東京ゲームショウで“当たり屋役”をする芸人のキャスティング


『勇者ああああ』芸人キャスティング会議

文=板川侑右 編集=鈴木 梢


東京ゲームショウ2017。「さあ、現実を超えた体験へ。」というキャッチコピーで開催され、4日間の総来場者数は25万4311人(公式調べ)。この日本を代表するゲーム見本市イベントのビジネスデイに、テレビ東京『勇者ああああ』の板川侑右プロデューサーは訪れていた。

目的はふたつ。「オフィシャルサポーターに就任したアルコ&ピースの密着」と、e-Sports Xステージで行われた『勇者ああああ』presents「すごいゲーマーさん達とスーパーハンデマッチ」の公開収録。今回は忘れられないふたつの思い出と、今や番組に欠かせなくなったとある芸人との出会いを振り返る。

東京ゲームショウ2017、地獄のようなオープニングセレモニー

これまで放送した中で「一番好きな企画はなんですか?」と聞かれると、思い出深いものがありすぎて一番を決めるのは難しい。しかし「一番好きなVTRはなんですか?」と聞かれたら僕は即答できる。それは今を遡ること2年半、地獄のようなオープニングセレモニーで幕を開けた東京ゲームショウ2017である。

訪れた目的は、「オフィシャルサポーターに就任したアルコ&ピースの密着」のため。発売前のゲームや最新のVR技術の取材に来た記者たちに混ざって、僕だけがただひとり『お笑いポポロ』のライターのようなスタンスでオープニングセレモニーの最前列に陣取っていた。

「それでは皆さまお待たせしました。オフィシャルサポーターに就任いたしましたアルコ&ピースさんにご挨拶していただきます。まずは平子祐希さんです」

司会の女性に呼び込まれ登壇する平子さん。コンビではなくまさかのピンでの挨拶。ちょっとだけ嫌な予感がした。朴訥とした語り口で挨拶は始まった。

「自分は小学生のころゲームを買ってもらえず、友だちとファミコンをしても自分にコントローラーは回って来ませんでした」

オープニングセレモニーにしては暗めのエピソード。しかも若干キャラを乗っけている。ここが有楽町か赤坂だったらそれも“平子り”(※)としていじってもらえるだろうがここは千葉県・幕張メッセである。そのノリが分かっているのは最前列にいるおわライターな僕ひとりだけだ。

平子る
平子がサラッと痛いことを言ったり突然キャラに入り込んでわかりにくいたとえをひたすら繰り返すこと。

人工海岸から見る幕張の海のような凪状態で終わった平子さんの挨拶が終わり、今度は酒井さんの出番である。

「僕が『東京ゲーム!』って言います、皆さんは『ショウ!』で返してください。みんなで盛り上げていきましょう!」

会場全体に漂う「そういうノリじゃねえんだよな」感。幕張メッセの隣にあるイオンモール幕張新都心の営業だったらそれで何とかなったかもしれないが、ゲーム界を代表するビッグイベントを乗り切るのにはあまりに無策。心優しい数名のギャラリーが「ショウ……」とは言ってくれたものの、特に盛りあがることもなく挨拶は終了、オープニングセレモニーは幕を閉じた。

ゲーム芸人としてプチブレイク中のチンピラが初登場

アルコ&ピースには苦い思い出となったこの東京ゲームショウ2017であるが、『勇者ああああ』という番組にとってはあるひとりの準レギュラーと出会うきっかけになった大事な場でもあった。その人物とは、ペンギンズのノブオ。RPGの知識量では他を圧倒する新世代のゲーム芸人で、番組内でもプレゼン企画「ゲーマーの異常な愛情」をはじめとする情報系企画にはなくてはならない存在である。このノブオの番組初登場回が「東京ゲームショウ2017」で行われた公開収録イベントであることを知る人はあまり多くない。

2017年9月24日の一般公開日、幕張メッセに設けられたe-Sports Xステージの舞台上では『勇者ああああ』presents「すごいゲーマーさん達とスーパーハンデマッチ」の準備が着々と進められていた。e-Sportsと名前に冠された大舞台、ゲーム番組として恥ずかしくない試合を来場者にお見せしたいとスタッフが考えたのが次の3試合である。

①車は急に止まれない!当たり屋に気をつけろマッチ
ドライビングシミュレーター『グランツーリスモSPORT』のプレイ中に当たり屋のチンピラが因縁をつけてくる。

②にわかサポーター大集結!六本木スポーツバーパリピ女マッチ
サッカーゲーム『ウイニングイレブン』のプレイ中にW杯のときだけ大騒ぎするにわか女サポーターが雑に絡んでくる。

③心を鬼にできるか!ワケあり少年が隣で見てるマッチ
「『ストリートファイターV』でアルコ&ピースチームが勝ったら手術を受ける」と約束した病気の少年がずっとプロゲーマーにプレッシャーをかけてくる 。

e-Sportsという言葉を拡大解釈したお笑いゲーム対決3番勝負。その中の当たり屋役としてブッキングされたのが、何を隠そう「チンピラ漫才」で当時注目をされ始めていたペンギンズであった。ただこの当たり屋役、ペンギンズにオファーする気は当初まったくなかった。

(左)アニキ(吉間 洋平 きちま・ようへい) 1977年7月12日生まれ、埼玉県出身。
(右)ノブオ(ナオ)1985年3月6日生まれ、埼玉県出身。

そもそも会議の段階では、「バイクが急に飛び出してくる」というフリでバイク川崎バイクが登場するパターンや「猛獣が道に飛び出してくる」というフリで大西ライオンが登場するパターンを想定していたのだが、両者とも営業が入っており最終的にペンギンズに落ち着いたというかなりの「棚ぼたキャスティング」だったわけである。

本番直前、大部屋の控室へ向かうとそこにいたのはテレビで見たままの強面アニキとメガネをかけた気の弱そうな若手マネージャー、そして立派な髭を貯えた中年ベテランマネージャーの3名。ノブオがいないことを不思議に思ったが、時間もないので打ち合わせを始めるとメガネマネージャーが丁寧な口調でしゃべり出した。

「アニキがケガしたっていう体(てい)で僕が因縁つけて……そこから漫才に入るみたいな感じで大丈夫ですかね?」

「お前がノブオなんかい」僕は思わずつっこんだ。アロハで「アニキ〜!」と叫ぶ姿しか見たことがなかったので、そのイメージとのギャップに僕はとても驚かされた。ちなみにどうでもいい話だが、僕がマネージャーだと思っていた髭の中年男性も谷村新司モノマネでおなじみの谷村仁司さんだった。キャラ芸人とモノマネ芸人を衣装・メイクなしで判別するのは相当難しい。

結論から言うと綿密な打ち合わせも空しくこの日ペンギンズは、アニキ自ら「あんなにすべったことはない」と後に公言するほど大いにすべった。他のブースの音がガンガン漏れてくる会場で漫才が聞き取りづらく、そもそもネタがウケるようなステージではなかったことがその要因である。「申し訳ないことをしちゃったな」とその様子を見ながら僕は反省した。イベント終了後にペンギンズが肩を落として帰るなか、今度は本物のマネージャーが僕に声をかけてきた。

「ウチのノブオ、ゲーム詳しいんで何かあったらお願いします」

その言葉を信じてノブオをゲームプレゼン企画「ゲーマーの異常な愛情」にキャスティングしたのは公開収録からおよそ半年後のことであった。もちろんそこには「あの日、すべらせちゃってすいませんでした」というスタッフからのメッセージも込められていた。ただその結果として今ではゲーム芸人としてプチブレイクしているのだからたまにはすべってみるもんである。

オープニングセレモニーですべったコンビと公開収録ですべったコンビ。毎年東京ゲームショウの話題が出るたびに僕はこのふたつのエピソードをいつも思い出す。


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