伝説の魚と、幻のコント台本(ランジャタイ国崎)


お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也が、徒然なるままにコラムを執筆。本連載での名義は「ふっとう茶そそぐ子ちゃん」です。

第5回は、ある人物とのささやかな思い出話。

「大」の大人が見つけた、本物のダチ

東京に来て、大変お世話になった人を書こうと思います。

『能美次郎』さんという芸人で

住んでいるところが近所ということもあり、

休みの日は、ジローさんとメシに行くことが日課になった。

それから数年後、

ジローさんが、芸人を引退することになった。

「でもまあ近所だからなあ、いつでも会えるか」

そう思いながら、

『能美次郎ラストライブ』という、

ジローさんの引退ライブを観に行った。

ネタもよかったが、

エンディングのときに

ジローさんの「元相方」さんが駆けつけてくれて、

「ジローさん、お疲れ様!

もうすぐ誕生日でしょう?、、これ!」

と、誕生日ケーキを持ってきてくれた。

ジローさんはビックリして、

「うわー何?!うれし〜!!ケーキ?!」

と、はしゃいでいると

ケーキを運んでいる途中で、ケーキにささっているロウソクの火が消えてしまう。

すると、ジローさんが

「せっかくだから、もう一度火をつけてもらえる?」

と、

一度ケーキを袖に引っ込めた。

最後のライブ。誕生日ケーキに、火をつけて終わりたい。

そして、しばらくしてケーキが運ばれてきたが

なんと、また途中でロウソクの火が、消えてしまった。

「せっかくだから、もう一度、つけてもらえる?」

再び、袖に運ばれていく誕生日ケーキ。

そして、ケーキがやってくるが

またもや火が消えてしまう。

「せっかくだから、、もう一度、つけてもらえる?」

ジローさんなりに、こだわりがある。

「もう一度、せっかくだからつけてもらえる?」

絶対に火をつけたい。

そのあと、何度も、何度も

ロウソクの火が消えて、

何度も運ばれてくる誕生日ケーキ。

そのたびに、

「うわあ、何、何〜?!」

と、はじめて見たかのようにリアクションして驚き、

ロウソクの火が消えたとたん、

「、、せっかくだから、もう一度、つけてもらえる?」

と、袖にケーキを引っ込める。

これが、ふざけ半分ではなく

本気でやってるから、おかしくて仕方なかった。

その日、ジローさんは芸人を引退して

「芸人の先輩」から、

「近所の気のいい兄ちゃん」になった。

当時、お金がないことや、家にお風呂がない自分を知っていて

「腹減ったろ?なんか食うか?」

「俺んち風呂わかしたけど、入るか?」

「グルメ券もらって、1人で使うのもなあ?一緒にどうだ?」

そう言って、

なにかと理由をつけては、ご馳走してくれた。

もっぱら食べたあとは、近所のゲームセンターに、2人でずっと張り付いた。

お目当ては、魚を釣って遊ぶ、大型メダルゲーム。

そのメダルゲームに本気になり、ジローさんと、まわりの子供たちと、日々ヤッキになって魚を釣っていた。

大きい魚が来たときは、

「なんだよォ!あれ!」

「でっけーー!!」

「釣れるぅ!?あれ!」

「オイオイなんだぁ?!」

など、子供たちと一緒にリアクションしていた。

「大」の大人だ。

「大」の大人が、子供にまじって、一喜一憂。

真っ昼間から全力だった。

このゲームを、2人で自転車を飛ばして、隣町のゲームセンターへ。

毎回通い詰めてやっていた。

覚えているのは 冬のある日

『伝説の魚』が、登場した。

目が光り、画面いっぱいに真っ赤な巨体に、みんなで「うわあああ!?」と、どよめいた。

噂には聞いていた伝説の魚が、目の前に現れた!!

すぐさまみんなで総力戦でかかったが、釣り糸が切れる切れる!!

さすが「伝説の魚」、、!!

コンティニューして、お金がなくなるなくなる。

「なんなんだよぉ、、」

「ふざけんなよー、、!」

「どうしよおお、お金もうない、、、」

子供たちの悲しい顔。

それを見て、思い立った。

俺は、大人なんだ。

大人は、お金をもっている!!(バイト代)

そうだろ?

お金にものを言わして、

伝説の魚に挑んだ。

コンティニュー!コンティニュー!

コンティニュー!コンティニュー!

100円!!200円!!!

300円!!400円!!!!

コンティニュー!コンティニュー!

コンティニュー!コンティニュー!

800円!!1000円!!!

1500円!!2000円!!!!!

コッ、コンティニュー!!コンティニュー!!!

コッ、!!コンティ、コー!!!!コココココココうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

「いっけー!!!」

「もうちょい!もうちょい!!!」

「釣れる!釣れる!」

「がんばれー!!!!!」

子供たちの声が、勇気に変わる。

「「「「「「「いけー!」」」」」」

いまならわかる。

こいつら、ダチだったんだ。

本物の、本物のダチだったんだ。

君たちの声援で、何度も何度も、、

おじさんの財布から、お金が飛び出すよ!!!!

ぬあああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!

『『『『『『『バシャ〜ン!!!』』』』』』

豪快な音が、店内に響き渡った。

『伝説の魚』を、釣り上げたのだ、、!!

「うわあああああああA A A A A A A A!!」

雄叫びをあげた。

大の大人が、ゲーセンで雄叫びをあげた。

恥ずかしくはなかった。

子供たちも、叫んでいたからだ。

あの瞬間、

年齢も、世代も、価値観も、

そんなのぶっ飛ばして

子供たちと、雄叫びをあげた。

最高だった

絶対走馬灯に出てきてほしい。

そのあと、伝説の魚を釣り上げた我々は、子供たちから『ヒーロー』として扱われた。

『やだ。。ここが自分たちの居場所かも。。』

へんな感情も生まれてきた。

ゲーセンに通う日々

だんだん魚釣りのコツもつかめてきて、だいぶ貯メダル(ゲームセンターに預けられるメダル)も貯まって、

一ヶ月くらいは遊べるんじゃない?くらいまでメダルが貯った。

「楽しいなあ〜、オイ!」

マリカーを運転しながら笑うジローさんが、

気のいい近所の兄ちゃんだった。

カッコつけジローさんからの、唯一の頼みごと

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