ニューヨーク屋敷が考えるこれからの歩み「明確な目標に向かって進むのは賞レースでこりごり」

2025.2.27
ニューヨーク屋敷

文=浜瀬将樹 撮影=晴知花 編集=梅山織愛


『Quick Japan』では、2025年の一年間、ニューヨークに密着取材を実施。「芸人」としてさまざまな成功のかたちがある今、過去のインタビューで「今後の芸人のためにも、いい芸人像を作っていけたら」と語っていたふたりは、どんな道を歩んでいくのか。取材を通して、ニューヨークと「お笑い芸人としての成功」を考えていく。

密着取材の初回では、それぞれに「ニューヨークの今」についてインタビュー。自分たちの現状について「できすぎなくらい満足してる。でも満足してない部分もある」と語る屋敷裕政が、自分たちが目指すべき場所を語る。

もっともっと上に行きたいとは思う

若手のときって、「売れるためにネタを作る」とか「売れるために賞レースの決勝に行く」とか、漠然と「売れる」という目的があったから、やることがシンプルやったんですよ。でも、漠然とした「売れる」がある程度実現して、テレビにいっぱい出させてもらうようになってみると、めっちゃややこしくなったというか。単純ではなくなった気がします。昔よりやること、見るものが増えた感じですね。高校のときは、大学に行くためにシンプルに勉強をがんばっていたけど、いざ、大人なって可能性が広がると、それと同時に選択肢も増えるし、がんばり方もいろいろあって、人それぞれになった、みたいな。そんな感じですね。

自分がMCをしたときは、ゲストに楽しんでもらったり、ゲストの魅力が出たらいいなと思ってやることが多いんですけど、上沼さんとか(明石家)さんまさんみたいな本当のバケモン系MCって、誰がゲストに来ても自分が一番おもろなるんすよ。視聴者の人も、ゲストが誰であろうと、結局「上沼恵美子やから観よう」ってなるんですよね。でも今は、『あちこちオードリー』(テレビ東京)だと、オードリーさんがゲストのよさをめっちゃ引き出すし、川島(明/麒麟)さんも、実は川島さんが一番おもろいけど、そうは見えへん。これが今の時代っぽいのかな、とは思います。自分らも冠番組を何個かやらせてもらって、ことごとく終わったんですけど、今になって「もうちょっと我(が)を出さなアカンかったんかな」とか思うんですよ。でも、具体的に「じゃあ、どうしたらよかった?」とかはわからんし、それができたからって番組も終わらんかったわけじゃない、とは思います。

それが、あんまり思わないんですよね。この間も高須光聖さんのラジオに出させてもらったときに、「『ジョンソン』(TBS)ですごい仕事しとったな。編集点になるようなことしてたな」みたいなことをおっしゃってくれたんですけど、ストレートに「せやろ?」と思わないかもしれないです。「そんなにすごいんかな」と思うことが多い気がしますね。

そうですね。でも、初めてピンマイクをつけてもらって番組に出たときとか、『バチバチエレキテる』(フジテレビ)の前(前身番組)の『ロケットライブ』でトークしたときも、「わりとしゃべれたな」と思ったというか。だからってテレビの世界でやっていけるとは思わないですけど、客観的に「カメラの前でなんもしゃべれんヤツとかじゃないんやな」って思った記憶はありますね。

難しいっすね。本当にどっちもあります。「満足してるか」と言われたら、できすぎなくらい満足しているんですけど、でも満足してない部分もめっちゃあります。もっともっと上に行きたいなとは思いますね。

それが一番性にはあってそうな気はします。『ラヴィット!』とか『THE神業チャレンジ』(ともにTBS)とか、気心知れた人がMCをしているなかで自由にやるのも楽しいんですけどね。

千鳥さんとか、オードリーさんとか、かまいたちさんとか、もちろんすごいとは思いますけど、具体的に「この人」というのは、あんまり考えんようにしていますね。無意識的に明確な目標を持たんようにしてるというか……。そうなられへんかったときに「失敗」みたいになっちゃうじゃないですか。そういうのは、もう賞レースでこりごりやなって感じがします。

危ないくらい今はゴルフに夢中

昔は作家さんとか社員さんに手伝ってもらいながら、自分らでネタを作ったり、お笑いライブのコーナーを考えたりするのが当たり前だったんですけど、テレビに出るようになると、自分らが考えてないことをやる仕事が増えたというか。すでに場は整えられていて、ある程度の流れも決まっているなかで、楽しくやるみたいなことが増えたんですよ。最近は、自分らの純度が高いものを見せる機会が少なくなってきたんで、単独ライブぐらいやっとかんと張りがない気はします。あと、何年か前の単独ライブと比べて、何倍もの人が観てくれているんでうれしいんですけど、単純に「観たことない人を減らしたいな」っていう思いはずっとありますし、お客さんが僕らについてくれている「実感」を持てる場所としてもあるほうがいいなって感じですね。

吉本も芸人がいっぱいおって、枠も決まってるんで、けっこう狭き門ではありますからね。今はいろいろ出させてもらっていますけど、ちょっとでも勢いが落ちたら、一番気づきやすい場所やし、一番残酷な場所ではある気がします。

テレビにまだ出てない若手の子にある程度詳しくなって、話についていけているのは、明らかにYouTubeのおかげやなと思います。YouTubeがなかったら、ナイチンゲールダンスとか金魚番長とかは、番組で初めてしゃべる感じになっていたと思いますし、神保町(よしもと漫才劇場)の芸人も誰も知らんままやったと思います。だから、『ラヴィット!』に若手が来ても「知っとるやつが来た」みたいな対応になりますけど、もし、YouTubeをやってなかったら接し方も変わったと思うんですよね。

そうですね。YouTubeは「視聴者が興味ありそうなところを広げる」とかはほぼ思ってないです。初めて一緒にゴルフに行く後輩と車で向かっているとき、気づいたら「30分トーク(YouTubeの企画)」みたいになっているときがあるんですよ。それくらい興味があったら(カメラが)回ってなくても、いろいろ聞いてしまいますね。

そこは自覚がないし、意識もしていないかもしれないですね。聞きたいことを聞いてるだけですし、相手も聞いてほしいことを聞いてくれたら、やっぱり話したくなるじゃないですか。それだけな気がします。

そうですね。世に出る前は飲みに行くとかはありましたけど、当時は遊びで楽しいことや趣味をする発想がなかったです。

いや、そんなことないですね。腰重いほうです。ギターもYouTubeで買いに行きましたし、ゴルフもYouTubeのスタッフさんに勧められてやし、版画もコロナで単独ライブがなくなったのが一番でかいんで、きっかけをもらっている感じですね。この間、前のマネージャーとメシに行ったとき「屋敷さんってハマったらすごいですよね」って言われたんですけど、自分ではそんなつもりまったくなかったんですよ。でも、たしかに毎日狂ったように版画をやりましたし、ギターもやりましたし、言われて気づいた感じです。

自分でも「誰か止めてくれ!」と思うくらいハマっているんですよ。ちょっと危ないぐらい毎日行ってるんで……。

ですかね(笑)。でも、そんな大それたことじゃなく、ちょっと依存症みたいな感じではあります。実質3、4年やってるんですけど、去年からちゃんとやり出したというか。それまではたまに行くぐらいで、この1年でガッとハマりました。

今は一番いい状況

2、3年前に比べたら、スケジュールがだいぶ緩くなって、ゴルフにも行けて、非常にいい感じではあります。ただ、単純に「仕事が少なくなった」ってことでもあると思うんで、これがどんどん少なくなるのは嫌やなって思いますね。

正直、現状の仕事の数とか時間でいうと一番いいです。

単独ライブの動員数を増やしたいのと、テレビでいうと、代表作がまだない状態なんで、地上波とか配信系で「ニューヨークの代表作だな」と思える番組が1個できたらいいなと思っています。長くできたら一番いいんですけど、そこは内容込みですかね。信頼できるスタッフさんと、自分らの意見もしっかり言える環境で、全身全霊で取り組める番組ができたら一番いいなと思います。

ゴルフ番組ですね。YouTubeでもテレビでもなんでもいいんで、マジでやりたいっす(笑)。

ニューヨーク密着①屋敷
屋敷裕政(やしき・ひろまさ)1986年3月1日生まれ、三重県出身

欲よりもめんどくさいが勝っちゃう、ニューヨーク嶋佐「いかに40代を楽しめるか」

この記事の画像(全2枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

浜瀬将樹

Written by

浜瀬将樹

(はませ・まさき)1984年生まれのライター、インタビュアー。お笑い、ドラマ好き。移動中に深夜ラジオ聴くのが癒やし。

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。