2024年12月16日に同日刊行された『行方不明展』(太田出版)と『つねにすでに』(ひろのぶと株式会社)。2作品ともホラー作家・梨とホラー制作会社の株式会社闇の著作ということで(『行方不明展』はテレビ東京の大森時生も著作として参加している)、全国の未来屋書店で「梨×闇フェア」を開催するなど、出版社の垣根を越えた施策を展開しています。
そしてこの度、その2作品の重版が大決定! これを記念して、QJWebでは昨年12月22日にジュンク堂書店池袋本店で開催された2作品同日刊行記念トークイベントの様子の一部を再構成して公開します。
梨(なし) 作家。主にネット上で活動する。2022年に初の書籍『かわいそ笑』(イースト・プレス)を発表。2024年8月に最新作『お前の死因にとびきりの恐怖を』(イースト・プレス)を刊行。『行方不明展』『その怪文書を読みましたか』『SCPって何ですか?』(漫画原作・監修)など、各分野で活躍中。
頓花聖太郎(とんか せいたろう) 株式会社闇 代表取締役。1981年兵庫県生まれ。もともとはグラフィックデザイナー。大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社 闇を設立。ホラー×テクノロジー=ホラテクをテーマに、ホラーイベントの企画やプロデュース、ホラー技術の提供、ホラーを使ったプロモーションなどを行い、新しい恐怖感動を作り出している。
かいばしら 俳優・YouTuber。1988年鹿児島県生まれ。今年は映画「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」やドラマ「つづ井さん」など様々な作品に出演している。自身のYouTubeチャンネルでは映画や小説など紹介しており登録者61万人越える。
目次
ホラー好きが集う夜

頓花聖太郎(以下、頓花) じゃあまず自己紹介しましょうか。この真ん中の布の人から……。
かいばしら そうですね。ぱっと見、中に誰がいるかわからないですからね。
梨 ホラー作家をしております梨と申します。普段は「オモコロ」などでも活動をしておりまして、今回『つねにすでに』と『行方不明展』が同日に刊行されたということで、このようなかたちでトークイベントを開催することになりました。
なんというか……、本当にこんなに集まっていただけるとは思わなくて、多分ですけど、ここにいらっしゃってる方々は、本来観るべき『M-1 グランプリ』(※当イベントと同日同時刻に放送)をほっぽってここに居るわけじゃないですか……。もう、相当なホラー好きなんだろうな、ということで私も気合が入っております。今日はよろしくお願いいたします。
かいばしら まだわかんないですよ。本当にこの布の中身が梨さんかどうかは。
頓花 厳かな感じでいいですね。こんなトークライブがあるんですね。
梨 以前、同じ会場でダ・ヴィンチ・恐山さんと同じような感じでやったんですけど、そのときは恐山さんから「平安貴族みたいだね」と言われました。
頓花 雅ですよね。
かいばしら 御簾感ありますね。神々しい。
頓花 では、僕も自己紹介させていただきます。株式会社闇という、ホラー専門の制作会社の代表取締役をやっております頓花聖太郎と申します。 『つねにすでに』のプロデュースだったり、『行方不明展』のクリエイティブなどを担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。

かいばしら こんにちは。かいばしらと申します。俳優活動をしながらYouTubeの動画を配信しております。怖いのが大好きなので動画もそういうのが多いんですけれども、今日は怖いもののプロフェッショナルのお2人とのトークイベントに呼んでいただいて嬉しいです。よろしくお願いします。
頓花 では早速、本の説明なんかもしていこうかと思うんですけど。梨さんお願いします。
梨 まず『つねにすでに』は、私と株式会社闇の方々と一緒に作ったウェブ連載を書籍化したものです。2024年4月から始まったもので、現在もウェブ上で全部見ることができます。
『行方不明展』は、2024年7月から9月1日まで東京の日本橋で開催された、「行方不明」という固有の現象について作られたフィクションの展示型インスタレーションを書籍化したものです。この作品は、私と株式会社闇さんに加えて、テレビ東京の大森時生さんが参加しています。
大森さん、今度なんかどこかの家族に謝罪するらしいですね……。(※この日は、TXQ FICTION 第2弾「飯沼一家に謝罪します」の放送直前)
かいばしら テレビでね。
梨 そういった方々と一緒に、この夏に作った2大プロジェクトを書籍化したものがこの2冊なんです。
頓花 『行方不明展』の展覧会にはかいばしらさんも来ていただきましたね。
かいばしら はい。
頓花 かいばしらさんにお越しいただいたのって、関係者向けのプレオープンの日でしたっけ。
かいばしら そうですね。暑さと混雑にやられながら楽しませていただきました。
頓花 かいばしらさんは、よく梨さんの作品をご自身の動画で紹介されていますよね。いつも観させていただいております。
かいばしら ありがとうございます。
梨 多分この会場にいらっしゃる方々もそうだと思うんですけど、私もかいばしらさんの動画コンテンツのファンでございます。このトークイベントにお呼びした理由も、これまで私の著作を結構紹介していただいていて、例えば、『かわいそ笑』(イーストプレス)という私が初めて書いた小説をいち早くかいばしらさんが紹介してくださっていて、しかもそれがすごく、いろんなものを分かっていらっしゃるというか……。
その、『かわいそ笑』って、インターネット上のいろんなスラングとかが出てくる小説なんですけど、 そこに「夢小説」っていう文化が出てくるんですよね。で、その夢小説を動画内でかいばしらさんが説明する際の寸劇が面白くて。絶対いつかお話したいって思っていました。
かいばしら それでこうやって呼んでいただいたんですね。
梨 そういう、いい意味でオタク的なところもすごく好きだったので、今回イベントのゲスト参加をご快諾いただけて嬉しかったです。
かいばしら こちらもお声がけいただいて嬉しかったです。ただ、これまでの梨さんの著作も含め、今作の2作品とも内容的には考察を要するものなので、内心、解釈を間違えたらどうしようかなって心配でした。
頓花 大丈夫です。そういうのは僕がどんどん間違えていくので、安心して発言してください。皆さんも、梨さんの作風はご存知だと思いますけど、一緒に作ってる側でも、「これどういう意味なんだろう?」っていうことが全然あります。「梨さん、これどういう意味ですか!」って聞きに行くこともあります。
かいばしら こういう作品に関わらず、創作物って、一旦視聴者や読者に届いたら、もうその人の解釈というか、自分の人生に当てはめたり、経験から噛み砕いて解釈していただくことは、むしろアリですよね。

『行方不明展』のお話
頓花 じゃあ、せっかくなんで、まず『行方不明展』について、かいばしらさんの方からどんな印象だったかお聞かせください。
かいばしら 『行方不明展』は、展覧会に行かれた皆さんも思われたと思うんすけど、「行方不明」を展示するというものがまずどういうことなのか、よくわからない状態で行って……。ざっくり言うと「無い」ものを展示するわけじゃないですか。どうするんだろうって。実際会場に行ってみたら、ひとつひとつの展示が作品として成り立っていて、尚且つ、「行方不明」を4つの解釈で分けられていることで「行方不明」の奥深さを知ることができました。
あと、「フィクションです」って要所要所に書かれていて、ここまで言うってことは、逆に「こいつらやってんぞ」って思って。『行方不明展』に限らずですけれども、梨さんの作品って、知らずのうちに僕らが参加させられてるじゃないですか。共犯者にされてるって感じで。知らないうちに僕らなんかやらされてるんじゃないかっていう、そういう意味の、ちょっといたずら心もある「フィクションです」っていう印象を感じて、だから終始ぞわぞわしながら楽しみました。
頓花 やっぱり梨さんといえば、参加させられる感覚っていうのは大きいですよね。「巻き込み方」っていうか、作品によって色々あるかなと思うんですけど、まず『行方不明展』において、今回は見てもらう人に向けてどういったメッセージを込めたんでしょうか。
梨 『行方不明展』のイメージリソースとか、そういう話を少ししたいなと思うんですけれど。 『行方不明展』って、ざっくり言うと「異世界もの」なんですよ。私は、「行方不明になりたい」であったり、「この世から転生することができたら…」みたいな願望は、近年は多くの人が抱く願望のひとつなんじゃないかなと思うんです。私にもそういう願望はあります。
あまりにもこの世界がちょっと文脈的過ぎるから、ちょっとその文脈から離れたいんだ、みたいな欲求ってあるような気がしていて。それを踏まえて、今回の『行方不明展』では、じゃあもし異世界転生をしたとして、あなたたちは本当にその世界で幸せに生きられると思うの? と。それが救いになるかどうかは実際わからないよね、と提示したかったんです。
頓花 その辺は、展覧会を観に来た人の感覚に委ねられていた部分だったのかな。
かいばしら それぞれ当事者の感覚に大きく左右されるでしょうね。
梨 はい。あとは、展覧会に来ていただいた方の中でも、純粋にファンタジー的なフィクションとして新鮮な感覚で楽しんでる方や、「The Backrooms」的な内容を共通認識として楽しんでいらっしゃる方もいました。『行方不明展』は、いろんな層の方々に幅広く伝わるように、ある程度普遍的なテーマを持ちつつ、かつ、私や頓花さんやかいばしらさんのようなホラー好きの方々にも満足していただけるよう意識して作りました。
頓花 僕も現代人として、 しがらみから逃げ出したいというか、そういう願望みたいなものって多くの人が持ってるんじゃないかなって感じてます。展覧会では、やっぱりそういう感覚に共感してくれるお客さんが多かったのかな。
梨 あと、個人的に嬉しかったのは、1ヶ月半近い会期で、会場内が予想外に和気あいあいとしていたんです。そこで、SNSでどんどんプッシュしていこうってなって……。
かいばしら 確か、展示はすべてSNSにアップして良かったんですよね。
頓花 一部のパネルをNGにしてたぐらいですね。
梨 はい。フォトスポットみたいなものも用意していて、写真撮ってSNSにどんどん上げてねっていうスタンスだったんですけど、それもあって、6割7割は女性のお客さんだったんですよね。
頓花 はい。女性やカップルの割合が多かったですね。
梨 関係者向けのプレオープンのとき、かいばしらさんともそのフォトスポットのところで一緒に写真を撮りましたよね。大森さんも交えて。
頓花 確か、僕がその写真撮ったんですけど、梨さんがめっちゃ笑顔で。
かいばしら 覆面作家だからどこにも出せないのに(笑)。あと、会場が1階と地下に分かれてたじゃないですか。見るところがたくさんあって……。あ、ひとつ聞いてもいいですか? 会場1階にあった携帯ゲーム機は何だったんですか?
梨 あれは誰か大森さんがいつの間にか持ってきてましたね。
頓花 会場を設営しているときに急いで持ってきはったやつですよね。
かいばしら じゃあ別にあれは作品っていうわけではないんですか?
梨 会場にいろんな張り紙とか展示物を並べていくじゃないですか。そうしていると、「ちょっとここにも置きたいね」みたいな話をしちゃうわけですよ。
かいばしら 確かに、何も無いなら無いで気になる場所ですよね。
頓花 展覧会って結構場所ありきで、「ここに何かできるかもしれない」みたいなアイディアがそれぞれにこう湧いていくんです。
梨 あの場所は、たまたまコンセントがあったんですよね。
かいばしら ありましたね。
梨 それで「このコンセントを使って何かできませんかね」って言ったら、大森さんがゲーム機を持ってきてくれて展示のひとつになりました。
頓花 細かいとこまで見ていただいてありがたいです。
梨 本当にありがたいですね。
かいばしら インターネットで作品を発信するのって、ある意味場所を選ばないじゃないですか。でも、展覧会となると場所ありきじゃないですか。そうなったときにどうやってアイディアを作って発信していくんですか?
頓花 作品を書き始められたのって、会場を見てからでしたっけ。
梨 ここになるかもっていう候補はあった状態でした。 日本橋で展覧会をやれるところがあるらしいよっていうのがわかって、で、すごく雰囲気のあるところだったので、そういうところで展覧会を開催するにあたって、例えば「The Backrooms」みたいな、リミナルスペース的な無人の空間をテーマにしたらどうだろうということをパワポにまとめました。
空間から受けたイメージを私の方でテキストにまとめて、電話ボックスとか土の山とか、ああいう大掛かりなものは、大森さんが用意してくれました。
かいばしら 大森さんが……。
梨 大森さんがトラックで運んだわけじゃないですよ?
かいばしら (笑)。

頓花 最初にアイディアを聞いたときは「小山かな~」ぐらいに思ってたんですけど、実際は人の背丈より高い山ができてました。
かいばしら 望遠鏡はどこから持ってきたんですか?
梨 あれは我々で用意しました。ヤフオクでしたっけ?
頓花 ヤフオクですね。ヤフオクにはなんでもある! 買うだけ買って、展覧会の後どうしよっかみたいな話もしてましたね。
梨 なんとかテレビ東京さんに置いたままにできないかな。
頓花 大丈夫かこれ(笑)。関係者聞いてないかな?
かいばしら ガシャポンのアイディアはどなたですか?
梨 あれは闇さんですね。
頓花 元々は2023年に開催した『その怪文書を読みましたか』(以下、『怪文書展』)で採用したものを引き継いだので、アイディアとしてはこれが2代目なんです。僕、展覧会とか行くの好きなんですけど、なにかお土産を買って帰りたいと思うんですよ。でも、大体ちょっと高いじゃないか。でも、そういうちょっとしたお土産持って帰りたいときに100円やったら、ガチャガチャするのも楽しいし、皆さんも嬉しいだろうと思ったんです。
かいばしら わかります。記念みたいなものを手元に残しておきたいっていうか。
頓花 そうです。皆さんを思って設置してみたら、ばかばか売れました(笑)。
かいばしら あれ、やりたくなりますよね(笑)。ガシャポンってついつい回したくなるんですよね。いや、素晴らしい。
『つねにすでに』のお話
頓花 『つねにすでに』のお話をしましょうか。『つねにすでに』は、『怪文書展』をやったときに、梨さんの小説家っていう側面にとどまらない、本を作るのとは別の面白い活動ができないかなっていうところが最初にありました。『怪文書展』では、展覧会を見るだけではなくて、展覧会の外というか、インターネットや電話を使ったりといういろんな演出が作れたので、それをインターネット全体に拡張したら、梨さん自身を恐ろしい怪異にできるんじゃないかっていう野望がありまして。で、梨さんに『怪文書展』が終わったぐらいの頃に、「今度はインターネット全体を使ってでっかいお祭りをしませんか」という風にお声をかけさせてもらったのがこの企画のスタートでした。
かいばしら 『行方不明展』より前なんですね。
頓花 ちょっと寝かしてた時期もあったんで、結果同時期くらいに動かしてましたね。
梨 寝かしたせいでとんでもない発酵の仕方をしてしまいました。
かいばしら 『つねにすでに』はAからZまで26編の、読み物だけじゃなくて、映像であったりだとかで構成されてますよね。
頓花 テキストから、音声から、映像から……、中にはイベントになったものまで。本当に、これらの情報をウェブ連載や書籍というかたちで圧縮するのも大変やったんですけど、お陰様でこの本を経由していろんなものが楽しめるようになっています。
かいばしら ウェブ版の話になるんですけど、サイトのページに唐突に動画のリンクが載ってるんですね。リンクを飛ぶと動画が流れるんですよ。それはつまり、この『つねにすでに』を作るにあたって制作された動画であるってことなんですよ。そのことがもう既に怖い。
梨 はい(笑)。
かいばしら ちょっと余談なんですが、『つねにすでに』の中に、とある音声に関する話があって、それも動画を読み込んで聞くっていうタイプで、その動画を開いたら、ちょっと古典的な音楽が流れだしたんですね。しかも30分ぐらいの動画で、「こんな動画まで作ったんか」と驚いてたんです。
「どうせどっか変な音が入ってるんでしょ」って、すっげえ集中して聞いてて。しかもその動画のチャンネルの詳細を見たら、数年前から動いてる方のチャンネルで、「すごい! こんな何年も前から下地を整えてたんだ!」と思ってたら、僕が見てたその動画、作品と全く関係ない人の音楽解説動画でした。
頓花 ちょっと今、すごいドキドキしました! そんな動画準備したっけと思って!(笑)
かいばしら 多分、読み込んだ後に誤操作で別の動画をクリックしちゃったんだと思うんですけど、僕はそれを梨さんの制作物だと思って真剣に見ていたという。
頓花 一見、わかんないですよね。
かいばしら そうなんです。梨さんの作品って、普通だと思ったら、実は怖いことだったっていう不穏なものが多いので……。梨さん、あなたのせいですよ。
梨 (笑)。

頓花 梨さんの作るものって本当ね、リアルかエンターテインメントかわかんないんですよね。
梨 それ、私も思っているところがあって。私、「オモコロ」っていうウェブメディアで、 たまに小説とか、実験的なクイズっぽいものとかを作ったりしているんですけれども、この前、そこのライターさんたちと話していて、もし私が純粋に「ウサギを飼い始めて~」みたいなネタを投稿したら、多分最後の最後まで怪しまれたまま終了するだろうなって。
頓花 間違いないです。
かいばしら 本当にただただペットを愛でてるだけの記事なんだけど(笑)。
頓花 最後の1行、めちゃくちゃ深読みすると思います。
梨 そう。私が普通に「この子はドライフルーツのパイナップルが好きなんです」とか書いたら、多分「ドライフルーツというのはつまりどういうことなのか」という考察が始まる。
かいばしら ドライフルーツの起源から調べ始めると思います(笑)。
梨 多分、そのウサギが虹の橋を渡っちゃって私がガチ病みしたときに、ようやく「本当だったんだ」と思われるんだろうな、と思います。
かいばしら 梨さんの作品ってただ読んでいくだけだと実態が見えないから、全部が意図された創作に見えちゃうんですよね。
頓花 梨さん自体が「物語を生み出す怪異」みたいになってるので、どこまでも追えてしまうし、一方で、「面白かった」と素直に受け止めてたことも、よくよく理解していくと、まだ底がある……まだ底がある! ということも多々あって。だからね、読者の皆さんは意図的にそういう、誤読も含めて楽しんでるのかなって思っています。
梨 『つねにすでに』を作る中で思い出深い話というと、「Channeling/呪いの電話番号」という話があるんですけど、ざっくり説明すると、とあるオンラインコミュニティにいる人たちが降霊術をするんです。例えば、Discordのチャットボットみたいなものがコックリさん的な役割を担っていて、人工知能がいろんな質問に答えてくれるという話なんですけど。で、頓花さんにそのシステムを作ってもらえませんかとお願いしました。
かいばしら え!
頓花 指示書に「これができたら嬉しいんですけど、無理ですよね~」って書いてあるんですよね。そんなの書かれたら、もうこっちはやるしかないでしょ(笑)。
かいばしら やっぱ、頼み方もね。人の動かし方を知ってるから(笑)。
頓花 これ、AIを駆使してすげえ頑張らなあかんやつやぞっていうのを頑張って作りましたね。 最近はAIの進化ってすごくていろんな技術が生まれてるんですけど、あれ作ったときはまだノウハウもあまり無い中で、普通の商業案件じゃんっていうのを作らないといけなくて、しかも数週間後には公開という中で、頑張った記憶があります。
かいばしら その頃には、本の出版は決まってたんですか?
頓花 模索してた頃かな。ウェブ版を作っているときは全然本になるイメージができていなかったんですけど、既に書籍版を読んでいただいた方はわかると思うんですけど、本当にいろんなアイディアを出版社さんからご提案いただいていたので、ウェブ版を楽しまれた方も、書籍版での変化を楽しんでいただけます。
かいばしら 変化といえば、そもそもこのウェブ版を走らせている時、1回サイトが消えてますよね?
頓花 はい。最初の8編までいったところで1回消えましたね。
梨 それこそ、このウェブサイト上でこういう連載をしますってなったら、多分、できる限りpv数を稼がないといけないんだろうなと思いつつ、……思いつつ! ちょっと頓花さん、全部消していいですか、と。
かいばしら これだから、作家はね(笑)。
梨 この企画自体が、あらゆるインターネットロアを網羅しようっていうところから始まった企画なので。インターネットロアの思い出というか、そういうものを体験しつつ、ひとつの連載プロジェクトにしたいなと思っていたんです。その課題のひとつとして、連載でよくある「とりあえず完結してから読めばいいか」……みたいな、漫画だったら、「コミックスになってから読めばいいか」という人にどう読ませるかあったんです。それで……。
かいばしら 牽制を挟んだんですね。「消えるからね」って。
頓花 「読めよ」と。
梨 私もよく経験するんですけども、インターネットでは、例えばPixivとかでハートを押してた作品がいつの間にか無くなってて、なんならページごと消えて作者さんすら追えなくなるってことがあるんですよ。コミティアとかでその人が参加してたら、ウェブ再録本を何百回も読み返すみたいな、そういう経験を何度も何度もしてきたんですよ。そういうところも、インターネットに生きる君たちは、「もちろん、後から読むみたいなことが無意味なことはわかってるよね。 はい、消します」っていうことをやろうという。
かいばしら 手元に置けないが故の洗礼ですね。
梨 そうなんですよ。全員が全員ウェブ再録してくれる神だとは思わない方がいいです。
頓花 この作品は油断したらいけないよっていうメッセージではあったんですけど、消すのも大変なんですよ、実は(笑)。戻した後は作品が少し変わってるっていう仕掛けもあって更に大変でした。これ、すごい面白いアイディアだった。一作品一作品、全部疑われるやつ。
梨 ウサギ現象と一緒ですね。
頓花 特に意図的にではなくちょっと手直しただけなんですっていうものも即座にピックアップされてしまうので、たまに自分のSNSで「これはただの僕のミスです」って出してましたもん。「これは意図してないやつです」って。
かいばしら で、それも勘ぐられる。
頓花 そうそう(笑)。

当事者になれるのがいい
梨 ウェブ版『つねにすでに』では、サイトを解析して、そこにあるあらゆる暗号を解読した60人が都内の某所に呼び出されるという、ちょっとした先着暗号解読バトルみたいなイベントを期間限定で開催したんです。
頓花 なんにも決まってないタイミングで、梨さんから「実際にどこかに行けたらいいですよね」っていう内容の原稿が届きまして、それが5月の終わりぐらいで、イベントが6月の
20日で。あ、じゃあ1ヶ月ぐらいでイベント作らないといけないって。
かいばしら 簡単に言うけど、それめちゃくちゃ時間無いですよね。
頓花 本当に。1ヶ月で 60人規模のイベントを作るって相当大変なんですよ。そもそも参加人数をかなり絞らないといけないし、そこがフェアじゃないといけないという思いがすごくあったんですね。
イベントに参加できなかったとしても、行けた人が賞賛できるような内容だったら許してもらえるかなと思って、ちょっと難しめの問題を作って、で、これを解ける人がいたら、それは選ばれた人っていう形で許してもらえるかなみたいな思いもあったんで、結構頑張って問題とかを作りました。
いわゆる謎解きみたいにならないようにしようと思ってて。問題の中には、ステガノグラフィーという技術を駆使して、その音を音波解析ソフトに入れたら文字が出てくるというものがあって。これができたら賞賛じゃないですか。
かいばしら そんな音声解析ソフト、どこのご家庭にあるものでもないですもんね。
頓花 はい。そういう問題を作っておきながら、逆に結局誰も来なかったらどうしようかと心配してました。
かいばしら ちょっと難しすぎたかな、と。
頓花 ええ。でも、梨さんファンだったら解けるだろうっていう思いもありました。
梨 しかもそれが平日の昼間のイベントだったんです。初夏の都内の猛暑の中、しかも告知から1週間後くらいでしたっけ。
頓花 いやいや、あれで告知したの、イベント当日の3日前……。
かいばしら 突発的すぎる。
頓花 3日後に東京でイベントやりますって言って来れる人の熱意はすごかったですよ。
かいばしら 参加者も一丸として作品に入り込むという。それでいうと、書籍版の『行方不明展』で高瀬隼子さん寄稿された「行方不明がインストールされる」というコラムが、最初は普通の展覧会の感想文かと思ってたら、そっちも……。
梨 ですね。
頓花 はい! めちゃくちゃ素晴らしいのですよ…!
かいばしら 読んでてゾッとするのがあったりとか、やっぱみんながそうやって、参加したり、実際に見たくなるっていうか。実は僕も、梨さんの『かわいそ笑』の紹介動画を作るときに、作品のギミックを自分の動画の中に取り入れたりしたんですよ。
梨 あれですよね、冒頭でかいばしらさんの顔が右上から左下に……。
かいばしら そうですね。QRードをわざわざ作ったり。ついついそうやって加担してしまう。加担したくない、加担したくないと思いながら、つい……。
梨 (笑)。なんというか、こういうのを面白がってくれる人がこれだけいるっていうのは、救いというか、本当にいいなと思いました。こういう土壌ができてるということですね。
頓花 『行方不明展』もそうだし、『つねにすでに』もそうですよね。参加することでよりその世界への没入感を上げられるみたいな仕組みになっていますね。参加することが、フェイクドキュメンタリーの特性をさらに深めた。
梨 没入体験はホラーと相性がいいですね。
かいばしら 当事者になれるのがいいですね。

梨さんに呪われたい
頓花 私はわりとエゴサとかしっかりするタイプなんで梨さんのファンのことを追ってるんですけど、梨さんに呪われることが 彼らにとってファンサだっていう風に思われているようなんですよ。推しに呪われたいという。
梨 推し……。
かいばしら 推しもそこまで。そうなんですね。呪われたい呪われたい……。
梨 昔、いわゆる夢小説や女性向けの作品を発表できるサイトがあったんです。そのサイトでは、その小説の主人公の名前を別の名前に変換できるというすごい素敵なサービスがあって、例えば、その作品が好きなアニメキャラクターの二次創作だった場合に、主人公を自分の名前にすれば好きなキャラクターが名前を呼んでくれるわけです。なんとなくなんですけど、こういうタイプの参加型ホラーって、もう半分ぐらい夢小説になるんじゃないかって思うんです。
頓花 そう捉えられる面はありますよね。
梨 だから私もいつか、ホラー夢小説的なものを作りたいんです。
頓花 確かに、ファンは入力フォームに自分の名前を入れたいはず。
かいばしら そこで遊び出す人もいそうですよね。 名前とその作中の文章が繋がって、何か違う文章が生まれそう。
梨 体験と言えば、いつか脱出ゲームを作りたいってずっと言ってるんですけど、ひとつ超えないといけない壁として、あれって基本は難しい問題に頭を悩ませつつも、最後はスッキリして終わるじゃないですか。
かいばしら スッキリしますね。
梨 最後スッキリして終わるタイプの謎解きって私の作風とは相性が悪くて。最後は肩を落として、ため息つきながら帰る。それで脱出成功です。おめでとうございます。みたいな。そういうことができたら1番いいんですよね。
頓花 脱出できた故に肩を落とすぐらい。
かいばしら 脱出できない方が良かったのでは? ってなるやつ。
頓花 僕もね、ホラーの仕事をしてて思います。ホラーと謎解きって相性悪い。
梨 よく言われますね、これは。
頓花 ただ、これは今までの話。そもそもなんで相性が悪いかって言うと、ホラーって明かしすぎると面白くないんですよ。あと、怖がるっていうことと、考えるっていうのが結構相性悪くて。考えるときは怖がらせられると鬱陶しいし、脳の使うところが違うので、そこの相性が悪いっていうところはよく言われてたんですけど、最近の梨さんの作風とかファンとか、それこそ謎解きゲーム自体の広がりで、なんか結構受け入れられる土壌みたいなものが広がってきてるのかなと思うんです。
必ずしもハッピーエンドだからオッケーとか、そもそも謎を解き明かすっていうこと自体にフォーカスが置かれないようなイベントみたいなのはあったりするので、結構いけるんじゃないかなっていう気はしてるんですけどね。
かいばしら 僕は参加してみたいです。
梨 本当に。私もいつかね、人を閉じ込めたいんですけど。
かいばしら 現状、絵面だけ見たら閉じ込められてるのはあなたです。
頓花 そもそもこれをめくったらちゃんと人がいるのか。
かいばしら 皆さん、梨さんの実態がわからないっていうのはそうだと思うんですけど、別に僕らも同じぐらいわかってないです。
頓花 結構一緒に仕事してるけど、まだわからんことしかない。ていうか、一緒に仕事すればするほどわからなくなるという。未だに梨さんが飯食ってんの見たことないですから。
梨 食べていませんでしたっけ。
頓花 塩気が入ってる食べ物を食ってるのをほとんど見たことがない。
かいばしら まず僕の中では肉は食わないだろうなみたいな感じがあります。なんか障子とかなんかそういうの食べてそう。
頓花 柱とか舐めてんじゃないかとかね。
梨 私、白アリかなんかですか。
頓花 アリ塚がこの中にあってもおかしくない。

「全部梨」説
梨 かいばしらさんって、「俳優/YouTuber」という肩書きにしてはえげつないぐらいホラーの紹介動画を発信されているじゃないですか。
かいばしら ウェイトがそうなってますね。
梨 俳優としては『初恋ハラスメント』(中京テレビ)に出演されていたり、俳優活動とは別に動画でフェイクドキュメンタリーを詳細に解説していたりして……、かいばしらさんの守備範囲が広すぎるのもあってお聞きしたいんですけど、元々ホラーが好きだったから、YouTubeを始めようみたいな感じだったんですか? それとも、俳優業が先なんですか?
かいばしら ホラーは全然後です。でも、そもそもホラーコンテンツ自体は好きだったんです。だからといってYouTubeでホラーをメインにするとかはなくて、最初は普通にエンタメ系のYouTubeをやってました。とはいえホラーが好きなので、いつの間にか必然的に恐怖系に偏ってしまいがちにはなってるかもしれないですね。
頓花 ホラー作品の紹介って難しいと思うんですけど、すごく上手に興味を駆り立てながら、その作品の本質を紹介されているので、すごいことですよ。
かいばしら 興味と言えばなんですが、こうやってお話してて、梨さんがなんでも知りすぎてて怖いなと思うんですけど、実は梨さんが作って自分で広げてるっていう可能性ありませんか?
頓花 可能性はある。
かいばしら 全部の原流は梨説。あります。
頓花 7歳ぐらいの頃からインターネットでネタを巻いてる可能性がある。
かいばしら ポケモンとかやったことあります? 一旦そこからじゃない? 日本で育つ限りはアンパンマンとポケモンは避けられないじゃないですか。そこはちゃんと通ってきました?
梨 ちゃんと通ってます(笑)。特に隠してない情報なんですけど、私、2000年生まれなんですよ。なので、今24歳なんですね。
かいばしら 地球が1周回った後の24歳ですね。
梨 一巡をしているかどうかは定かではないですけど(笑)。例えば、2007年頃、私が7歳ぐらいの頃って、いわゆるネット怪談の「洒落怖」と言われるインターネットホラーの全盛期だったんですよ。その全盛期のときにインターネットを始めて、2ちゃんねるとか、メンヘル板とか、夢小説界隈に出入りするようになったんです。割とそういう早い時期からインターネットにはずっと張り付いてたんですね。小学生のときに2ちゃんねるに居たって、今考えるとほとんどやばいやつですよ。
頓花 親は何してたんや。
かいばしら 本当に。
梨 踏み外さなくてよかった。
かいばしら 今が正しいルートなのかな……。
頓花 多少バグってはいますよ。間違いない。
梨 だからなのかな。作家デビューしたときとか、それこそ編集さんという方と初めて会ったときに、必ずと言っていいほど言われたのが、「梨さんって40代ぐらいの男性だと思ってました」。もうひとつが、「梨さんって30代ぐらいの女性だと思ってました」なんです。すいません、どっちでもないんです。
頓花 僕は「梨、30代女性派」でした。
かいばしら 僕は「40代の男性派」。
頓花 インターネットに詳しすぎるっていうところがね。
かいばしら そうそうそう。例えば、『自由慄』(太田出版)という作品では、自由律俳句を使った物語が展開されてるじゃないですか。そういう詩の世界ってどういったところから知っていくんですか。
梨 私はずっとインターネットで創作をしてきた人間なんです。ちょっと話が深くなっちゃいますけど、『みさき る』っていう有名なネット怪談は、元々インターネット上のコンテストに投稿された話なんですよ。
かいばしら へー!
梨 「文学極道」(通称「文極」)っていう、現代詩を投稿する掲示板みたいなサイトが20年ぐらい前からあって、そこで文学表現のコンテストをやったときに投稿されたのが『みさき る』だったんです。私も当時、「現代詩フォーラム」っていう詩や俳句をインターネットで発表するっていうところで詩歌の創作をしていたので、『みさき る』を読んで「スゲー!」って感動して、前衛的詩表現とウェブホラーの相性の良さは知っていたんです。
かいばしら ウェブでの文章表現みたいなのが基盤にあるんですね。 例えば、文章で人格形成していくとしても、基本はやっぱり本じゃないですか。2000年初頭も今ほど電子書籍とかはない時代だから。そういった中で、インターネットという新しい表現の場所で、インターネット特有の表現、アスキーアートであったりとか、そういったものを吸収して、自然と今のスタイルが出来上がってたんですね。
梨 はい。インターネットロアのあり方というか、遊び方みたいなものは、本当におっしゃる通りですね。だから、逆にいわゆる小説のホラーを知ったのは結構後なんです。
かいばしら 逆に。
梨 私の中のホラーって、それこそ2ちゃんねるなんかで誰とも知れない人が書いたやつと、「赤い部屋」とか……。
頓花 はいはい。フラッシュですね。
梨 はい。私、結構ホラーフラッシュってロストテクノロジーかなと思ってるんです。結構、実験的なホラー表現をしたフラッシュって結構あったじゃないですか。
頓花 ありましたね。フラッシュ大好きでした。
梨 私も大好きです。だから、ああいうホラーをまず最初に知ってから小説を知ったので、私はあんまり、普段から小説を書いてるっていう感覚がそんなに無くって。
かいばしら そうなんですか?
梨 結果的に本っていう形になったけど、元々の頭の作りはインターネットの横書きの文章だからな~とか思いながら書いていたら『自由慄』ができたんです。
かいばしら なるほど。
頓花 梨さんはちょっとルールを縛った方が、よりすごいのを産み出すっていうのがありますよね。

梨 フォーマットがあると、そのフォーマットが破壊されたときに怖さが出せるんです。例えば、過去に『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(テレビ東京)というテレビ番組の構成をした時に、表面上、古いビデオを見ながらMC陣が語り合うというオーソドックスな番組スタイルなのですが、番組が進むにつれてだんだん様子がおかしくなっていく。
その番組の出演者の中にいとうせいこうさんがいらっしゃったんですが、いとうせいこうさんってとてもサブカル的な造詣が深いじゃないですか。そういう方がどんどん狂っていったら面白くないですか? って提案したら、あれができました。
かいばしら そっか、あの番組も梨さんか! わあ、いとうせいこうさんを狂わせたの梨さんだったの!
梨 いとうせいこうさんが1番ちょうどいいんですよ。知識人であることをみんなが知っているし、前衛的なこともやられてる方なので。ご本人も面白がってくれそうですし。
かいばしら そうか。あの文脈をわかってくれるかどうかも重要ですよね。梨さんのやりたいことをね。あれも梨さんなのか……。
頓花 話題の現代ホラーには大体梨さんがいるんですね。
かいばしら いろんなホラーを見て梨さんいないか疑っちゃう人がいそう。
梨 私、実はXのDMを開放してるんですけど、ちょっとフェイクドキュメンタリー的な要素がある作品が世の中に出た時に、「梨なんじゃねえか?」って疑うDMが必ず来るんです。
かいばしら わかります。『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)が出たときに、背筋さんと梨さんって名前変えてるだけでひょっとしたら同一人物なのかなって、正直最初は疑ってました。
梨 (笑)。わかりますわかります。逆に私は、DMで「これ梨さんですか?」って言われることで最近のホラーの話題を知っています。
頓花 一方で、梨さんが結構ありとあらゆる表現をされているので、新しい作品に対して「これ見たことある」って言われちゃう可能性もありますよね。
かいばしら 「梨さんがやってたな」ってね。
頓花 これね、結構恐ろしいことですよ。
梨 今、センター試験を題材にした作品を考えているんですけど……。
かいばしら 受験生の気持ちをなんだと思っているんだ。
梨 まさしくセンター試験の話がそれで。
頓花 領土争いでもあるわけですね。
梨 制空権をいつ、どう取るのかになってます。
かいばしら 確かに、センター試験とか、そういう教育っていう身近なものに何か不穏なものが混ぜられていると、ちょっと前のめりに気になるかも。
頓花 梨さんのホラーを読んでるときの読者の読解力って異常に上がってると思うんですよね。IQ上がってます。「このときの作者の気持ち」皆さん考えすぎ、みたいな。教材としてもいいのかもしれない。
かいばしら 漢字ドリルとかいいじゃないですか。
梨 漢字ドリルは吉田悠軌さんがすでにやってらっしゃるんですよ。
頓花 あーそっか。もう、ホラーはお題の取り合いですね。
かいばしら もう、「1+1=100」で覚えさせちゃいましょう。
頓花 最近だと箱をテーマにした『ここにひとつの□がある』(KADOKAWA)という作品も出されていましたね。その作品内でも、ちょっとした算数問題がホラーになってるページがありましたよね。
梨 はい。例えばですが、算数問題でよくある「タカシくんは15分前に家を出ました。5分後にユウナちゃんが自転車で出発し、時速5キロの速さで進んだ場合に~」みないなやつ、あれ、ずっと思ってたんですけど、結構ホラーじゃないですか?
かいばしら 確かに、問題作りたさ故に破綻している問題ありますよね。
梨 そうなんです。
かいばしら キャラクターが問題に動かされてる。
梨 そうそう。リンゴ3個買って、ミカンを5個買って、さらにカブを3個買ってどうのみたいな。そんなに食べなくない? って。これ、ホラーにできるなと思って作ったんです。
頓花 僕たちが今、当たり前に思ってる日常やありとあらゆる行動は、そのうち全部梨さんにホラーにされてしまうっていうね。呪いがあるんですよね。
かいばしら 今ホラーになってないものは何だろう。料理はなってるかな。
梨 レシピとか?
かいばしら レシピ! いいじゃないですか。
頓花 いいですね。ちょっと見えましたね。今見えました。
かいばしら レシピ本ホラーめちゃくちゃいいじゃないですか。
頓花 多分、ろくなもん出来上がんないっすよ。
これからのホラー

梨 最近だと、オモコロライターの上條一輝さんが出された『深淵のテレパス』(東京創元社)というホラー小説がめっちゃくちゃ面白かったです。すっごい怖いんですよ。
頓花 そういう新しい作家がどんどん出てくるっていうのはいいことですよね。
かいばしら そうですね。梨さんって、ホラー界のニュージェネレーションと言われることが多いと思うんですけど、それって自分の中では意識されてるんですか?
梨 今って、言うたらもう群雄割拠なわけじゃないですか。あらゆる作家さんが、どんどん面白い作品を出してて。
かいばしら はい。
梨 そういう、各々が自由にやってる中で私がちょっと狙っているのは、プロデューサー的な立ち位置で、小説に限らずいろんなフィールドでホラーをやってる人になりたいんですよ。 今ってホラーブームだって言われてるじゃないですか。
頓花 すごい言われますね。
梨 そういうブームの中で、今までホラーやったことないけど、ちょっとやってみたいんですっていう相談があったときに、「私、構成できます!」って営業できたらいいな。小説家、作家はめちゃくちゃいますけど、いろんなメディアの監修までやりますっていう方は多分まだそんなにいないんじゃないかな、と。
頓花 これをもしテレビ関係の人見てたらすいません。もう今すぐ取り合いっすよこれ。えー、ちょっと株式会社闇も押さえたいな……。仕事めちゃくちゃ早いしね。それに、優しいんすよ梨さん。人当たりがいいのでやりやすい。作家さんみんなそうですけど、本当に人間ができている。
かいばしら 作品の怖いイメージが先行して怖い人みたいなイメージになりがちですけど、全然そんなことない。
梨 灰皿とか絶対投げない。甘いものが大好き。
頓花 これからは、小説ももちろんだけど、小説以外のありとあらゆるメディアで面白いコラボをしているのを見たいですね。
かいばしら 映像の監督をしたいとかはないんですか?
梨 『行方不明展』のドラマがあったんです。1月公開の映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(配給:KADOKAWA)で監督を務めた近藤亮太さんが作ってくださったんですけど、現場などで色々垣間見ていて、やっぱ映像制作って面白いんですよね。だから、いつかやりたいなと思っています。
頓花 絶対すぐそういうタイミング来ますから!
梨 そういう未来の理想もありつつ、なんかいろんなところで、「また梨いるよ」「もういいよ」ってなるまで。
かいばしら スーパーの果物の梨を見て胸焼けするぐらいまでね。
梨 梨の旬の季節が怖くなるみたいなところまで攻めていきたいですね。
頓花 そろそろ締めの時間ですね。なんか言い忘れたことないですか?
かいばしら 梨さんは何人兄弟ですか?
梨 (笑)。あの、末っ子だということだけ。末っ子です。
かいばしら 今日はだいぶ梨さんのことを知れたかもしれない。

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