「俺は『SLAM DUNK』なら角田」な脇役ミュージシャン、マンガを通してロックを綴る(忘れらんねえよ柴田)

2021.1.31
忘れらんねえよ

柴田隆浩、39歳独身。バンド「忘れらんねえよ」のボーカル。

バンドの方針は、「恋や仕事や生活に正々堂々勝負して、負け続ける男たちを全肯定したい」。

そんな彼が歌う楽曲にはまるで嘘がなく、なんともダサい(本当にとてもいい意味で)。嘘がない彼から出る言葉は、自分にはなんにもないと思って生きている人に、とびっきりに痛いほど刺さるのだ。

このコラムは、大のマンガ好きとしても知られている彼が、圧倒的な主人公が登場する『SUGAR』と『RIN』(作:新井英樹)を通して感じた、どうしようもない<ロックンロール>への想いを綴ったものである。

忘れらんねえよ柴田 本棚
柴田の自宅の本棚には、数え切れないほどのマンガが陳列してある

クソダセえ謙遜ではなく、俺はガチでクソ凡人

『SLAM DUNK』(作:井上雄彦)でいうと、俺はカク(角田。補欠。桜木をして「カクには悪いがスピードもパワーも感じねえ!!」と言わしめた男)だと思う。

こちらの右上が、カクこと「角田」

『BECK』(作:ハロルド作石)でいうと、俺は下柳さん(イングヴェイ楽器のいち店員。顔が長い。脇役。悪いやつにそそのかされて、主人公のコユキと千葉の仲を裂くべく小賢しい策略を打つも、そのあと良心の呵責に耐え切れず千葉に真実を白状→千葉に飛び膝で吹っ飛ばされる)だと思う。

『ハチミツとクローバー』(作:羽海野チカ)でいうと、俺は山崎さん(野宮が働く原田デザインの同僚。眼鏡キャラで前髪だけ立ててる。脇役。同じく同僚で先輩の美和子さんのことが好きで好きで仕方がなくて、なんなら主要登場人物の誰よりも純粋に好きな人のことを想ってるんだけど、美和子さんからはかんっっっっっぺきにただの友達だと思われている)だと思う。

要は、脇役なのだ。俺はマンガの主人公になれるような、輝く天才ではないのだ。

あ、これ、謙遜では全くないです。てかさ、なんかたまに成功者のインタビューとかで見かけるじゃん、「いや~、僕なんて天才じゃないですよ、ほんとほんと。いっや~、めっちゃ誤解されてるナ~。えっ、年収ですか? 100億です」みたいな。そういうんじゃない。そういうクソダセえ謙遜ではない。これはガチなやつです。俺ガチで、クソ凡人なんだ。

どうしようもなく俺は、『SUGAR』と『RIN』凛じゃない

新井英樹先生のボクシング漫画『SUGAR』と続編の『RIN』。

主人公の石川凛は凄まじいまでの天才で、素人だったころに初めてボクシングに触れたその瞬間から、その才能は圧倒的。物語の中で彼は、自分が心から尊敬する兄貴分も、極道から更生して這い上がった世界チャンピオンも、すべてを秒殺する。相手が背負った物語や感傷、譲れない矜持、諦めずに持ちつづけた夢、そういった類のものすべてを、跡形もなく破壊する。一切の容赦なく。

そして彼は、孤独になっていく。誰にも理解されず、誰からも距離を置かれ、その結果彼の性格は、皆が眉をひそめるような醜悪なものになっていく。

でも、ボクシングをやっているその瞬間だけは、まぶしくてすべてをかき消すぐらいの、強烈な光を放つわけ。

それがもう、どうしようもなく美しくて。そしてどうしようもなく俺は、凛じゃなくて。

どう考えたって、俺は凛になれないんだ。他者を圧倒するほどの巨大な才能がない。誰に対しても傲岸不遜に振る舞えるほどの胆力がない。相手にどう思われるか、自分がどう見えるか、それがどうにもこうにも気になって、その結果、自分の理想である『そういうことを全く気にしていないキャラ』をめっちゃ演じて、そこに酒が入ったらもう止まんなくなって、後輩に「芸術ってのはさあ、まわりの目とか一切気にせず、自分の心底やりたいことを完遂する狂気のことなんだよ?」とか言って説教しちゃう感じなんだ(宮田くん、先日はすみませんでした)。

だからこそ俺は、凛に猛烈な憧れを感じます。

普通>なやつでも輝ける可能性があんのが、<ロックンロール>

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