ハライチ、アルコ&ピースは何を話していたのか?【芸人ラジオの初回放送を振り返る②】

ハライチ、アルコ&ピースは何を話していたのか?【芸人ラジオの初回放送を振り返る②】

文=村上謙三久 編集=森田真規


ラジオは流れ去っていくもの、という考え方がある。その時間に、そのパーソナリティが、そのブースから放送することに価値があって、終了後はすべてが流れ去り、翌週(翌日)になると新たな放送がおもしろさを上書きしていく。この考え方もラジオの魅力を表している。

今でこそradikoが生まれ、タイムフリー機能もエリアフリー機能もあるが、それでもラジオはテレビのように再放送されることなく、ソフト化もされず、アーカイブの配信もまだまだ少ない。リスナーの記憶には思い出として蓄積されるにしても、上書きされる新しい放送を追っていくのに夢中で、過去の放送を何度も聴き直しているのは、一部の“ラジオ変態”ぐらいである。

しかし、「点」の連続ではなく、「線」としてラジオ番組を改めて振り返ると、そこには興味深い発見がある。春は新番組が始まる季節。そんなタイミングで、特に芸人ラジオの初回放送を紐解いてみたい。番組サイドやヘビーリスナーからすると、過去を掘り返すのは無粋に思われるかもしれないが、そこはラジオ変態の“自分磨き”だとして目をつぶっていただきたい。

後編では、ハライチの初のレギュラーラジオ『デブッタンテ』(TBSラジオ)、『アルコ&ピースのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)という、現在は別の番組で人気を得ている2組の初回放送を取り上げる。

『デブッタンテ』ハライチ岩井のコントラバスの話

変化を感じさせるだけでなく、パーソナリティとして大きなインパクトを生み出すのも初回の魅力である。いきなり今につづく確かな爪あとを残したのは、ハライチの岩井勇気だ。

現在はTBSラジオで『ハライチのターン!』を放送しているが、ハライチにとって初のレギュラーラジオはその前身にあたる2014年4月スタートの『デブッタンテ』。土曜日の深夜27時からの1時間番組で、うしろシティと分割して担当。初回は両コンビのクロストークから始まり、前半をハライチが受け持った。

改めて聴き直すと、この時点でハライチのトーク力は抜群で、レギュラー未経験とは思えない安定感を発揮している。今と遜色なく、聴いていて心地いい。相方の澤部佑がすでに個人として活躍していた一方、岩井のおもしろさはまだ世間に気づかれておらず、いわゆる「じゃない方芸人」と目されていた。

初回のフリートークでも、澤部は個人としてレギュラー出演していた『笑っていいとも!』の最終回、そしてグランドフィナーレの裏側を熱っぽく語っている。大物芸人たちが一堂に会したテレビ史に残る一大イベントの裏話は、ほかの番組でも多く語られたまさに芸人ラジオらしい花形のトークだった。しかし、岩井は生で観賞せず、「増税前だったから、ガソリンを給油して消費しないと、と思って、夜にドライブに行ってた」と告白して澤部を驚かせた。

そのあとに始まった岩井のフリートークを私は生で聴いたが、そのときの興奮が鮮烈に残っている。簡単に説明すれば、「電車に乗っていたら、隣の車両で大きな鈍い音がした。どうやら人が倒れたらしい。近くにいた酔っ払いが『起こしたらダメだ』『車掌を呼んでこい』などと騒いでいるが、まわりの人間は反応しない。よく見てみたら、倒れたのは人ではなくコントラバスだった」という内容なのだが、この文章だけではもちろんこのトークのおもしろさはまったく伝わらない。いくら文字数を使っても、私の文章力では不可能だろう。

岩井らしいシニカルな視点や語り口、予想外の方向に二転三転する見事な構成力、澤部による抜群な合いの手もあって、まるで怪談話か、古典落語か、はたまた不可思議なショートショートを読んだあとのような余韻を残した。

のちに『新お笑いラジオの時間』で岩井を取材したときに「あのトークをするのは超怖かったですけどね。反応が読めないじゃないですか」「無難な話がもう1個あって、どっちを話そうか迷ったんですけど、どうしても僕ってギャンブルをするほうを選んじゃうんですよ」と振り返っていたが、岩井は賭けに勝ち、ラジオリスナーの心をガッチリと掴み、絶大な信頼を得たのである。

当時のSNSでも岩井のこのトークはすこぶる反応がよく、いまだに「岩井のコントラバスの話が好き」というつぶやきは定期的に見かける。今や岩井の魅力はラジオ界のみならず、テレビ界にも伝わり、文筆業などマルチな才能を発揮しているが、『デブッタンテ』初回を聴いたリスナーからすると、「それは当然だよなあ」とすら思えてくるから不思議だ。

『アルコ&ピースのANN』一部地域に捧げられた祈り

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