映画『カモン カモン』“ちゃんとした子供”になり損ねた大人たちのレッスン
映画『ジョーカー』(2019)で狂気の男・アーサーを演じたホアキン・フェニックスが、マイク・ミルズ監督・脚本の『カモン カモン』で主演した。独身生活を謳歌していた主人公と9歳の甥っ子との数日間の共同生活をモノクロ映像で映し出す。これはいわば親、そして大人になる「練習」を描いた物語である。
子供との思いがけない経験を想起させる本作をレビューする。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.160に掲載のコラムを再構成し転載したものです。
胸を打たれる子供たちの感受性
その昔、「子供交換」を3日ほど体験したことがある。自分の息子が小学生時代、お世話になっていた学童保育主催のキャンプ大会での話だ。
当然、現地では班に分かれて行動するのだが、親と子は別々のグループになるというルール。従って、よその家のお子さんを5、6人、責任をもって預からなければならない。我が子でも手が掛かって大変なところを、気心の通じない“他者”が四六時中、目の前にいるのだ。最初はもう、勝手がわからずに、てんてこ舞い。と共に、「うちの息子も皆さんに、さぞかしご迷惑をかけているのでは……」と気になって仕方なかった。
しかし、共同生活の2日目あたりから、この“交換ゲーム”が少し面白くなってきた。それぞれに個性があり、関わっていくうちに「親であること」の練習をさせてもらっているような感じもした。だいたいこれは、子供たちの目線からだと「親交換」のゲームなのであって、言葉には出していないものの、接した大人を直観で一人ひとり、査定していたはず。今から考えてもあの数日間というのは、なかなか得難い経験であった。
なぜこんな過去を振り返ったのかといえば、マイク・ミルズ監督の新作『カモン カモン』を観たからである。ホアキン・フェニックスが扮するのは、インタビューでさまざまな子供のナマの声を集めているラジオジャーナリスト、独り身でNYを拠点にし、米国中を飛び回る日々だ。が、妹がやんごとなき事情で家を留守にする数日間、9歳の甥(英国出身の子役ウディ・ノーマン)を引き取ることに──。
すぐに想起したのは(マイク・ミルズ本人も影響を認める)監督ヴィム・ヴェンダースの傑作ロードムービー『都会のアリス』(74)。モノクロ映像であるところも似ている。そもそもはミルズが2012年に父親になり、身辺の出来事を見つめていったのが発想の源。それにしてもウディ君演じる甥っ子をはじめ、登場する子供たちの瑞々しさには心底打たれる。あんな感受性を長じて失ってしまうなんて、きっと大人になったり、親になる“練習”の過程で、なにか決定的に間違ってしまったのだ! 自戒を含めて記そう。ぜひとも、一人前の大人になった(と思い込んでいる)方々も本作を鑑賞し、そして胸に手を当ててみてほしい。
「おとなはみんな、だれしも、かつてこどもだった。それを覚えているのは、ほんのひと握りだけ。」(サン・テグジュペリ『星の王子さま』)
映画を観終えてグッと、この有名な一節を、噛み締めた。
【関連】『ドライブ・マイ・カー』が米アカデミー賞で快進撃。濱口竜介を紐解く3つのキーワードと「新しい監督像」
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『カモン カモン』
監督:マイク・ミルズ
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマンほか
配給:ハピネットファントム・スタジオ
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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