睡眠時間が8時間減っても、人間は順応する生き物<納言・薄幸の酔いどれコラム#21>


4年前の私が見たら、泡吹いて倒れる会話

ただ人間は不思議な物で、この不規則な生活も2年も続くと、その生活が当たり前になっていく。
自然と慣れてしまうのだ。

仕事が無い時は、芸人仲間同士で飲んでいる時
「明日オーディション10時入りなんだよね。9時には起きないと」
だなんて誰かが言い出すと、椅子から倒れる勢いで
「「「は、はっ!!早えーー!!」」」
と一同驚愕する。
馬鹿だ。馬鹿過ぎる。
冷静に考えると、そんなに早くない。
サラリーマンやOLの方は、9時には出社して仕事をしている時間だ。
でも間違いなく、昔の自分は朝の9時起きはめちゃくちゃ早いという感覚だった。

何日か前、オズワルドの伊藤ちゃんと何人かで飲んだ時。

“今飲んでる?”
そうLINEが来たのが23時半頃。
この日は終わりが遅い仕事。

“今終わった!飲んでんの?”
そう私が返信したのが24時前。

“〇〇で〇〇とかと飲んでる!”
それを見た私は、スタッフさんにまるで自宅に帰りますよ〜の顔を見せて、指定された店へとタクシーで向かう。

向こうからしたらどうでも良いんだろうけど、遅い時間に終わる仕事の時、この後撤収作業も残っているであろうスタッフさんに対して“今からご機嫌飲み会に行ってきます”感を出すのは失礼なんじゃないかと思い、帰宅っツラこいて現場を後にする事が多い。
向こうからしたら、マジで知ったこっちゃ無いんだろうけど。

店へ着くと伊藤ちゃんは
「明日早くねえか?大丈夫?」
そう声をかけてくれた。

仕事がそんなに無い時代から付き合いのある伊藤ちゃん。
昔はそんなやり取り考えられなかった。
だって、お互い早い訳無かったんだもん。

私は答える。
「早くない、〇〇局に10時入り!」
伊藤ちゃんはナマコ酢を咀嚼しながら
「じゃあ、そんな早くないか。俺も9時位に起きれば良いから」
ナマコ酢という、飲み込むタイミングが一生分からない食い物を、まだまだ咀嚼しながら明日の起床時間を発表してくれた伊藤ちゃんに対して、
私も「じゃあ大丈夫か」と返事をする。

仕事が無かった4年前の私が見たら、泡吹いて倒れる会話だ。
4年前の私だったら、10時入りだなんて早朝。
なんなら深夜。

でも今はどうだろう?
深い時間から飲んで、9時、10時起きは、大丈夫。ちっとも早くない。
そんな感覚だ。
周りの芸人も全員そういう感覚になっていく。
誘われたこの日の翌日が朝5時起きだとしても、飲みに行っていたし。

人間はどんな生活にも順応する生き物なんだなと思う。
前まで毎日9時間以上寝ていた睡眠大好き人間の私が、1、2時間位しか寝なくても2日程度なら行ける身体になったし。
1、2時間しか寝てなくても、絶対飲みに行くし。

順応する生き物だから、私は“明日早いから”の理由で飲みを断る芸人にはなりたくないし、なれないなと思う。

連載納言・薄幸の酔いどれコラムは、毎月1回の更新予定です。

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薄幸(納言)

(すすき・みゆき)お笑い芸人。1993年生まれ、千葉県出身。安部紀克との男女コンビ「納言」のメンバー。「三茶の女は返事が小せえな」「渋谷はもうバイオハザードみてえな街だな」など“街ディス”ネタが人気のコンビ。バラエティでは薄幸のヘビースモーカーっぷりや大酒飲みのやさぐれキャラクターにも注目が集まって..

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