読書の目的とは、教養とは何か。 中村光夫の読書論

2021.3.13

新しい価値観がどれほど優れたものであっても、過去の書物を否定したくない

『青春と女性』中村光夫/レグルス文庫

中村光夫著『青春と女性』(レグルス文庫/1975年)に「教養について」では読書の意義と心得をこんなふうに述べている。

僕等が実生活の交友の範囲でめぐりあえる人々は、まず第一に僕等の短い生命によって制約をうけ、また生まれた国、住む場所によって必然に制限されます。

そこへ行くと書物は、歴史始まって以来の人類の各時代各国の代表的人物の声が、彼等の思想の精髄をつたえて凝縮されているのですから、普通の交友よりはるかに有益なわけで、これに対する僕等の心得はさきに述べた正直と謙虚以外ありません。

『青春と女性』「教養について」中村光夫/レグルス文庫

そして中村光夫は読書の目的を「自己の限界を認識し、人類とのつながりを意識することにある」という。人類には今の人だけではなく、過去の人も含まれている。新しい価値観がどれほど優れたものであっても、過去の書物を否定したくない——というのが、読書人としてのわたしの矜持だ。

また「教養について」では「自分に正直に問うて一番興味のあるものを読むのがよい」とも述べている。中村光夫は、高尚な外国文学を半知半解で読むより、娯楽小説でもなんでもいいからほんとうに好きなものを読むことをすすめる。

文学美術に関する書物は、科学の知識を得るための書物と違って、まず人の意見を聞かず、自分の好むところを固執することがかえって必要です。

『青春と女性』「教養について」中村光夫/レグルス文庫

中村光夫の読書論の要諦は「自分の好きなものを読め、書物に対して謙虚になれ」ということになるのだが、ダイエットや片づけ同様、わかっていても実行するのがむずかしい。とはいえ、小太りの人のほうが風邪をひきにくいという説や片づきすぎた部屋を好む人は他人と暮らせないという説もあるし、自分の好きなものを絞りきれないまま、適度にとっちらかった状態をよしとするというのが、半世紀近くに及ぶわが読書遍歴から導き出した答えだ。どんな本をどんなきっかけでどんなふうに好きになるのか今でもまだわからない。

精読の道はまだまだ遠い。

■荻原魚雷「半隠居遅報」は毎月1回更新予定です。

この記事の画像(全3枚)



  • 荻原魚雷『中年の本棚』(紀伊國屋書店)

    気力・体力・好奇心の衰え、老いの徴候、板ばさみの人間関係、残り時間…人は誰でも初めて中年になる。この先、いったい何ができるのか―中年を生き延びるために。“中年の大先輩”と“新中年”に教えを乞う読書エッセイ。

    関連リンク


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

今は夕凪の時代。退屈な暮らしを豊かなものにするためには(荻原魚雷)

半隠居遅報14

確かな答えは時の審判にゆだねるしかない。富士正晴の「長持ちする意見」

自分を発見し、自分を見守り、自分を検討する。人生の一大事業――臼井吉見の言葉(荻原魚雷)

エバース

「ウケるからやるは『M-1』では失敗する」。3位だったエバースは2026年、自分の感覚を信じる【よしもと漫才劇場10周年企画】

豪快キャプテン×ダイタク

ダイタク×豪快キャプテン、認め合うお互いの漫才の魅力「簡単そうに笑いを取る」【よしもと漫才劇場10周年企画】

三遊間×ゼロカラン

三遊間×ゼロカラン、人気投票との向き合い方の正解は?「やっぱり有名にならなあかんな」【よしもと漫才劇場10周年企画】

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

Furui Rihoが『Letters』で綴った“最後の希望”「どんなにつらい日々であっても、愛は忘れたくない」

EXILE NAOTOが語る、「勝負する身体」がステージと水面で魅せる“攻めの0.1秒”。大きな影響を与えるオーディエンスのパワーとは【『SG第40回グランプリ』特別企画】

4年目の今、重荷だった「王子様」を堂々と名乗れる。Last Princeが語る、プリンスを背負う勇気と楽しさ

甲斐田晴/ローレン・イロアス/3SKMの撮り下ろし表紙を公開! VTuberのトップランナーたちを徹底解剖【春のQJ×にじさんじ祭り!】

ニューヨーク『Quick Japan』vol.181

ニューヨーク、60ページ総力特集「普通は勝てない?」を考える。バックカバーにはSHUNTO×MANATO×RYUHEI(BE:FIRST)が登場【Quick Japan vol.182コンテンツ紹介】