『梨泰院クラス』のチャン・デヒ会長が!
シンメトリカルな構図を駆使して描かれる重厚でスタイリッシュな描写の数々に、「これは大変なノワール(犯罪)ドラマが始まった……!」と思ったが、舞台が韓国に変わると様相が一変。ちなみにイタリアのシーンはすべてCGで作られていたというのだから、また驚きである。
いきなり登場するハイテンションな女性、ホン・チャヨン(チョン・ヨビン)。ウサン法律事務所のエリート弁護士である彼女は、重大な健康被害をもたらしたバベル製薬の裁判を担当していた。コミカルな雰囲気だが、「韓国ではお金と権力が正義なの」と公言して憚らない女性で、証人の買収も嘘泣きも軽々とやってのける。
演じるチョン・ヨビンはインディーズ映画『罪深き少女』(17年)に主演して数々の映画賞を受賞した女優。『新しき世界』のパク・フンジョン監督によるNetflixで配信中の映画『楽園の夜』(21年)では、追われる身の主人公と心を通わせる女性を演じている。
バベル製薬の裁判で原告の弁護士として彼女と争うのが、人権派弁護士のホン・ユチャン(ユ・ジェミョン)。どこまでも弱者の味方で、どんなに勝ち目の薄い争いにも果敢に挑む。チャヨンの実の父親だが、あくまで強者の味方であろうとする娘とは親子の縁を切ろうとするほど。
ユ・ジェミョンは日本でも大人気を博したドラマ『梨泰院クラス』で主人公パク・セロイに立ちはだかる長家グループのチャン・デヒ会長でおなじみ。あっちは人の尊厳を踏みにじる役で、こっちは誰よりも人の尊厳を大切にする役。役柄の高低差に耳がキーンとする。
チャヨンを子犬のように慕うインターン弁護士のチャン・ジュヌを演じているのは、人気アイドルグループ、2PMのオク・テギョン。ジュヌの見せ場は今後たくさんあるので追って触れていきたい。
クムガ・プラザのおかしな人たち
ヴィンチェンツォが韓国に渡った本当の目的──それは、ありふれた雑居ビル「クムガ・プラザ」の地下深くに隠された金塊を手に入れることだった。ちなみにヴィンチェンツォを騙して身ぐるみ剥いでしまったタクシー詐欺師ふたり組を演じるのは、韓国歴代興収1位を記録した映画『エクストリーム・ジョブ』で刑事を演じたチン・ソンギュと『KCIA 南山の部長たち』のイ・ヒジュン。
ところが、クムガ・プラザの住民たちは、ちょっとどうかしている人たちばかり。いつもジャージにニット帽姿で強がりばかり言っている質屋の社長と若作りで夫を尻に敷いている妻、普段はお嬢様然としているがピアノを弾くときは鬼気迫る形相になるピアノ学院の院長、高級な服のことをまったく知らないクリーニング屋の店主、ミラノで修行したと嘘をつくイタリアンレストランの店主、変なダンスが得意なダンス教室の院長、食堂のおばちゃんとその息子、そして金塊の真上に寺を構える住職と若い僧侶……。人権派弁護士、ホン・ユチョンの事務所も同じビルの中にあった。
住民たちの異常なテンションとズレた言動に、クールでキメキメのヴィンチェンツォも困惑するばかり。まるでイタリア映画の主人公が韓国のハイテンションなコメディドラマに放り込まれてしまったかのよう。質屋のおじさん役のヤン・ギョンウォンは『愛の不時着』で大人気を博した第5中隊のリーダー役でよく知られている。キャスティングのサービスが行き届いているね。
しかし、コメディはいつまでもつづかない。ヴィンチェンツォのほかに、このビルの土地を狙う者がいた。それがバベル建設だ。彼らは企業ヤクザを使ってビルのオーナーを脅し、売買契約書にサインさせてしまう。妻と子を狙い、とどめとばかりに車に大型トラックをぶつける悪辣さ! だが、それが実に最近の韓国ドラマらしい。
クムガ・プラザに乗り込んできたヤクザたちは住民たちに立ち退きを迫る。居合わせたチャヨンにも平然とこぶしを振りかざすが……。
「やめろ!(イタリア語)」
三つぞろいのスーツをビシッとキメたヴィンチェンツォが現れると、たちどころにチンピラを一蹴! ボスにも躊躇なくパンチを打ち込み、ビルから宙吊りにしてしまう。このバイオレンスに対する躊躇のなさが、ヴィンチェンツォのダークヒーローたるゆえんだろう。
「このビルは俺の物(エ・ミーオ)だ(イタリア語)」
カッコよくキメても、住民たちは何を言っているのか理解していないところがおかしい。住民たちの拍手喝采を浴びるヴィンチェンツォだが、彼が敵に回したのはとんでもない相手だった……!
重厚なオープニングから、登場人物の顔見せをしつつコミカルな感じで終わった第1話だったが、時折見せていた不穏過ぎるバイオレンス描写は今後もエスカレートしていく。第2話、第3話と、どんどん沼は深くなっていくので覚悟してほしい。デデン!