「どうなっても知らねぇよ!」劇団ひとり、真木よう子らによるタガが外れたアドリブ合戦『横道ドラゴン』現場レポート
8月11日、「DMM TV」で独占配信がスタートした『横道ドラゴン』。劇団ひとり、真木よう子、門脇麦をメインキャストに迎え、『有吉の壁』『マツコ会議』(共に日本テレビ)などを手がける橋本和明が企画・総合演出を担い、ヨーロッパ企画の上田誠が脚本を担当する。
この布陣で送るのは、クライム・サスペンスストーリーの皮を被った“アドリブ”劇だ。アドリブをさせたら当代一の劇団ひとりが刑事に扮し、真木よう子と門脇麦と共に捜査を進めていく。さらに毎回豪華ゲストを迎えて、夢のアドリブ・アンサンブルが繰り広げられる。
すでに配信が始まり、話題沸騰中の『横道ドラゴン』第1話の収録現場に密着した。その模様をレポートする。
目次
アドリブ全開のドラマ撮影。カギを握るのは劇団ひとり
撮影現場は異様な高揚感に包まれていた。郊外の撮影所に集まった100人近いキャストやスタッフ、関係者たちはみな浮足立っている。誰も結末を知らないアドリブドラマという前代未聞のコンテンツが始まるからだ。この企画の青写真を持っている人間はひとりもいない。
『横道ドラゴン』というタイトルが示すように、この日、撮影されるドラマは、「横道に逸れる=アドリブ」が本筋となり、物語の結末もキャストが握るという奇妙な番組だ。
撮影の段取りは、脚本シーン→アドリブシーン→(上田誠が脚本執筆)→脚本シーン→アドリブシーン……となる。まずは上田が事前に書いたプロットに従い、殺人現場のシーンから撮影は始まる。しかし、このあとの捜査シーンはすべてアドリブだ。そこで話がどう展開するのかは、誰も知らない。
役者たちのアドリブによって話は脱線しまくり、それに合わせて上田が線路を敷き直す。そうやって誰も見知らぬ地平へと、ドラマは暴走することになる。
刑事・反田龍児役で主演を務めるひとりは、さっそうと現場入り。その眼差しは鋭い。すでに役作りに入っているのだろうか。エキストラやスタッフたちが談笑している間も、現場の隅で、最初のシーンのセリフを口になじませていく。キャストはこの日の朝、台本を渡されたばかり。セリフを覚える時間がほとんどないため、現場にはカンペ担当のスタッフもいる。しかし、ひとりはセリフを体と頭に叩き込んでおきたいのだろう。凄まじい集中力で、小声でセリフを何度も繰り返す。セリフのニュアンスを監督と相談する場面もあった。
かと思えば、つづいて現場入りしてきたキャストたちと談笑し、小道具をめぐってスタッフに冗談を飛ばす。座長として、ムードメーカーの役割も果たす。この企画の成否は、ひとりにかかっている。
「絶対に笑うんじゃねぇぞ!」アドリブシーンの緊張感
台本シーンの撮影は手際よく進行していった。ひとりはもちろん、龍児のバディ・由良歩を演じる真木、龍児の同期・塩野役を務める岡田義徳も当然手慣れたもの。ここまではあくまでも普通のドラマと変わらない。台本パートの撮影は、問題なく終わった。
つづいて、スタッフたちは急いで室内のセットに移動する。5台のカメラが横一列に並び、正面のヤクザ事務所風のセットに向けられている。通常のドラマとは違う、コント番組の撮影に似た風景。ベテランカメラマンたちは普段はバラエティを撮っているからなのか、アシスタントたちに「バラエティじゃねぇから、撮影中は何があっても絶対に笑うんじゃねぇぞ!」と釘を刺す。
ほかのスタッフたちも「ここからが大変だ」「体力持つかな」と軽口を叩く。そう、これからこのスタジオセットでアドリブシーンの長回し撮影が行われるのだ。当然、段取りもリハーサルもなく、本番一発勝負。役者たちのアドリブを、しっかり撮らなくてはならないという緊張感、張り詰めた空気が徐々にスタジオ内に充満していく。いよいよ、“横道”が始まる。
国家機密と痴話ゲンカ、アドリブによる化学反応
本番開始。セットのドアを開き、ひとりと真木が入ってきた。ソファに腰かけていたチンピラふたりに、近所で起きた殺人事件について問いただす。そこに現れたのは、かもめんたる・岩崎う大だ。ひとりも真木も、う大が来ることすら知らなかったため、ふたりは一瞬、絶句する。この先も、メインキャストたちは、誰がどのタイミングで撮影に加わるのかは知らない。アドリブは徹底されている。
う大は、この事務所の社長役のようだ。3人は互いの出方を伺いながら、おずおずと話を転がしていく。真木が辻褄の合わない推理を展開すると、ふたりはそれを見逃さず、問い詰める。自分が犯人に疑われ出した真木は、龍児と男女の関係を持ったと、あらぬ方向に話を進め出した。
シリアスなクライムサスペンスのはずが、主役とヒロインの痴話ゲンカが盛り上がってしまい、それをう大が仲裁する展開に。これにはスタッフたちも唇を噛んで笑いをこらえながら撮影をつづける。
そこに今度は突如、ボロボロの服をまとった小手伸也が入ってきた。全身で「ツッコんでくれ」と主張する存在感だが、3人は無言のうちに意志を統一し、小手を無視して話を進める。たまらず小手は、事務所にあった日本刀を持ち出し、話に割って入る。謎の組織の名前が登場し、話の風呂敷はどんどん広がりを見せる。国家機密と痴話ゲンカ。アドリブでしか生まれない奇跡の振り幅だ。
そうして混沌の収録が終わると、全員が苦笑いを浮かべ、立ち尽くした。「(どうなっても)知らねぇよ!」という声を上げるひとり。全員が必死だった。現場を客観視できている人間はきっといなかった。それでもあのアドリブ合戦は、間違いなく痺れる時間だった。
上田誠の大仕事
反省会パートまで収録し終えると、クルーは休憩へ。みんながホッと一息つくなか、脚本を担当する上田の本番はここからだ。先のアドリブシーンを踏まえて、次のブリッジとなるシーンを執筆していく。
屋外でアスファルトに腰かけ、首を傾げながらノートにペンを走らせる上田。その文字を、アシスタントがPCに打ち込み清書する。上田は1時間足らずで次のシーンの台本を仕上げ、台本を見ながらプロデューサーたちと作戦会議。上田にとっても『横道ドラゴン』は前代未聞の仕事だ。
でき上がったばかりの脚本シーンを一気呵成に撮影し、場所を移して次の捜査シーンの撮影へ。
到着したのは、渋谷の地下にあるラウンジ。店内では大勢のスタッフが準備に勤しんでおり、ボックス席ではキャバクラ嬢役と客役のエキストラたちが談笑している。
ここで着飾ったヒコロヒーがほかのキャストを避けて、待機部屋へ案内される。少し間を置いてバイきんぐ小峠英二も現れたが、パンツ一丁でうしろ手に縛られた小峠は、狭い戸棚の中に隠された。ヒコロヒーと小峠も鉢合わせないよう、秘密裏に全員が現場入りしていく。
撮影準備が遅れるなか、戸棚の中でうずくまって待機していた小峠。撮影が始まってもしばらく小峠は戸棚の中で待機する。30分以上にわたって、膝を抱え、息を殺して待機するのは、体力的にかなりキツそうだ。しかしこの小峠の根性によって、奇跡のシーンが生まれることになる。
ひとりvs小峠、タカが外れたアドリブ合戦
撮影が始まると、ひとりと真木が店内に入ってきた。最初のアドリブシーンでは比較的控えめだったひとりも、ここではのっけからフルスロットル。手にした模造のビール瓶を、エキストラのチンピラ役の頭に叩きつける。四方八方へ飛び散る破片。キャバ嬢と客たちが、叫びながら店外へ飛び出していく。その臨場感を捉えるべく、撮影・音声スタッフたちが、店内の狭い通路をせわしなく動き回る。
迫力満点のアクションシーンに発破をかけられたのか、物語もさらにツイストしていく。ヒコロヒーは、真木がかつて「公然わいせつ罪」で捕まっていたという設定をぶち込む。
ヒコロヒーが主導権を握るなか、突然、戸棚から小峠が転がってきた。まさかの事態に面食らう出演者たち。小峠の雄叫びで、現場はさらに熱を帯びた。小峠の熱量に刺激されたひとりも、さらにアクセルを踏む。うしろ手に縛られ横たわる小峠のアナルに氷を突っ込んだのだ。
タガが外れたアドリブ合戦に、スタッフたちは、もはや笑いをこらえるので精いっぱいだ。第1話の段階でここまで突っ走っていると、これから先どこまでエスカレートしていくのか心配になる。
尻上がりに過激さを増していくアドリブ。それに応じて脚本の上田が頭を悩ませ、軌道修正を図る。そんなギリギリのやりとりの末に、『横道ドラゴン』はどんな景色を見せるのだろうか。リミットなしで加速していく全6話のアドリブドラッグレースから目が離せない。
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『横道ドラゴン』
【配信日時】
1・2話配信中
毎週金曜日に配信(全6話)【出演者】
劇団ひとり
真木よう子
門脇麦【制作スタッフ】
企画・総合演出:橋本和明
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)関連リンク
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