“マンガでもあり得ない”を可能に変える羽生結弦の“主人公感”。「正直、すごくオリンピックが怖い」乗り越えた先にある最高の物語
2月4日に開幕した北京オリンピック。19日間にわたって行われる全15競技の中で、メダルへの期待値、競技の人気などから日本国内で最も注目されているのが、2月8日にショートプログラムが行われる男子フィギュアスケート。
さらに世界中から注目を集めているのが、6日に北京入りし、フィギュアスケート史上94年ぶりとなる五輪3連覇を目指す羽生結弦だ。ネイサン・チェン(米国)というライバルとのトップ争い、成功すれば史上初となる「4回転アクセル」への挑戦。誰もが認める主人公=羽生結弦による、“最高の物語”を期待したい。
スポーツ好きが抗えない羽生結弦の主人公感
オリンピックという大舞台で、いまだかつて人類が成功させたことがないジャンプに挑戦しようとしている選手がいる。自分のためはもとより、“みんなの夢のため”ジャンプを成功させると言い切る選手がいる。そんなことができるのも、そんなことが許されるのも、羽生結弦をおいてほかにいない。
昨年、米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平が見せたあまりにも現実離れした活躍は、「まるでマンガ」あるいは「マンガでもあり得ない」と評された。だが、マンガの主人公感といえば羽生結弦に一日の長がある。
我々と同じ人間とは思えない頭身(そういえば大谷翔平もそうだ)、誰もが認めるキラキラした王子様感、自らの世界最高得点を何度も更新する圧倒的な強さ、自分のことを絶対王者と言っちゃう感じ、自分を上回った相手に「参りました」みたいな表情とジェスチャーを見せちゃう感じ、でもその下でけっして笑っていない目、柔和な表情とは裏腹のあえて隠さない負けず嫌いな性格……。「僕が目指すのは自分」なんてセリフが羽生結弦以上に似合うアスリートは思いつかない。
達成した偉業も圧倒的なら、成し遂げ方もドラマのよう。2014年のソチ五輪でフィギュアスケート日本男子初となる金メダルを獲得し、名実共にスーパースターとなった羽生は、連覇を目指す平昌五輪の3カ月前に右足首の靱帯損傷という大ケガを負ってしまう。以降の試合はすべて欠場、代表選考を兼ねた全日本選手権にも出場できず、実績が考慮されて代表には選ばれたものの平昌はまさに“ぶっつけ本番”で臨むことになった。
そんな絶望的な、しかし世界中の視線を一身に浴びた状況で見せた「2分40秒の奇跡」と「270秒の奇跡」。本来なら跳べるような状態ではなかった右足で必死に耐えて掴んだ66年ぶりとなる五輪連覇は、まさにマンガの主人公だった。会見で羽生本人が「マンガの主人公にしてもでき過ぎなぐらい」と言っちゃうところもすごい。めちゃめちゃ自覚あんじゃねーか、と思った。
正直、羽生の主人公感や王子様感がちょっと苦手だったときもある。あまりにも完璧に演じられた羽生結弦は、ツルツルし過ぎていて現実味がなかったから。しかし、彼の見せる物語がこちらの想像を遥かに超え始めたとき、いちファンとして釘づけになっている自分がいた。つづきはどうなるんだろう。早くつづきが見たい。スポーツ好きは結局、主人公感に抗えないのだ。
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