『Quick Japan』では、2025年の一年間、ニューヨークに密着取材を実施。「芸人」としてさまざまな成功のかたちがある今、過去のインタビューで「今後の芸人のためにも、いい芸人像を作っていけたら」と語っていたふたりは、どんな道を歩んでいくのか。取材を通して、ニューヨークと「お笑い芸人としての成功」を考えていく。
密着取材の初回では、それぞれに「ニューヨークの今」についてインタビュー。自分たちの現状について「できすぎなくらい満足してる。でも満足してない部分もある」と語る屋敷裕政が、自分たちが目指すべき場所を語る。
もっともっと上に行きたいとは思う
──地上波や配信系のテレビ番組などの出演が急増して数年が経ちました。若手時代から、仕事への向き合い方に変化はありますか?
若手のときって、「売れるためにネタを作る」とか「売れるために賞レースの決勝に行く」とか、漠然と「売れる」という目的があったから、やることがシンプルやったんですよ。でも、漠然とした「売れる」がある程度実現して、テレビにいっぱい出させてもらうようになってみると、めっちゃややこしくなったというか。単純ではなくなった気がします。昔よりやること、見るものが増えた感じですね。高校のときは、大学に行くためにシンプルに勉強をがんばっていたけど、いざ、大人なって可能性が広がると、それと同時に選択肢も増えるし、がんばり方もいろいろあって、人それぞれになった、みたいな。そんな感じですね。
──MCとして、上沼恵美子さんや古舘伊知郎さんなど、大御所と共演することも増えてきました。そうした方々との共演の中で、感じることはありますか?
自分がMCをしたときは、ゲストに楽しんでもらったり、ゲストの魅力が出たらいいなと思ってやることが多いんですけど、上沼さんとか(明石家)さんまさんみたいな本当のバケモン系MCって、誰がゲストに来ても自分が一番おもろなるんすよ。視聴者の人も、ゲストが誰であろうと、結局「上沼恵美子やから観よう」ってなるんですよね。でも今は、『あちこちオードリー』(テレビ東京)だと、オードリーさんがゲストのよさをめっちゃ引き出すし、川島(明/麒麟)さんも、実は川島さんが一番おもろいけど、そうは見えへん。これが今の時代っぽいのかな、とは思います。自分らも冠番組を何個かやらせてもらって、ことごとく終わったんですけど、今になって「もうちょっと我(が)を出さなアカンかったんかな」とか思うんですよ。でも、具体的に「じゃあ、どうしたらよかった?」とかはわからんし、それができたからって番組も終わらんかったわけじゃない、とは思います。
──テレビや劇場での立ち回りなど、絶賛されることが多い屋敷さん。テレビに携わるなかで、ご自身で「いける」と感じた瞬間があれば教えてください。
それが、あんまり思わないんですよね。この間も高須光聖さんのラジオに出させてもらったときに、「『ジョンソン』(TBS)ですごい仕事しとったな。編集点になるようなことしてたな」みたいなことをおっしゃってくれたんですけど、ストレートに「せやろ?」と思わないかもしれないです。「そんなにすごいんかな」と思うことが多い気がしますね。
──ご自身的には、与えられたポジションで最大限やれることをやっていると。
そうですね。でも、初めてピンマイクをつけてもらって番組に出たときとか、『バチバチエレキテる』(フジテレビ)の前(前身番組)の『ロケットライブ』でトークしたときも、「わりとしゃべれたな」と思ったというか。だからってテレビの世界でやっていけるとは思わないですけど、客観的に「カメラの前でなんもしゃべれんヤツとかじゃないんやな」って思った記憶はありますね。
──地上波や配信系番組における「自分たちの立ち位置」については満足していますか?
難しいっすね。本当にどっちもあります。「満足してるか」と言われたら、できすぎなくらい満足しているんですけど、でも満足してない部分もめっちゃあります。もっともっと上に行きたいなとは思いますね。
──方向性でいうと、やはりMCなんですか?
それが一番性にはあってそうな気はします。『ラヴィット!』とか『THE神業チャレンジ』(ともにTBS)とか、気心知れた人がMCをしているなかで自由にやるのも楽しいんですけどね。
──たとえば、「この先輩芸人の道に憧れる」というものはありますか?
千鳥さんとか、オードリーさんとか、かまいたちさんとか、もちろんすごいとは思いますけど、具体的に「この人」というのは、あんまり考えんようにしていますね。無意識的に明確な目標を持たんようにしてるというか……。そうなられへんかったときに「失敗」みたいになっちゃうじゃないですか。そういうのは、もう賞レースでこりごりやなって感じがします。
危ないくらい今はゴルフに夢中
──続いてネタについて。テレビに多くご出演される中でも毎年欠かさず単独ライブを開催しています。そこには「ネタを作っておきたい」という思いがあるのでしょうか?
昔は作家さんとか社員さんに手伝ってもらいながら、自分らでネタを作ったり、お笑いライブのコーナーを考えたりするのが当たり前だったんですけど、テレビに出るようになると、自分らが考えてないことをやる仕事が増えたというか。すでに場は整えられていて、ある程度の流れも決まっているなかで、楽しくやるみたいなことが増えたんですよ。最近は、自分らの純度が高いものを見せる機会が少なくなってきたんで、単独ライブぐらいやっとかんと張りがない気はします。あと、何年か前の単独ライブと比べて、何倍もの人が観てくれているんでうれしいんですけど、単純に「観たことない人を減らしたいな」っていう思いはずっとありますし、お客さんが僕らについてくれている「実感」を持てる場所としてもあるほうがいいなって感じですね。
──お忙しいなか、劇場にも出続けていますよね。
吉本も芸人がいっぱいおって、枠も決まってるんで、けっこう狭き門ではありますからね。今はいろいろ出させてもらっていますけど、ちょっとでも勢いが落ちたら、一番気づきやすい場所やし、一番残酷な場所ではある気がします。
──6年前から続けているYouTubeチャンネルですが、テレビや劇場ではできないこともされている印象があります。やってみていかがですか?
テレビにまだ出てない若手の子にある程度詳しくなって、話についていけているのは、明らかにYouTubeのおかげやなと思います。YouTubeがなかったら、ナイチンゲールダンスとか金魚番長とかは、番組で初めてしゃべる感じになっていたと思いますし、神保町(よしもと漫才劇場)の芸人も誰も知らんままやったと思います。だから、『ラヴィット!』に若手が来ても「知っとるやつが来た」みたいな対応になりますけど、もし、YouTubeをやってなかったら接し方も変わったと思うんですよね。
──YouTubeでは、芸人さんを招いてトークする企画が好評を博しています。そこはテレビと違って自由にやっているんですか?
そうですね。YouTubeは「視聴者が興味ありそうなところを広げる」とかはほぼ思ってないです。初めて一緒にゴルフに行く後輩と車で向かっているとき、気づいたら「30分トーク(YouTubeの企画)」みたいになっているときがあるんですよ。それくらい興味があったら(カメラが)回ってなくても、いろいろ聞いてしまいますね。
──屋敷さんの「質問力」は視聴者の方から絶賛されることが多いと思います。ご自身的に意識されていることはなく、純粋に聞いてみたいことを聞いているんですね。
そこは自覚がないし、意識もしていないかもしれないですね。聞きたいことを聞いてるだけですし、相手も聞いてほしいことを聞いてくれたら、やっぱり話したくなるじゃないですか。それだけな気がします。
──仕事以外だと、ゴルフをされたり、車を買う予定だったりと、以前よりプライベートも充実している印象ですが。
そうですね。世に出る前は飲みに行くとかはありましたけど、当時は遊びで楽しいことや趣味をする発想がなかったです。
──過去には版画、最近ではギターもされていますが、昔から何かに熱中することは多かったんですか?
いや、そんなことないですね。腰重いほうです。ギターもYouTubeで買いに行きましたし、ゴルフもYouTubeのスタッフさんに勧められてやし、版画もコロナで単独ライブがなくなったのが一番でかいんで、きっかけをもらっている感じですね。この間、前のマネージャーとメシに行ったとき「屋敷さんってハマったらすごいですよね」って言われたんですけど、自分ではそんなつもりまったくなかったんですよ。でも、たしかに毎日狂ったように版画をやりましたし、ギターもやりましたし、言われて気づいた感じです。
──現在、かなりの頻度でゴルフに行かれているのだとか。
自分でも「誰か止めてくれ!」と思うくらいハマっているんですよ。ちょっと危ないぐらい毎日行ってるんで……。
──そのモチベーションは「うまくなりたい」という気持ちが大きいんですか?
ですかね(笑)。でも、そんな大それたことじゃなく、ちょっと依存症みたいな感じではあります。実質3、4年やってるんですけど、去年からちゃんとやり出したというか。それまではたまに行くぐらいで、この1年でガッとハマりました。
今は一番いい状況
──最後に「売れる」というニュアンスが曖昧になっている現代において、「ニューヨークの現状」をどう考えておられますか?
2、3年前に比べたら、スケジュールがだいぶ緩くなって、ゴルフにも行けて、非常にいい感じではあります。ただ、単純に「仕事が少なくなった」ってことでもあると思うんで、これがどんどん少なくなるのは嫌やなって思いますね。
──今、いいサイクルになっていると。
正直、現状の仕事の数とか時間でいうと一番いいです。
──今後の活動としては、どんな理想をお持ちですか?
単独ライブの動員数を増やしたいのと、テレビでいうと、代表作がまだない状態なんで、地上波とか配信系で「ニューヨークの代表作だな」と思える番組が1個できたらいいなと思っています。長くできたら一番いいんですけど、そこは内容込みですかね。信頼できるスタッフさんと、自分らの意見もしっかり言える環境で、全身全霊で取り組める番組ができたら一番いいなと思います。
──嶋佐さんが見取り図のリリーさんとラジオ『リリー・嶋佐のソプラノC』(TOKYO FM)をやられていますが、個人的にやってみたい番組はございますか?
ゴルフ番組ですね。YouTubeでもテレビでもなんでもいいんで、マジでやりたいっす(笑)。
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