作詞家・いしわたり淳治が驚いた映画『バジーノイズ』のこだわり「細かい部分が音楽映画の中で最もリアルだった」

2024.7.10
作詞家・いしわたり淳治が驚いた映画『バジーノイズ』のこだわり「細かい部分が音楽映画の中で最もリアルだった」

文=岸野恵加 編集=森田真規


JO1の川西拓実と桜田ひよりのダブル主演で実写映画化された『バジーノイズ』(5月3日公開)。4月12日より発売中の『Quick Japan』vol.171では、川西拓実のロングインタビューと『バジーノイズ』に関わるスタッフ陣の言葉から紐解いた特集「川西拓実“解体新書”」を掲載している。

『バジーノイズ』の主題歌「surge」の作詞を手がけたいしわたり淳治は、川西拓実=清澄(きよすみ)をスクリーンで観て「こういう目をしたやついるよな」と感じたという。ここでは誌面には収まりきらなかったエピソードも盛り込んだ、いしわたり淳治のインタビューをお届けする。

いしわたり淳治(いしわたり・じゅんじ)バンド「SUPERCAR」のメンバーとして1997年にメジャーデビューし、2005年の解散後は作詞家・音楽プロデューサー・作家として活動。これまで700曲以上の楽曲を手がける。朝日新聞デジタル『&M(アンド・エム)』にてコラム「いしわたり淳治のワードハント」を好評連載中。2021年には15年ぶりとなるバンド「THE BLACKBAND」を始動
いしわたり淳治(いしわたり・じゅんじ)バンド「SUPERCAR」のメンバーとして1997年にメジャーデビューし、2005年の解散後は作詞家・音楽プロデューサー・作家として活動。これまで700曲以上の楽曲を手がける。朝日新聞デジタル『&M(アンド・エム)』にてコラム「いしわたり淳治のWORD HUNT」を好評連載中。2021年には15年ぶりとなるバンド「THE BLACKBAND」を始動

監督が書いたアフターストーリーをもとに作り上げた主題歌

いしわたり 人気のあるダンス&ボーカルグループ。あとは、バラエティにもけっこう出るんだな、という印象も持っていました。どちらかというと、韓国発のオーディション出身だし、「スターになるぞ」とキラキラした感じなのかなと思っていたんです。でも清澄は未来に過度に期待しておらず、まわりのことも信用していない人だから、最初はギャップを感じたというか、「どうなるんだろう」と思っていました。映画を観たら、もうばっちりだったんですけど。

いしわたり はい。川西さんの佇まいが実在するバンドマンそのもので、「こういう目をしたやついるよな」と。何かに怯えているようなんだけど、譲れない芯がある、ナイーブな感じ。川西さんのことを深く知らないぶん、それ以降はもう、清澄が清澄として動いているイメージで観ていました。清澄が作る音楽はいわゆるポップソングではないですが、そのスタイリッシュな音の感じも彼のキャラクター性と合っていて、スッと入ってきましたね。

『バジーノイズ』本予告

いしわたり 風間(太樹)監督と密にやりとりをしながら作っていきました。映画の最後に流れる曲なので、清澄という人物が最後に歌う内容はどんなメッセージがいいのかを一緒に考えていって。最終的には、監督が映画のアフターストーリーを書いて送ってくださったんです。劇中の物語を経た先で清澄がたどり着いた心境や、彼が見ている景色が文章になっていました。

いしわたり やはりサビですね。一番清澄の核心に迫っていると思います。自分だけが世の中に不安を抱いていたわけじゃなくて、みんな同じものを持っていることに気づき、周囲とつながっていく。自分のためのものだった音楽が誰かのための音楽になっていく。そんな清澄の意識が外に向かっていく様を伝えたいな、と思いながら書きました。

いしわたり そのシーンでは当然、鑑賞者ではなく作詞者の目線になってしまったんですが……清澄の伝えたいことを歌として表現するところに向かっていく大事なラストを描く曲なので、そういう表現にしっかりなっていてほしいと思いながら観ていました。いいものになったなと思いましたし、監督にも満足していただいていたらいいな、と思いましたね。

清澄 by Takumi Kawanishi(JO1)「surge <single edit>」_special making movie

過去の自分と重なった主人公が抱える不安

いしわたり これまでの音楽映画やバンド映画は、汗と涙と情熱でしゃかりきにがんばるというものが多かったと思うんです。『バジーノイズ』はそのあたりは平熱というか、むしろ冷めているようなトーンで進んでいくのが新鮮でしたね。あと、音楽を制作するということにまつわるすべての描写が、とてもリアルなことに驚きました。ディレクターの言動や、アーティストが発掘されて徐々に売れていく流れ、レーベルとバンドの距離感……細かい部分が、今までに観てきた作品の中で格段にリアルを感じました。さらに音の面でも、リハスタの音、ライブハウスの音、デモ音源の音……細かい部分が音楽映画の中で最もリアルだったと思います。

いしわたり 清澄の物語として進んでいきますが、清澄という才能に触れることで、まわりのみんなの人生にも変化が起こるんですよね。それぞれのステージに進んでいく群像劇的な部分も、鑑賞し終えたあとに清々しい感じを生んでいると思いました。個人的にはラストの潮(うしお)が、彼女の人生をまっとうに歩き始めたように感じて、すごくよかったですね。

『バジーノイズ』配給:ギャガ、5月3日(金・祝)より全国公開 (C)むつき潤・小学館/「バジーノイズ」製作委員会
『バジーノイズ』配給:ギャガ、5月3日(金・祝)より全国公開 (C)むつき潤・小学館/「バジーノイズ」製作委員会

いしわたり 僕は20歳のときに青森に住んだままバンドでメジャーデビューして、週末だけ飛行機で東京に行って、夜行バスで青森に帰る、というような生活をずっと送っていたんです。なので自分の身の回りは変わっていないんだけど、ライブをやればたくさん人が入るし、東京に来るとなんだか人気があるような扱いを受ける。でも次の瞬間には、牛丼を食べて夜行バスで家に帰っていたり。そういう、自分の意識の中で何かが追いついていない、不安と期待が入り混じる感じはすごく過去の自分に重なって、自分の実体験としても「あったなあ」と思いました。

いしわたり そうですね。期待よりも不安のほうが大きかったと思います。「これからどうなるんだろう」「自分の技術が追いついていない気がする」と。田舎ではぼんやりやれていたのに、都会に来ると急にシビアに感じる感覚もありましたね。

いしわたり 作詞家をしている今も、シンガーがいたり、作曲者がいたり、実はずっと共同作業なんですよね。そういう意味では、ひとりだけど、いつも誰かと一緒に作っているという感覚を持っているかもしれません。特別自分の中で線を引いた瞬間もこれまでになかったし、ひとりというほど孤独を感じることもないですね。

『バジーノイズ』Trailer [AZUR edition]

いしわたり 僕から言えることがあるとすれば……やはり「バンドマンの目をしている」。ナイーブな目が原作の印象どおりというか、清澄本人に見えました。

『クイック・ジャパン』vol.171、「川西拓実“解体新書”」より
『Quick Japan』vol.171、「川西拓実“解体新書”」より

発売中の『Quick Japan』vol.171では、12ページにわたる特集「川西拓実“解体新書”」を掲載。川西拓実インタビューのほか、風間太樹監督山田実プロデューサー、主題歌作詞を担当したいしわたり淳治原作者・むつき潤といった『バジーノイズ』関係者に取材を行い、5つのキーワードから表現者・川西拓実の魅力に迫る。

新しい学校のリーダーズ/川西拓実(JO1)『クイック・ジャパン』vol.171
新しい学校のリーダーズ/川西拓実(JO1)『Quick Japan』vol.171
【通常版】『Quick Japan』vol.171 【ポストカード付特別版】『Quick Japan』vol.171

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岸野恵加

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岸野恵加

(きしの・けいか)ライター・編集者。ぴあでの勤務を経て『コミックナタリー』『音楽ナタリー』副編集長を務めたのち、フリーランスとして2023年に独立。音楽、マンガなどエンタメ領域を中心に取材・執筆を行っている。2児の母。インタビューZINE『meine』主宰。

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