ソロ活動を本格始動した森田美勇人が描く、人生を続けていくための表現活動。「めんどくさがりの究極形態を目指して」
音楽やダンスだけでなく、絵や写真など幅広い表現活動を行うアーティスト・森田美勇人。「表現することは、生きるために必要なこと」だという森田は、新たな表現のひとつとしてシングル「Time」を8月28日にリリースした。
本作は、今年5月に恵比寿・KATAで行われた自身初の個展『Myuto Morita Exhibition “SIKI”』で行われたミニライブでも披露された楽曲。ライブでもギターとマニピュレーターを務めたアーティスト/プロデューサーのSPENSRとともにスタジオに入り、ふたりで楽曲を作り上げていったという。
音楽活動を本格的に始動していくという森田は、本作で自身のルーツである東京に流れる都市部特有の空気感を表現。「Time」制作についての話、そして森田が“表現”を続ける理由について聞いた。
森田美勇人
(もりた・みゅうと)1995年10⽉31⽇⽣まれ、アーティスト/モデルとして活動。アーティストとして音楽やダンスでの表現の傍ら、絵や写真などの表現活動、多数のファッションブランドからのビジュアルモデルとしての起用など、活動の幅は多岐にわたる。2021年11月に、自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」を設立し、本格的にソロでの活動を始動。近年は「Ground Y」にて自身の撮り下ろし写真を使用したコレクションの発表や、New Balanceの新店舗オープンを記念して描き下ろしたアート作品の製作など、クリエイティブな活躍を見せている。
自分の世界を表現する原体験は「QJカメラ部」
──「Time」の初めての披露は、5月に東京・KATAで行われた自身初の個展『Myuto Morita Exhibition “SIKI”』でのミニライブでした。制作を始めたのはいつごろだったのですか?
森田美勇人(以下、森田) 年末から年始にかけて、ギターやキーボードでコードを弾きながら作りました。そもそも、曲作りを本格的に始めたのが今年からなんです。厳密にいうと、以前、ちょろっと作ってみた記憶はあるんですけど、ちゃんとかたちにして披露したいと思ったのは初めてなので、僕にとってはすごく“最初の曲”っていう感じがします。自分が出すんだったら、自分の特徴を活かした楽曲がいいんじゃないかと思ったんですよね。ダンスをやっていたから、こういうグルーヴ感のある楽曲やループミュージックが好きだし、ベースを弾いていた経験があるから、ベースの音に重きを置いているし。歌詞を含め、世界観が初めから見えていたから、この曲を作るのはそんなに難しくなかったかもしれないです。
──ジャケットデザインは、「QJカメラ部」連載第1回目の写真から。連載を始めたことは、森田さんの表現活動において大きなことでもあったとか。
森田 「創作したい」という意欲は昔からあって、振り付けをしたりはしてきましたけど、表現として言葉を発するのは「QJカメラ部」が初めての経験でした。それまでの僕は、需要と供給を考えながら常に「最善を選ぶ」人間だったけど、連載をきっかけに、“最善”を意識せず自分の世界を表現できるようになったんです。抜け出したいと思っていたわけではないけど、また違った楽しみを知って、「こういう言葉を詞にしてみたら楽しいのかな?」と、音楽につながりました。だから「QJカメラ部」の第1回は、僕の原点なんですよね。
──原点とおっしゃる連載第1回と同じく、「Time」に描かれているのも森田さんのルーツである東京です。
森田 「Time」を作ったのには、僕が東京で育って見てきた景色や、感じてきた空気を落とし込みたいという目的がありました。別の人から見ればまた違う東京の側面があると思いますけど、僕は物事をきれいに見たい習性があるというか、見えないものも感じたいタイプなんですよね。歌詞も、つじつまを合わせすぎたくなくて、あえて抽象的で断片的な要素を残しています。聴いていて、「変じゃね?」くらいでいいのかなと。yonigeなど自分のすべてをさらけ出している曲を聴くのは好きなくせに、自分で書く根性はないんです(笑)。
──サウンドはもちろん、歌詞の表現も含めて、森田さんらしい楽曲だと感じました。
森田 そう言われます。ただ僕は僕をあまり知らないから、まだピンとこないんです。今回、初めてひとりで歌いきるにあたって声色や声質、キーから見直して、自分に焦点を合わせることででき上がる世界観を知ることができました。一方で、いかに自分は「人あっての存在」であることを追求していたんだろうかと、自分のことをまったく知らない自分に気づいたし、今はそれを取り戻しているところです。
SPENSRは今後の人生を過ごしていく友達
──タッグを組んだ、SPENSRさんとの出会いは?
森田 友達のドラマーが知り合いで、あるときSPENSRがインスタライブでリハを公開しているのを観たんです。曲調もパフォーマンスもかっこいいし、プロデュース業もやっていると知って、次に彼が出るライブを教えてもらって会いに行きました。それが深夜3時のイベントで、撤収して帰るころには朝4時。僕はライブに照準を合わせていたので、前の晩は早めに寝てるし、なんなら夕方には仮眠して、やる気満々で話しかけに行ったんですけど向こうはくたくたですから……。あんまり手応えがなかったことを覚えてますね(笑)。
──(笑)。そもそも、ひとりで仕上げるという考えはなかったのですか?
森田 なかったですね。自分でできる範囲のことしか、やるつもりはなかったです。ただ、たまたまSPENSRを見て、一緒にやったらおもしろそうだな、踊れる曲になればめっちゃ楽しいわって思って。それが叶わなかったら、弾き語りを練習して、路上で自分の歌を歌って吐き出せたらじゅうぶんだと思っていたし、その気持ちは今でもそう。そもそも僕、「音楽活動、始めました」って言ってるけど、 そんなたいそうな気持ちじゃなく、ただ自分の感情を吐き出せればよくて、その表現のひとつが音楽だというだけなんです。もちろん、やるからにはバズったり、チャートで1位を目指せたらいいけど、野望があるタイプじゃない。ただ「音楽が好きだし今後もやっていきたいから、音楽が好きな友達がいたら楽しいだろうな」と、好奇心で彼に声をかけました。音楽に必要なピースじゃなく、人生の道楽を探していたというか(笑)、今この年齢から友達ができるのっておもしろいかも、みたいな。実際、もっと仕事の関係になるのかなと思っていたんですけど、僕は自分らしくいられるし、向こうは向こうのスタンスを変えずに僕と話せている。それがすごく心地いいし、長くやっていけると思いました。今後の人生を過ごしていく友達、仲間みたいな感覚で、これからも楽しいことを続けていけたらいいなと思っています。
──ふたりでいるときは、どんなことを話すんですか?
森田 「日本の建物は、果たして無機質なのか…?」とか……? 僕はわりと虚像と戦ってきた人間で、人が想像する僕という像に自分をはめていく作業が多かったから、虚栄心がめちゃくちゃあったし、でも「自分のまま生きたい」という葛藤もありました。SPENSRは、岡山で暮らしてきた穏やかさと心の広さを持ち合わせていて、すごく等身大の人生を歩んできた感じがするんですよね。お互いの境遇は違うのに、同じような感覚や性質を持っているんです。
──「Time」を世に放ってみて、今はどういった感覚ですか。
森田 毎日聴いてますって言ってくれるファンの方もいてくれて、うれしかったです。悔しさや、もどかしさはありますけどね。歌唱力も言葉の表現の仕方も、まだまだ自分のイメージしてるものにピントが合わなくて。でも、ふたりで作り上げたものを世に残せることがうれしいです。
歌うことへのトラウマを克服したかった
──初の個展は、振り返ってみていかがでしたか?
森田 自我が強くてうざいなって……(笑)。僕にとって表現は排泄みたいな、生きるためのものなので、人を集めて発表することに抵抗があるんですよ。家で描いたり踊ったりしていれば発散になるんだから、本来は誰かに見てもらわなくてもいいわけなんですけど……いかんせん、10歳からこういう仕事をしているがゆえ、「これはコンテンツになるんじゃないか」という左脳が働いてしまい(笑)。この間も、「『Time』に振り付けしたものを見てみたい」というコメントを見て、やってみたんですけど……。自分の作った曲で作った振りで、アングルを決めて、色味を変えて……なんか恥ずかしいなと思いながら(笑)。でも、観たいと言ってくれる人がいるし、結局、観てもらえたらうれしいし。やっぱり表現活動は楽しいし、しっくりきているし、人生を続けていくために僕は表現を続けていくんだと思います。
──ミニライブについて、「フロントに立つという経験があまりない」とYouTubeのリハ映像でお話しされていました。今回、経験して感じたことは?
森田 前にいた事務所で、ソロで歌う機会を何度か経験したことがあるんですけど、大失敗してるんですよ。めちゃくちゃ緊張して、ピッチも取れなくて、歌うことがトラウマになりました。でも、本当は歌うことが大好きで、親から「早く家を出て行ってほしい」と言われるくらい、家でもいつも歌っていたんです。だからこそ、歌にトラウマを抱えている自分がすごく嫌で、今後も楽しく歌うには立ち向かうしかないと思いました。今でも苦手意識はありますけど、自分らしく歌っていたいし、こうして改めて音楽を始めたのは「好きだったのに苦手になったもの」を取り除きたかった気持ちもあったのかも。
いつか楽になるための今
──音楽に絵に、森田さんの表現はさらなる広がりを見せています。描いている今後のビジョンは?
森田 僕は振り付けをしたり、曲を作ったりと、生産性があるのかないのかわからないこと、生きていくために必要なのかと言われたらわからないことをして生きているけど、それでも表現というものは人間界に存在するから、僕はこの道で生きていきたいです。理想は、手ぶらでどこへ行っても表現ができる人間になりたい。どこでも踊れるし、歌えるし、楽器ひとつあれば演奏できて、道具ひとつあればどこでだって描けるような。そういう、めんどくさがりの究極形態を目指して生きていきたいです。僕はミニマムに生活ができればいい人間だし、そのために身を磨くことは好きだから、今は「いつか楽になるために苦労している」っていう感じです(笑)。
──そんな今、充実していますか。
森田 充実しています。そして、焦っています。こんなに大変なんだなって。自分の船を走らせていくには、いい意味でちゃんと適当な要素を持ち合わせていないと進まないし。 だけど、アルバムがひとつできれば、それを持ってどこででもライブを開催できる。僕の音楽制作の出口には「ライブをやって発散したい」という思いがあるから、絶対に生音を入れることにはこだわっています。そう遠くないうちにお聴かせできるはずというか、聴かせなきゃいけないと、今まさに焦っているところです(笑)。
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