouTubeで出していきました。そしたら最初のライブから配信チケットが3000枚くらい売れたんですよ。


Zidol結成当初、借金を背負って知り合いの作曲家である馬瀬みさきに依頼し、いきなりプロレベルの楽曲を作った。「こんなにも売れそうにないメンバーを集め、これだけお金をかけて高いクオリティのものをやる、というお笑いでした」

ちょっとでかくなりすぎて暴走してる部分もありますけど(笑)。彼らを本当にアイドルとして観ている人もいる、それもまたおもしろいですよね。

「誰も求めてない」ところにホームランの可能性がある

大阪って、泥臭いんですよ。スベってからが勝負なんです。もちろんスベらないのがいちばんいいんですけど、スベってしまったときはそこからスベリを重ねていって、最後ホームランを打てるようにがんばる。でも東京では積み重ねている途中で「もういいよ」となることが多くて。どちらがいいとか悪いとかはないんですけど、そこは文化の違いだなと思います。

あと、これは大阪というよりは僕と辻さん、ビスブラのきんちゃん、ダブルヒガシあたりが共通して持っている感覚なんですけど、「おもしろくなさをおもしろがる」んですよ。「誰も求めてないやん」「なんなん、その角度?」というものが僕はいちばん好きなんです。もちろん東京にも、そういう感覚を共有できる人はいて。特にネルソンズ岸(健之助)さん、ダンビラムーチョ、ケビンス仁木(恭平)あたりはそのニュアンスを理解してくれてるな、という感じはしますね。

そうですね。たしかに去年は満足感が一度マックスまで行きました。でも今は「これじゃダメだな」と思っている段階です。

ロングコートダディさん、ニッポンの社長さん、マユリカ、ビスケットブラザーズ、滝音、紅しょうが……。昔から仲いい人たちがどんどん売れて大活躍していくじゃないですか。だから僕も負けないように知名度を上げていかないと、と。もちろんピンが茨の道だということはわかっていますけど、自分で選んだ道ですからね。言い訳せずにプレイヤーとしてもがんばって、ちゃんと僕自身のおもしろさも認めてもらえるようにならなきゃなと思っています。

自分のダサい部分を全部見せて、泥臭く

FESではとにかく「深夜にテレビを観て、声出して笑う」ようなものを舞台でやりたくて。僕、芸人に笑ってもらうのが好きなんですよ。もちろんお客さんが笑ってくださるのが大事ですけど、芸人が笑ってると、お客さんもおもしろがってくれることが多いんです。だから、両方に同じくらい楽しんでほしい。今回も人気の芸人をたくさん呼んでいますし、彼らは元々おもしろいから毎回必ず活躍してくれますけど、その中でもちゃんと自分がいちばんキツい役割を担えるように。これは企画ライブをやるとき、常に心がけていることです。

僕、いまだに「仲いい人と全員で一緒に売れたい」という1、2年目の芸人が抱えているような気持ちを捨てられないんですよ。仲いい8組くらいでゆるくやったり、時にはみんなで無茶したり、それが僕の理想なんです。そのためには僕が今知名度を上げるしかない。今は引っ張ってもらうばかりだから、僕も引っ張る側になりたい。僕がもっと売れていれば、ZiDolも今よりさらに人気者にできるし、FESももっとでかい規模でできるはず。そのためにはおもしろくならないと。

僕、けっこう人間味がなさそうに思われがちなんです。でも、全然そんなことなくて。企画ライブを通じて青春を味わったり、「みんなで売れたい」と考えたり、こういうダサい部分ももう全部出していこうと思っています。だからユニットのらぶらいken(らぶおじさん、今井らいぱちと組んでいたユニット。現在は「らいken」としてふたりで活動)もドキュメンタリーユニットとして、何か動きがあれば全部をYouTubeで伝えるようにしていますし。最初に「ウソがいいですか?」と聞いたように、本当は全部ウソばかり言って、飄々としていたいんです。でも今の僕はそんなこと言ってる場合じゃないから、泥臭く全部を見せていきたいと思います。


次にプロデュースしたい存在は?「札幌吉本とか名古屋吉本あたりで、劇場に出てるか出てないかくらいの、どうなるかわからない人をフィーチャーしてみたい。『なんでこれをおもしろがるの?』というところからホームランを打ちたいんです」

kento fukaya FES in OSAKA
日時:2025年6月13日(金)18:30開場 19:00開演
会場:大阪・なんばグランド花月
料金:前売5000円/当日5500円/配信2500円
<出演者>
kento fukaya/金属バット友保/吉田たちこうへい/ツートライブ/黒帯/ニッポンの社長/ビスケットブラザーズ/マユリカ/滝音/隣人/紅しょうが/カベポスター永見/ダブルヒガシ/豪快キャプテン/ドーナツ・ピーナツ/真輝志/フースーヤ

kento fukaya FES in TOKYO
日時:2025年7月11日(金)18:30開場 19:00開演
会場:東京・ルミネ the よしもと
料金:前売5000円/当日5500円/配信2500円
<出演者>
kento fukaya/アインシュタイン 河井/シカゴ実業 山本/カゲヤマ 益田/ロングコートダディ/ニューヨーク/ニッポンの社長 辻/野澤輸出/大自然 ロジャー/ビスケットブラザーズ きん/マユリカ/今井らいぱち/ケビンス 仁木/ZAZY/滝音/シモリュウ 前田/コットン/さや香/紅しょうが/バッテリィズ/エルフ/ド桜 村田/シークレットおじさんあり

ZiDolアルバム情報

1stアルバム『the idol』
発売日:2025年7月23日(水)

■初回限定盤A(CD+DVD)
価格:¥4,000(税込)
仕様:CDアルバム1枚+DVD1枚
【トラックリスト】
01.似非デレラ
02.today is まにまに
03.maddy muddy(feat.らぶおじさん)
04.赤裸々のリラ
05.ダリアマリア
06.夜が笑う
07.リバプール・ママレードボーイ
08.泣いたっていいよ | らぶおじさん
09.臭口臭 | kento fukaya
10.似非デレラ(Chinese Ver.)

■初回限定盤B(CD+写真集)
価格:¥4,000(税込)
仕様:CDアルバム1枚+写真集(36P)
【トラックリスト】
01.似非デレラ
02.today is まにまに
03.maddy muddy(feat.らぶおじさん)
04.赤裸々のリラ
05.ダリアマリア
06.夜が笑う
07.リバプール・ママレードボーイ
08.泣いたっていいよ | らぶおじさん
09.臭口臭 | kento fukaya
10.似非デレラ(English Ver.)

■通常盤(CD ONLY)
価格:¥2,500(税込)
仕様:CDアルバム1枚
【トラックリスト】
01.似非デレラ
02.today is まにまに
03.maddy muddy(feat.らぶおじさん)
04.赤裸々のリラ
05.ダリアマリア
06.夜が笑う
07.リバプール・ママレードボーイ
08.泣いたっていいよ | らぶおじさん
09.臭口臭 | kento fukaya


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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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