【ハリポタから21年】32歳のラドクリフ、難病と苦悩を経て“報われる”日は近い?

2022.6.25
ダニエル・ラドクリフ

トップ画像=『ホーンズ 容疑者と告白の角』より
文=バフィー吉川 編集=菅原史稀


6月24日に劇場公開された、サンドラ・ブロック主演映画『ザ・ロストシティ』。サンドラに加え、チャニング・テイタムやブラッド・ピットなどがクセの強いキャラクターを演じる中、かなり“情緒不安定”な悪役を演じているのが、ダニエル・ラドクリフだ。彼の近年の出演作品を観ても、奇抜な役が多い気がしてならない。

なぜそんなことになっているのだろうか。改めてラドクリフという役者を掘り下げることで、その答えは見えてくるかもしれない。

あまりに強過ぎる『ハリー・ポッター』のイメージ

ダニエル・ラドクリフという名を聞くと、誰もがハリー・ポッターを想像するだろう。ここまで有名な役柄を演じるということは、役者としては強みと感じられるかもしれないが、同時にノイズになり得る要素でもある。

チャールズ・ディケンズ原作のBBCミニドラマ『デビッド・コパーフィールド』(1999)で主人公の子供時代を演じたあと、すぐにハリー・ポッター役が決まったため、ほとんど役者としてのイメージは定着しないまま、大き過ぎる役を演じることになったラドクリフ。『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)の主役に抜擢されたイライジャ・ウッドのように、もともと『危険な遊び』(1993)や『パラサイト』(1998)などで、ある程度キャリアが形成されていた俳優が演じるのとは違い、ほとんど白紙状態の俳優でかつ子役なら、そのイメージが定着するのは早かった。

2001年に日本公開された映画『ハリー・ポッターと賢者の石』(公開当時12歳)

しかも『ハリー・ポッター』シリーズは、2001年から10年にわたり全8作が製作された。当初は途中でキャストを一新するという構想もあったそうだが、結局はオリジナルキャストのまま完走。一作目の時点で12歳だったラドクリフは、シリーズ終了を迎えた2011年には22歳になっており、またこのような大作の撮影期間は通常の映画とは違って拘束時間も長く、世界中で大規模なプロモーション活動も継続して行われていた。

そんな状態で、『ハリー・ポッター』とは別の作品に出演することは困難だっただろう。『ハリー・ポッター』シリーズがつづいた10年間でラドクリフが演じた役は、テレビ映画『ダニエル・ラドクリフの マイ・ボーイ・ジャック』(2007)と『ディセンバー・ボーイズ』(2007)のみ。しかもこの時期の彼は、舞台『エクウス』で全裸演技に挑戦したり、本人自身がアルコール依存症に悩まされていた時期と重なることから、ストレスや役者としての方向性に対する葛藤が窺える。『ハリー・ポッター』製作サイドも、もともとは途中でキャストを一新する意向を示していただけに、結局シリーズの最後まで演じることになったラドクリフは、予定が狂ってしまった部分があったのだろう。

2011年に日本公開されたシリーズ第8作目『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(公開当時21歳)

2000年代は『エラゴン』『ナルニア国物語』『スパイダーウィックの謎』『ライラの冒険 黄金の羅針盤』『ダレン・シャン』などのファンタジー作品が立てつづけに映画化されたが、ほとんどが興行的には失敗に終わっている。そんななか『ハリー・ポッター』シリーズが完走できたのは、ラドクリフ含めエマ・ワトソンやルパート・グリントら子役陣の功績も大きい。

世間が投げかける期待、病の発症……苦難に満ちた役者人生

『ハリー・ポッター』シリーズ終了後の2012年、アメリカのコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』に出演した際のラドクリフが、世界中で話題となった。なんとその番組で、ストレスによって薄毛になってしまったハリー・ポッターを演じるという自虐ネタを披露したのだ。これに対する世間の反応は肯定的なものもあったものの、ラドクリフを非難する『ハリー・ポッター』ファンも多かった。

しかしこの自虐ネタは単なる悪ふざけではなく、ラドクリフにとって「覚悟」と「決別」であったに違いない。それを裏づけるかのように、ラドクリフは『サタデー・ナイト・ライブ』出演を皮切りに、社会派作品から、ホラーやコメディ、ラブストーリーと、あえて自身のイメージに逆行する役を、手当たり次第に演じていた。

『ホーンズ 容疑者と告白の角』(c)2014 The Horns Project, Inc. All Rights Reserved.

また、2012年から発症したという突発性群発頭痛の症状に悩まされていたことは、役者としての再起をじゃまするような出来事だったにもかかわらず、役者の道をひたむきに突き進んでいる。出演のほか製作にも参加しているドラマ『Miracle Workers』(2019)でのコミカルな演技は好評であるし、『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』(2020)での緊迫感あふれる演技を見ても、実力派な役者であることは明らかだ。

しかし、いくら忘れようとしても、意識しないようにしても、『ハリー・ポッター』はどこにでもある。グッズはいまだに世界中で販売されているし、ユニバーサル・スタジオに行っても、“子供の頃の”ラドクリフの写真がいっぱいだ。J・K・ローリングの新刊が出るたび、『ファンタスティック・ビースト』シリーズが公開されるたび、マスコミはラドクリフを追いかける。

『ハリポタ』20周年を迎え、ラドクリフが見せた変革の兆し

ハリー・ポッター役のイメージによって役者としてのあり方に悩まされてきたラドクリフではあるが、この作品があったおかげで現在の自分が存在していることを実感してきているのも、事実のようだ。

『ザ・ロストシティ』(c)2022 Paramount Pictures. All rights reserved.

ドキュメンタリー『ハリー・ポッター20周年記念:リターン・トゥ・ホグワーツ』(2022)に出演したことは、これまで『ハリー・ポッター』のファンサービス的な番組やイベントで姿を見せようとしてこなかった彼にとって、大きな分岐点といえる。ここでラドクリフ同様『ハリー・ポッター』という大き過ぎる存在に悩まされてきた仲間でもある、ロン・ウィーズリー役のルパート・グリントやハーマイオニー・グレンジャー役のエマ・ワトソンらと顔を合わせ、シリーズについて語り合うその姿からは、役者としてひと皮むけた印象が感じられた。

「MTV ビデオミュージックアワード」や「ティーン・チョイス・アワード」のように、若者向けのポップな映画賞では評価されつつも、アカデミー賞やゴールデングローブ賞とは今のところ無縁とされてきているラドクリフ。

イメージやスキャンダルばかりネタにされ、社会に対するメッセージや役者としての力量には誰も触れてくれなかった、という主張はジェニファー・ロペスも口にしていたことだが、それでも彼女は2019年の『ハスラーズ』でゴールデングローブ賞にノミネートされ、その価値を証明した。32歳になったラドクリフも、役者をつづけていれば、必ず報われるほどの演技力を持った俳優であることは間違いないだろう。ラドクリフが見せる今後の活躍に期待したいし、いつか大きな映画賞を獲得する姿を見たいと思う。

作品情報

『ホーンズ 容疑者と告白の角』

(c)2014 The Horns Project, Inc. All Rights Reserved.

2015年5月9日公開 DVD発売中
監督:アレクサンドル・アジャ
原作:ジョー・ヒル
脚本:キース・ブーニン
製作総指揮:ジョー・ヒル、ショーン・ウィリアムソン、アダム・ストーン、ジョー・ガッタ、クリスチャン・マーキュリー、ダニー・ディムボート
出演:ダニエル・ラドクリフ、マックス・ミンゲラ、ジョー・アンダーソン、ジュノー・テンプル
配給:ショウゲート
(c)2014 The Horns Project, Inc. All Rights Reserved.

『ザ・ロストシティ』

(c)2022 Paramount Pictures. All rights reserved.

6月24日(金)全国ロードショー
監督:アダム・ニー&アーロン・ニー
脚本:アダム・ニー&アーロン・ニー、オーレン・ウジエル、デイナ・フォックス
出演:サンドラ・ブロック、チャニング・テイタム、ダニエル・ラドクリフ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ブラッド・ピットほか
(c)2022 Paramount Pictures. All rights reserved.

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