360度の大迫力映像エリア、お面の配布、アーティスト発掘企画。なぜマンガ展は急速に多様化しているのか
ここ10年の間にすっかり当たり前となった“マンガ展”。特に、昨年末から今年の上半期にかけては『鋼の錬金術師展 RETURNS』『BLEACH EX.』『TOKYO 卍 REVENGERSEXHIBITION』『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』『ブルーピリオド展~アートって、才能か?~』など、新旧問わずヒットタイトルのマンガ展の開催がつづいた。
現在のマンガ展は原画や秘蔵の設定資料の展示だけにあらず……。そんな、急速に多様化していくマンガ展の現在地について紐解いていきたい。
目次
原作を追体験するような展示構成
マンガ展の目玉といえば、間違いなく原画の展示だろう。原画ならではの迫力、その筆致から感じる作者の想いや息遣いは、マンガ展でしか感じることのできない極上の体験だ。また、原画と共に掲示されている秘蔵資料や作者コメントは、そのシーンに新しい視点や気づきを与えてくれる。そんなところも原作ファンにとってはたまらない。その展示順にも各マンガ展でこだわりと進化が見られる。
『鋼の錬金術師展 RETURNS』『TOKYO 卍 REVENGERS EXHIBITION』『ブルーピリオド展~アートって、才能か?~』では、まるで原作を読み返しているかのように、1話から順番に原画が並び、物語はもちろん、連載の歩みが堪能できるようになっている。
一方で、『BLEACH EX.』や『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』では、主要キャラクターの人物像、それぞれを象徴するシーンをメインに原画が並ぶ。コアなファンはもちろん、最近読み始めた新規ファンまで幅広く楽しめるような構成となっている。
共通するのは、原作を追体験するような展示構成だという点だが、それが物語なのか、キャラクターなのか、はたまた印象的なシーンなのか……。どの角度から追体験するのか各マンガ展によって色が出ているように感じる。
豪華フォトスポット、全身で作品を堪能できる映像エリアも
SNSの普及に伴い、自分が楽しかった体験はすぐにシェア、という流れが当たり前となった。マンガファンにとっては、マンガ展は当然SNSでシェアしたい体験のひとつだ。
だが、そもそも原画や設定資料の写真撮影がNGであるケースや、たとえ撮影がOKだったとしても、これから来場する人へのネタバレを配慮するなど、SNSでシェアしたくてもできないことが多い。そんなファンの悩みを汲み取ったのかのように、SNSにシェアしやすい、いや明らかにSNSシェア用に設置されたフォトスポットの存在が目立つ。
キャラクターの等身大パネルや、作中のワンシーンを再現したフォトスポットなどは今までも多く見受けられたが、特に『TOKYO 卍 REVENGERS EXHIBITION』はフォトスポットの作り込みが凄まじかった。人気キャラクターのマイキーこと佐野万次郎と自転車でふたり乗り、そして昨年日本中を席巻した「日和ってる奴いる? いねえよなぁ!!?」の名言が誕生した決起集会の再現、さらには原作とは関係なくこの展示会のために作られた巨大な黄金マイキーなど、これでもかというほどバラエティに富んだフォトスポットが設置されていた。
さらに、昨今のマンガ展を語る上で欠かせないのは、映像技術の進化に伴い、臨場感が増していく映像エリアの存在だろう。特定のシーンを大画面、または空間を360度使用して映像で再現したこのエリアは、視覚はもちろん、聴覚にまで訴えてくる圧倒的な没入感によって、全身で作品を堪能できるところが魅力だ。
マンガシーンにおけるファン文化・ファンダムの変化を反映
『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』では、該当日付に配付されたキャラクターのお面を着けて鑑賞できる回が設けられている。
SNSでは、お面を着けて鑑賞を楽しむだけでなく、その後『ゴールデンカムイ』とゆかりのあるアイヌ料理やジビエを堪能できる飲食店へと足を運び、展示を楽しんだ仲間たちとお面を被りながら食事を楽しむ写真が数多く見受けられた。それはまるで、アイドルやアーティストのライブ後にファン同士で現地で盛り上がる様子と似ていた。
従来、マンガは自分でじっくりと読んで楽しんで完結する“個”のエンタメだったように思う。だが、最近では個ではなく同じファン同士で共に楽しむといったファン文化が、マンガシーンにおいても定着してきており、そんな風潮が『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』のようなマンガ展の登場によってより表面化してきているように感じる。
リアルな体験を求める、ファン同士でつながり合うことで楽しみを増幅させる。近年さまざまなカルチャーシーンにおいて見受けられる、このようなファン活動やファンダムの傾向を各マンガ展がうまく企画に反映させていることが、ヒットタイトルのマンガ展がつづいている理由に結びついていると推測できる。
ここ近年のマンガ展の隆盛には、まず作品の原画や複製原画、秘蔵の設定資料の展示といったマンガ展の構成がある種フォーマット化され、横展しやすくなったという背景もあるだろう。しかし同時に、そのフォーマットに甘んじることなく、各マンガ展が最新技術を駆使しながら世相やファン心を掴み独自の進化を遂げていくことにより、熱狂的なマンガファンのみならずごく一般的なイベントとして大衆に受け入れられるほど急成長を遂げ、市場を拡大している現状があるのではないだろうか。
『ブルーピリオド展~アートって、才能か?~』の驚くべき画期性
作品の数だけ多様化していくマンガ展。最後に、現在東京・天王洲で開催中の『ブルーピリオド展~アートって、才能か?~』が見せた、マンガ展の最先端にして現在地を紹介したい。
実は、冒頭で挙げた5つのマンガ展の中では、一番原画の展示数が少ない本展示。また、『ブルーピリオド』の作中には多くの美術作品が登場し、それらが実在するアーティストや学生によって描かれていることから、実物の絵画が約50点も展示されている。マンガ展だけに留まらず、アート展としての一面を持つ展示となっている。
まったく初心者ながら美術の世界に足を踏み入れた主人公・矢口八虎。原作では、美術作品の理解に頭を悩ませる八虎を、美術予備校の同級生・橋⽥悠が作品の楽しみ方を説く。本展示では、そのシーンを実際に再現したかのような名画解説のブースが設置されており、もしも美術初心者ならば、八虎のように徐々に美術の楽しさに目覚めていく心情の変化を体感できる。
ほかにも藝大受験を完全再現した圧巻の展示スペースなど、見どころを挙げたらキリがないが、やっぱり特筆すべきは、本展示が『ブルーピリオド』そのものだったという点だ。
「あの人のブルーピリオド」と題した展示では、会田誠さんをはじめとする国内外で活躍するアーティスト6名の予備校時代や若かりしころの作品が登場する。また、美術の道を志す若手アーティストを紹介・発掘するプロジェクトの一環として、作中に登場した課題をテーマに制作された作品を展示。さらに、それらの作品はアート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker」にて販売され、購入することで若手アーティストたちを支援・応援へと繋がる。
原作のタイトルにもなっている『ブルーピリオド』とは、もともと芸術家・ピカソの20代前半の画風を指し、そこから派生し“孤独で不安な青年期”という意味を持つ。現在活躍中のアーティストたちの“ブルーピリオド時代”、そして八虎のようにもがく若手アーティストたちにスポットを当てた本展示は、原作の根幹にあるメッセージをすくい取り、リアルで再現した唯一無二のマンガ展だったように感じる。
これからも多様化し、変化を遂げいくであろうマンガ展。ぜひ構成や展示の一つひとつに込められた想いやメッセージに注目してみてはいかがだろうか。
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『BLEACH EX.』
【秋田会場】
開催期間:2022年7月9日(土)~9月25日(日)
会場:横手市増田まんが美術館 1階コンベンションホール
入場料:大人1,000円/高校生700円/中学生500円/小学生300円/未就学児無料関連リンク
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『ブルーピリオド展~アートって、才能か?~』
開催期間:2022年6月18日(土)~9月27日(火)
場所:寺田倉庫G1ビル
入場料:一般2,000円/高校生・大学生1,400円/小学生・中学生900円関連リンク
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『TOKYO 卍 REVENGERS EXHIBITION』
【仙台会場】
開催期間:2022年7月30日(土)~8月28日(日)
場所:TFUギャラリーミニモリ 東北福祉大学仙台駅東口キャンパス【福岡会場】
開催期間:2022年9月14日(水)~9月25日(日)
場所:博多阪急8階催場【金沢会場】
開催期間:2022年10月6日(木)~10月28日(金)
場所:金沢エムザ8階催事場【札幌会場】
開催期間:2022年11月3日(木・祝)~11月27日(日)
場所:サッポロファクトリー3条館3階特設会場入場料:大人1,500円/中高校生1,300円/小学生1,100円/未就学児無料
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