岩井秀人×森山未來×前野健太『なむはむだはむLIVE!』“ヘンな時間が存在する”という尊さ
2021年12月から2022年1月にわたって日本映画専門チャンネルで放送される「特集 岩井秀人」。そして、12月18日のオールナイト一挙放送の最初にオンエアされるのがテレビ初放送となる『なむはむだはむLIVE!』だ。
「なむはむだはむ」とは、岩井秀人、森山未來、前野健太の3人によるユニット。これまで、ワークショップなどを通して子供たちが描く世界を基に楽曲を創ったり、『オドモTV』(Eテレ)にレギュラー出演するなどの活動を行ってきた。ここでは「特集 岩井秀人」の放送を記念して、7月10日に渋谷のライブハウス「WWW」で行われた『なむはむだはむLIVE!』のレポートをお届けする。
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【なむはむだはむ】は、岩井秀人、森山未來、前野健太によるユニットである。
その活動と表現をひと言で申し伝えるのは難しいが、子供たちが記した文章(詩や物語のようなもの)を3人の解釈で楽曲化する、と、ひとまずは言えるかもしれない。
彼らはさまざまな土地に赴き、そこで子供たちから渡された作文(というには、あまりにも謎めいている。それらは不思議な小説でもあるし、世界でただひとつの呪文でもある)に取り組む。滞在しながら。つまり、彼らが子供たちにワークショップを行うというよりは、子供たちの創作物によって彼らがワークショップを体験している、というほうが正確かもしれない。
完成した楽曲は、原作者(オリジン)たる子供とその家族の前で披露される。小規模の、極めてプライベートな形式による、返還としての発表会。その模様は、いくつかのドキュメントとして映像が遺されている。
その【なむはむだはむ】(この名称自体、ある子供が創造した「おまじない」である)のライブが、夏に行われた。渋谷のライブハウス。密を避け、観客数限定の催しではあったが、独特の解放感に満ちあふれていた。親子連れが中心で、一番若い客は生後7カ月というから、恐れ入る。のどかな行楽地で、お花見でもしているかのようなピクニック気分。そこで、彼らは初めてのライブを開催した。
頭でっかちにならずに救済されるひと時
冒頭に、楽曲と記したが、いわゆる音楽だけの範疇に留まるものではない。曲は曲なのだが、時に寸劇でもあるし、時にハプニングアートでもある。
こちらの既成概念が、破壊されるのではなく、じんわりズラされ、ゆっくり脱がされ、いつの間にか更新されていく。日常と地続きにある、ヘンな時間。なんとなく始まっているし、なんとなく終わっている。だが、寂しさはなく、うれしさとおもしろさがとぐろを巻いている。で、心地よい。
擬音と息づかいだけで構成された楽曲に象徴的だが、彼らは、形のないものを、目に見えるもの、耳に聴こえるものとして、提示する。しかし、説明はしない。楽しむ方法へも誘導しない。つまり、観念的ではなく、身体的なのだ。だから、響いてくるものがあるし、私たちの感性が、案外素直であることに、ふと気づいたりする。その安堵と、健やかな発見。
ダンサーでもある森山未來の身体表現は、岩井秀人の主戦場である演劇がもともと有している身体性とゆるやかに結びつき、それを前野健太の身体に届く歌唱が抱擁することで、私たちの脳は解き放たれ、心は自由に呼吸し、カラダで、カラダのみで反応することになる。
もちろん、笑いがたくさんある。ヘンなものに出逢ったとき、人は笑わずにはいられない。それは拒否ではなく受容だ。受け取る、寛容な精神の表れとしての笑い。健全な笑いが、客席の至るところから漏れた。時に、哲学さえ感じさせる子供原作の楽曲群は、その底にあるものが深ければ深いほど、ほどけるように笑ってしまう。爆発的な笑いではない。気がゆるむ。その発露としての笑い。頭でっかちにならずに救済されるひと時。
その一方で、「こわい!」という反応が、ちゃんと声となって、客席の子供たちから発せられたのも印象的だ。
【なむはむだはむ】の表現は、生きものの、あるいは、生命そのものの形態模写のようなところがあって、どこまでも具体的であるがゆえに、神経や感覚を揺さぶる瞬間がある。
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