JO1の川西拓実と桜田ひよりのダブル主演で実写映画化され、2024年5月に公開された『バジーノイズ』がAmazon Prime Videoで配信され、12月18日にはBlu-ray&DVDがリリースされる。
『クイック・ジャパン』vol.171(2024年4月発売)では、川西拓実のロングインタビューと『バジーノイズ』に関わるスタッフ陣の言葉から紐解いた特集「川西拓実“解体新書”」を実施した。
ここでは、社会現象になったドラマ『silent』や『海のはじまり』(ともにフジテレビ)の演出を手がけ、映画『バジーノイズ』で監督を務めた風間太樹の、誌面には収まりきらなかったエピソードも盛り込んだインタビューをお届けする。
軽やかにチャレンジしていく気概のある人
──映画化するにあたり、むつき先生の原作をとても大切にして作り上げられたことを感じました。最初に原作マンガのどのような部分を魅力に感じ、どう映像化しようと思いましたか?
風間 最初に読んだときは、作中に描かれている、誰かと触れ合うときの緊張感や不安を丁寧にすくい取って描いていきたいと、まず思いました。あとは、音楽描写が非常に秀逸だなと。幾何学模様を駆使して、清澄(きよすみ)の鳴らす音と誰かの音が合わさりグルーヴが生まれていく様を表現しているんですよね。映像ではそれを実際に音楽で表現できてしまうので、キャラクター一人ひとりの心情を、言葉のように音に乗せたいと思いながら作っていきました。
──映画では清澄の心の動きが、波形で描写されているのが印象的でした。
風間 あれはオシロスコープという音の広がりを示す波形ですね。清澄は黙々とPCに向き合っている人物なので、そうした時間の、ある種の孤独さと想像が絡まっていく様の表現として差し込みました。
──川西拓実さんと初めてお会いする前は、どのような印象を持っていましたか?
風間 彼が演じている姿と、アーティスト活動で目にする姿は当たり前ですがまったく違っていて、キャラクターの性質が大きいと思いますが、『ショート・プログラム』(※編集部注:JO1メンバーが1話ずつ主演を務めた短編ドラマ)を通して見る川西君には純朴な印象を持ちました。実際に対面してみても、実直な人であるように思いました。不安もしっかり言葉にして伝えてくれたので、最初からざっくばらんに話せました。
──JAM(JO1のファン)からもメンバーからも“センスの人”と称されることが多い川西さんですが、一緒に作品を作り上げた風間監督から見て、ずばり川西さんの役者としてのセンスはいかがでしたか?
風間 センスが光る日はもちろんありました。特に音楽描写の表現においては、所作は音楽家のそれに近かったですし、彼が潜在的に持っている音楽へのイメージや身の委ね方を用いて、丁寧に具現化していました。まだ俳優としての経験が少ない自覚があるからこそ、いろんなことに軽やかにチャレンジしていく気概のある人だと感じました。凝り固まったスタイルや自分の型がまだないので、撮影が進んでいくにつれて、ぐんぐん成長していって。技術というよりは、しっかり役に臨もうという意識で素直に向き合っていた印象です。
──なるほど。初の主演作ですし、やはり最初は緊張している様子でしたか?
風間 撮影当初はもちろん緊張していましたし、桜田(ひより)さんや栁(俊太郎)君、ほかの共演者との距離感が縮まるのも、けっこう牛歩でしたね(笑)。徐々に彼の人懐っこさやムードメーカー的な気質が出てきて、最終的には座長として中心的な存在になっていきました。
──撮影はほぼストーリーの順番どおりに進んでいったそうですが、打ち解けてきたのは撮影期間のどのあたりでしょうか?
風間 マザーズデイ(劇中に登場するバンド)の前座で清澄と陸がライブをするシーンが、中盤より少し前くらいの撮影タイミングだったんですが、そこを演じ抜いてからは、いい意味で力が抜けたと思います。清澄としても宙ぶらりんだった他者と関わりを持つ覚悟だったり、自分の音楽に誰かの個性が混ざることへの気持ちが前進していくライブですが、役にシンクロするように自分の緊張もほぐれていくような時間だったんじゃないかな。
──ライブのシーンは何度か出てきますが、たしかに序盤と終盤では、清澄の音楽への向き合い方がまったく異なりますよね。それは川西さんの緊張が解けていく過程とリンクしている部分もあったのかもしれないですね。
風間 そうですね。清澄は誰かと一緒に音楽をやるということに対して宙ぶらりんな気持ちのまま、ライブに突入していくわけですが、自分の音に陸のベースの音が重なった瞬間、「自分はひとりでここに立っているわけではないんだ」とホッとするような気持ちを持ったと思うんです。視線が合うこと、身体が他者の音に反応すること、そういった楽しさに身を預ける清澄と川西君自身がシンクロするような感覚は持っていたかもしれないですね。
清澄が人と交わっていく話が作りたかった
──演技の指導は細かくされたんでしょうか。それともニュアンスを伝えてあとは委ねるかたちに?
風間 どちらともいえるかもしれません。自分がイメージしたかたちの線をなぞる部分と演じ手自身の心と身体に託す部分と、状況に応じて、人に応じてかける言葉も違っていたと思います。清澄は自己意識的に他者に対する心のふたを閉じている人です。そんな彼の心が揺れるときには、心のふたが動く過程を川西君と細かく共有しながら作っていきました。「ここは完全に閉まっている」「微かに開けてほしい」というように。たまに現場の隅でひとり考え込んでいる姿も見かけましたが、清澄という人をわかりたくてひとりで葛藤していたんだろうなと。そうした姿もいつの間にか清澄に重なりました。
──共演者のみなさんからも、きっとたくさん影響を受けていたのでは?
風間 スポンジのように吸収していましたね。特に桜田ひよりさんには刺激を受けたようで、現場にどんなふうにいるべきなのか、その姿勢からも影響を受けていたように感じます。集中の仕方、抜き方、自分なりのリズムをつかむということ、自分でいる時間を大切にするということを特に。ひよりさんと現場でコミュニケーションを取っていると、たまに「今何を考えているんだろう」とわからなくなるような、振り返ったらいなくなっていそうな無軌道さを感じるときがあります。そうした「わからなさ」「読めなさ」が潮(うしお)と重なる点でもあって、あくまで自然体でいようと試みている姿からも受け取るものは多かったでしょうね。
──清澄と潮のシーンで、特に手応えを感じたところを挙げるとすると?
風間 線路沿いをふたりで歩くシーンです。清澄が他者と関わらなくなった理由を潮に吐露するシーンですね。清澄の音楽を誰かに伝えていきたいという願いと、清澄本人に対する好意が芽生えてきた潮によって、清澄の閉じた心が解きほぐされていく。そして潮にハグされるのですが、清澄にとって人間関係は、すべて自分と他者という線が引かれたものなので、その先には踏み込めない。潮もそれに気づき、近づきすぎてしまう自分を省みる。過去から続くふたりの不安が見え隠れし、ふたりのコミュニケーションが揺らぐ。言葉を通した気持ちの交流が最も描かれるシーンでもあり、そのあたりの細かなニュアンスをふたりと時間をかけて話し合いました。潮なりの言葉で清澄の抱えたものの重しを少しだけ軽くしてくれるシーンでした。
──清澄と潮の関係性は、恋愛関係のようでありながらひと言で言い表せないと思うのですが、どのように描いていきましたか。
風間 捉え方はもちろんさまざまあると思うのですが、人と他者の関係性に名前をつけたり、良し悪しを決めたりせずに、関係性そのものを描きたいという思いを持ちながら、ふたりを、そして清澄と人との交わりを見つめていました。
子守唄のように不安や緊張がほどけるような作品であってほしい
──歌唱シーンについても教えてください。川西さんはYaffleさん(映画『バジーノイズ』でミュージックコンセプトデザインを担当)、風間監督と相談しながら作り上げていったとおっしゃっていましたが、JO1の川西拓実としての歌い方とは全然違いますよね。清澄としての歌は、どんなふうにディレクションしたんでしょうか。
風間 清澄は機材を扱うことについてはカリスマ性を発揮する人物ですが、歌唱に関しては未知数です。だからこそまとめすぎず、粗雑さも肯定的にとにかく懸命に歌う、ということに注力してほしいとオーダーしました。
──今後、川西さんはきっと俳優としてもより活躍されていくと思いますが、風間監督としてはどんな姿を見たいですか?
風間 彼のアーティスト活動の賜物でもある躍動感がより活きる役を見てみたいです。今回、パフォーマンスの指導は直前になってしまうことが多かったんですね。現場でYaffleさんのアドバイスを受けてすぐに表現することもあったのですが、彼は吸収力と瞬発力がずば抜けているように思いました。清澄という役柄上自制してもらう点も多かったので、全身を使った表現で、アクティブで溌剌とした姿を見てみたいです(※編集部注:本取材は映画『逃走中 THE MOVIE:TOKYO MISSION』公開前に実施)。
──では、もしまた自分の作品に呼ぶとしたら?
風間 そうですね……古本屋の店員なんてどうでしょう……。ギャップのある役どころも演じてみてほしいですね。
──“川西拓実”という表現者をひと言で表現すると、どんな言葉が思い浮かびますか?
風間 「未知数」。まだまだ僕に見えていない部分もあるだろうし、ポテンシャルを秘めていそうだなと思います。
──ありがとうございます。映画『バジーノイズ』は、若い方はもちろん共感する部分が多いと思うのですが、大人世代の私も心に大きく響くものがあり、幅広い方に伝わる作品だと感じました。監督としては、この作品をどんな方に観ていただきたいですか?
風間 大学時代、清澄のように自分が眠るためだけの音楽を作っている友人がいたんです。心地よくて、穏やかな音楽で、自分も潮のように、その曲に救われたという経験があります。この映画もそういう存在になれたらいいなと思っていて。何か不安を抱えていたり、眠れない夜を過ごしている誰かに、寄り添える映画になっていたらうれしいです。
発売中の『Quick Japan』vol.171では、12ページにわたる特集「川西拓実“解体新書”」を掲載。川西拓実インタビューのほか、風間太樹監督、山田実プロデューサー、主題歌作詞を担当したいしわたり淳治、原作者・むつき潤といった『バジーノイズ』関係者に取材を行い、5つのキーワードから表現者・川西拓実の魅力に迫る。
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