嘘でも感情を刺激すれば信じてもらえる世界で、『亜人ちゃんは語りたい』は嘘をちゃんと説明する
「マンガは、出た瞬間に読むのが一番おもしろい。なぜなら、マンガは時代の空気や人々の暮らしから多大な影響を受けるものだから」。そう話すのは、マンガコミュニティ「アル」を運営する、“けんすう”こと古川健介氏。
隔週で「このマンガがいま生まれた意味」をテーマにマンガをご紹介する連載、今回は『亜人ちゃんは語りたい(でみちゃんはかたりたい)』をご紹介する。
感情を刺激すれば、嘘が本当かのように広まったり信じられたりしてしまうことが多い今日この頃。そんななか、本作は「フィクションに理屈をつけていく」ことでおもしろくなっているのだが、一体どんな作品なのだろうか。
フィクションに理屈をつけていく
今日、紹介したいマンガは『亜人ちゃんは語りたい』です。
いわゆる「ヴァンパイア」とか「雪女」「デュラハン」などの、伝承や神話の世界でしか出てこなかった「亜人」と呼ばれる人間が、普通に世間に溶け込み生活をしていく話です。
作中に登場する亜人たちは、ほとんどが女性です。ぱっとみた感じでは、それぞれが持つ亜人としての特質をベースに、好奇心・知識欲が旺盛な高橋先生との絡みを描く学園コメディーマンガ。ちょっとハーレム要素があるかな? と感じるかもしれません。
しかし『亜人ちゃんは語りたい』のおもしろさの肝はそこではなく、「“亜人が存在する”という大きな嘘を、論理が破綻しないように理詰めで解説していく」というところにあるのです。
この作品内では、亜人はいわゆる“ちょっとした個性のひとつ”くらいに捉えられています。その個性や性質を、徹底的に理詰めで解明する感じです。たとえば「ヴァンパイアはニンニクが苦手というが、実は五感が鋭いだけじゃないか。嗅覚が鋭いからこそ、強いニオイの食材が苦手というだけでは?」というふうに仮説を立てて実際に検証してみる、ということが行われます。
また、「雪女の伝承はなぜ悲しいものが多いのか」という疑問に対して、「雪女は精神的負荷と冷気が強く関係しているのでは」と仮説を立てるなど、多くの人が知っている亜人の伝説や伝承の理由を紐解いていきます。