情熱と狂気に満ちた『キングオブコント2023』決勝10組全ネタ振り返り
10月21日(土)に放送された『キングオブコント2023』決勝戦。大会には過去最多3036組がエントリーし、決勝進出を果たしたのは全10組(エントリー順に、ゼンモンキー、隣人、ファイヤーサンダー、カゲヤマ、サルゴリラ、ラブレターズ、蛙亭、ジグザグジギー、や団、ニッポンの社長)。
本記事ではブロガーのかんそうが、梅田サイファーが三浦大知とコラボレーションしたオープニング曲と、1stステージとファイナルステージの全ネタを振り返る。
梅田サイファー×三浦大知による最高の幕開け
個人的に間違いなく「過去最高」といえる『キングオブコント』だった。その理由はいろいろあるが、大きな理由のひとつはオープニングにある。
今年のオープニングを飾ったのは、昨年に引き続き梅田サイファー。さらに、人間離れしたダンススキルと歌唱力を兼ね備えた生きる音楽元号こと三浦大知とのコラボレーション。今大会のテーマ「コントの怪物になれ!」の「怪物」にフォーカスし、「怪物級のアーティストの方と楽曲制作を試みたい」という梅田サイファーの希望により決定したという。三浦大知の大ファンである私はこのニュースを見た時点で、全身が爆発するほど興奮した。
まずスーパーカーが一気に加速するような、R-指定の高速ライムからスタート。そこからは蛙亭をKOPERU、カゲヤマをCosaqu、サルゴリラをKBD、ジグザグジギーをコーラ、ゼンモンキーをteppei、ニッポンの社長をKZ、ファイヤーサンダーをテークエム、や団をILL SWAG GAGA、ラブレターズをpeko、隣人をKennyDoesが担当し、つないでいく。ファイナリストたちを的確に捉えて当て書きをしたリリックに、脳汁で頭の中がパンパンになってしまった。
そして三浦大知が歌うサビによって完全に放出した。あのすべてを飲み込むような歌声はいったいなんなんだろうか。まさか三浦大知の声で「キングオブコント」の8文字が聴けるなど、過去の自分に言っても絶対に信じてはもらえないだろう。しかも、ただのキングオブコントではない。
「キングオブコォォォオォオオオォ~~~ン……トッ……」
だ。こんな色気のある「キングオブコント」があっていいのか。マシンガンのようにたたみ掛けるラップパートがあるからこそ、一瞬で心をつかまれてしまう。これまでもKREVAやライムスター宇多丸といった数々のラッパーとコラボしてきた三浦大知だったが、改めてその相性は「最高」であるということが証明されてしまった。
設定もセリフも極限まで研ぎ澄まされたネタがあふれる1stステージ
「お笑い芸人」という職業のカッコよさを再確認するようなオープニングから始まった『キングオブコント2023』。記念すべきトップバッターを飾ったのは、決勝戦初進出のカゲヤマ。オープニングの興奮が冷めやらぬなかで彼らはどんなネタを披露したのか。
カゲヤマ『料亭』(2位/469点)
「ふすまを開けたら全裸で尻をハミ出しながら取引先に謝罪する上司がいた」というシチュエーション。「取引先への謝罪」と「ふすまを開けたら全裸」という、あまりの落差に目が焼き切れるかと思った。ふすまの外で物憂げな表情で高い壁を見つめていた、あのクールでスタイリッシュな男たちはいったいどこへ消えたのか。
2023年のネタにもかかわらず、たとえとして2011年に発売された渡辺麻友のファースト写真集『まゆゆ』の表紙を出してくるカゲヤマの姿、まさにファイナルスリル。あのオープニング自体が大きなフリだったのかとすら錯覚する、すべてがひっくり返るコントだった。
ニッポンの社長『空港へ行け』(3位/468点)
4年連続ファイナリストのニッポンの社長。恋愛ドラマによくある「恋人を見送りに行かない親友を説得する」というシチュエーションではあるが、説得をするのは「どんな残酷な攻撃をしてもダメージを受けない」ケツで、対するのは「なぜかあらゆる銃火器を所持している」辻という、ギャグマンガのような世界観。
以前、とあるインタビューで辻が「ケツは何をされていてもかわいそうに見えないからすごい」と語っていたのだが、その特異体質を存分に生かした、ニッポンの社長にしかできないネタだった。
や団『演劇の稽古』(5位/465点)
カゲヤマ、ニッポンの社長と、「コンプライアンス」という言葉がこの世から消えたのかと思うような衝撃的なネタの2連発に頭がおかしくなりかけていたところで、続く3組目に登場したのが、前大会準優勝のや団。厳しい演出家と劇団員の稽古というシチュエーション。
終盤、ヤクザ映画でしか見かけないガラス灰皿が回る様子をただ見つめる時間には、とんでもない緊張感と可笑しさがあった。あの時間を作り出すために灰皿を投げつけたのだと気づいたとき、その構成力に度肝を抜かれた。
蛙亭『寿司ボーイ』(8位/463点)
「公園のベンチで彼氏と通話をしていたら急に別れを切り出されて泣く女」と「キックボードに乗ってシブがき隊の『スシ食いねェ!』を歌いながら寿司を運んでいたら転倒して寿司を潰してしまった“KARIBU”と書かれたセーターを着た男」の会話劇。
「変な人間」を演じたら天才的な爆発力を持つ中野周平と、そんな男にバックボーンを持たせる脚本を書くイワクラのうまさ。特にそれが光っていたのが、中野が持っていた寿司がひとりではなく「みんなで食べるための寿司」だと明かされた瞬間。凝り固まった価値観が覆されるシーンだった。
ジグザグジギー『新市長』(6位/464点)
就任記者会見で、元お笑い芸人ゆえにマニフェストを大喜利のように出す新市長。フリップを出すときの片肘の突き方や答えるときの口の曲がり具合など、所作の細かさで観ている人間全員に「チェアマン」を想像させた。そんな宮澤聡の所作には、美しさすら感じる。特に「共存」「捕獲して射殺」のテンポが最高で惚れ惚れしてしまった。
ゼンモンキー『縁結び神社』(10位/456点)
ヤンキー風のふたりが恋人をめぐって言い争いをしているところに、ひとりの男子学生がやってきて恋愛成就のためにお参りをするというシチュエーション。生きる世界がまったく違う人間が物語に介入することで空間が歪み、可笑しさが増すという脚本は、まるで三谷幸喜のドラマを観ているようだった。
隣人『猿落語』(9位/460点)
「落語家が動物園でチンパンジーに落語を教える」という、今大会屈指の意味不明なコント。こんなにも脳が混乱したのは2700の『キリンスマッシュ』を見たとき以来だ。こんな設定を思いつき、台本を完成させ、稽古をして披露したという事実がすでにおもしろい。チンパンジー役の中村遊直が最後まで一切顔を見せないことも含めて、非常にイカレた時間だった。
ファイヤーサンダー『日本代表メンバー発表』(4位/466点)
大会オープニングのリリック「計算された流れ 長めの溜めが要」のとおり、最初のボケでグッと観客の心をつかむのが本当にうまいコンビ。サッカー日本代表のメンバー発表を、選手と監督のようなふたりが見守っているところから始まる。
サッカー日本代表候補メンバーかと思われていた男が実はものまね芸人だと明かされた瞬間に、パッと視界が開けるような感覚になった。この感覚は、ファイヤーサンダーのコントでしか味わえない。しかも出オチ的に終わるのではなく、尻上がりでどんどん情報が追加されていき、最後の1秒までおもしろい。フルコースを楽しんだあとのような見応えを感じた。
サルゴリラ『ルール』(1位/482点)
※公式動画なし
テレビ局の番組ディレクターと出演者候補のマジシャン・ルールが打ち合わせをするという設定。児玉智洋演じるルールが妙に気持ち悪い手品を次々と披露し、その変態性がじわじわと滲み出てくる。
ところが「午前中に区役所行って」「家に居場所がない」といった彼のセリフから徐々にその人間性が明らかになっていき、哀愁を帯びていく。それがあまりにもおもしろすぎた。さらに、赤羽健壱のわざとらしくならない絶妙なツッコミによって、物語のリアリティが増していく。特にオチで何も言わずただにらみつけるのは最高だった。
ラブレターズ『義母と隣人の間に』(6位/464点)
「彼女の家で結婚の挨拶をする」という王道の設定に「隣人がVTuber」という時代の流れを取り入れたコント。彼らのコントはいつも斬新な設定と、それに負けないふたりのパワーがすごい。溜口佑太朗がサンバイザーと花柄のシャツを身につけることで「おばさん」を表現しているのが、変すぎておもしろかった。
3組それぞれの異常性が存分に放出されたファイナルステージ
ニッポンの社長『手術』(3位/1stステージ468点+466点=合計934点)
「ただの盲腸なのに臓器を取り出しすぎる手術」というシチュエーション。「カードではなく賞状型の医師免許証」「掃除機のコードのように戻っていく腸」「寄生獣のような臓器」といった小道具ボケを出しながら、あくまで「これが普通」だと主張するケツと、全身麻酔が効いている上すべての臓器を抜かれているのに普通にしゃべっている辻という、2種類の異常性がさらにおもしろさを加速させていた。
カゲヤマ『DNA鑑定』(2位/1stステージ469点+476点=合計945点)
※公式動画なし
尻の次はウンコ。「仕事デキるふうの社員が上司のデスクにウンコを乗せた」というアホの極みのような設定なのに、けっしてウンコそのものを出さず、池井戸潤作品のような会話劇に終始する。そのギャップにウンコが漏れそうになるほど爆笑してしまった。
サルゴリラ『青春』(1位/1stステージ482点+482点=合計964点)
※公式動画なし
試合に敗れた高校球児と監督の会話。監督がいい話をしようとするが「青春という魚」「人生という魚」「夢という魚」「時間という魚」「後悔という魚」「監督という魚」「俺は本当に魚なのか?」「自分が魚じゃないみたいな顔だな?」と、徹頭徹尾「魚」一本で押し切ってしまう恐るべきコント。児玉が魚と言えば言うほど魚の耳になってしまう。
今年の流行語大賞という魚の候補に「魚」がエントリーしてしまうかもしれない。笑いという大きな魚によって会場を支配したサルゴリラが見事、優勝という魚を勝ち取った。
オープニングのあと、松本人志が「全員優勝でしょ」とコメントしていたが、終わってみればその言葉どおり誰が勝ってもおかしくなかった素晴らしい大会だった。来年はどんな魚を見ることができるのか、『キングオブコント2024』という魚を楽しみに待ちたい。
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