星野源は「相手の魅力を引き出す化物」だと改めて感じる『Two Voice』

2022.9.9
星野源twovoice

文=かんそう 編集=鈴木 梢


星野源が自身のYouTubeチャンネルで6月にスタートした音楽番組『Two Voice』をご存じだろうか。

毎月ひとりゲストを招いて、ふたりきりの空間で音楽について自由に語り合うという番組なのだが、この番組で星野源という男の魅力を改めて思い知らされ、うらやましさと悔しさで少し泣いた。

現在までに第3弾まで(Season1が完結)配信されており、第1弾は星野源の楽曲やライブでサポートを務めるギタリストの長岡亮介、第2弾はハライチの澤部佑、第3弾は俳優・歌手の上白石萌音と、多種多様なゲストが出演している。


星野源の敬意のかたち

この番組に限らず、ラジオ『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)を聴いていても思うことだが、星野源はつくづく「相手の魅力を引き出す化物」だと思った。相手とコミュニケーションを取るときに重要なのは「相手に敬意を払う」こと、それに関していえば星野源は誰に対しても真摯に相手のよさやおもしろさを見つけ、敬意を払って接しているのが伝わってくる。

そして、星野源が他人のこと以上に「自分のことを話している」のがとても印象的で、自分の腹の中をかっぴらいて「開示」し「ここまで話していいんだよ」という指針を作ることで、相手の腹も開けさせる。この空気を作るのがあまりにもうま過ぎる。

たとえば、第1弾では星野源が「たまになんか『あいつ嫌だよね』みたいな話するじゃない」とアズスーンアズで爆弾を放り投げ、長岡から「大丈夫なのか?」と言われながらも「大丈夫大丈夫、名前言わなきゃ。『ピー』も入れられるし。嫌な理由が明確にあるじゃん。ただ気に入らないとかじゃなくて『これが自分には違うと思うんだ』って言う。でもなんかその世間の中では割と一色になってたりとかして、同じ様なカテゴリーに入れられたりする時もあるけど、違うよね?って話をしたりとか。それがこう…ただの悪口になるんじゃなくて、確認っていうか」といった話をし、「ここまで話しても大丈夫」と自ら線を引くことで相手にもそれを示し、最終的には今の音楽に対しての想いから音楽家、俳優という職業の話にまで発展させていった。

第2弾では、無類の音楽好き芸人として知られる澤部佑の、ほかの番組では出すことのないコアな部分を引き出しつつ、出身地が埼玉県という共通点から「埼玉県人はみんなWOWOWに加入する」といった謎のあるある、個室ビデオから下積み時代、エロの原体験の話まで、初対面同士とは思えないほどの親和性を見せ、第3弾では、上白石萌音が好きな星野源の楽曲は「バイト」だと告白し、テレビで見せる姿とは真反対の印象を早々に引き出しながら、彼女の持つ唯一無二の純粋性に触れていった。

「番組」というテイでカメラを回してはいるが、星野源とゲストの話す姿はどこまでも自然体。時間や話すテーマがカッチリと決まっている普通の音楽番組と違い「何を話す」かがいい意味でほとんど決まっておらず、他愛ない雑談から会話が展開していくので、まるで楽屋をのぞき見しているかのような錯覚に陥った。BGMで流れている星野源の楽曲のインストゥルメンタルも、CM的に挟まれるニセ明の小休止コーナーもヨダレを垂らすほど心地いい。「究極のリラックス空間」がそこに生成されていた。

season2で対談してほしい人物

season1は終了したが、season2もさらなる多彩なゲストと音楽談義、いや人間対人間の人生談義を繰り広げてほしい。個人的に対談が一番観たい人物は、ラジオ番組が裏でモロ被りしている爆笑問題の太田光だ。両方のリスナーとして、ふたりの物事に対する考え方やカルチャーの趣味は非常に近いものがあると感じていた。

最近では互いの番組を通してラジオリプライを送り合っており、2021年6月1日放送の『星野源のオールナイトニッポン』では爆笑問題のことが大好きで『ニッポンの教養』(NHK)を楽しみに観ていたと言い、太田光のことを「ほかの人にはない切なさを持っている人」と評していた。それに対し太田光は、2021年6月8日放送の『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)で「埼玉出身で阿佐ヶ谷に住んでたってことはほぼ俺。ということはお前(田中)はほとんどガッキー」と返すなど、言葉では言い表せない奇妙な関係性が構築されている。

このふたりが6年の時を経て邂逅したとき、どうなるのか想像するだけで動悸が止まらない。ぜひ裏番組を超えていってほしい。


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