“モノ”に囲まれた生活は幸せなのか?映画『100日間のシンプルライフ』から考える“本当の幸福”
新型コロナウイルスの流行によって、世界中の誰もが自らの生活を抜本的に見直すことになった2020年。激動の1年も終えようとしている今、自分の生活において必要なものと不要なものについて向き合った方も多いでしょう。
2020年12月4日に公開された『100日間のシンプルライフ』は、「所持品ゼロの状態から1日につきひとつだけ必要なモノを取り戻す」という生活を送るふたりが“本当に必要なモノ”と向かいつづける映画です。
ここでは同作をきっかけ“生活”と“幸せ”について考えてみました。ぜひ、自分自身のこれからの生活を考えるきっかけにしてください。
“物質的な豊かさ”と“精神的な豊かさ”が揺らぐ時代
現在、私たちの暮らす日本はもちろんのこと、世界中の誰もが多くの時間を自宅にて過ごす生活を送っているのではないかと思う。このような環境下で、モノが不足している状況というのは心許ない。かといって、身の回りが“不要不急”なモノであふれているというのもいかがなものだろう。
そんな折、ドイツ映画『100日間のシンプルライフ』を観た。これは、フィンランド発の人気ドキュメンタリー映画である『365日のシンプルライフ』(2013年)を下敷きにしたもの。両作にはフィクションとドキュメンタリーという大きな違いはあるが、どちらも、“モノ”に依存した生活から、“本当に必要なモノ”を見出していく人間の姿が描かれている。
主人公・パウル(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)と相棒のトニー(マティアス・シュヴァイクホファー)は、幼なじみでビジネスパートナー。スマホのアプリ開発事業も順調で、互いに多くの好きなモノに囲まれた、満ち足りた生活を送っている。ところがある日、ふたりは酒に酔ったケンカの末、所持品ゼロの状態から1日につきひとつだけ必要なモノを取り戻して100日間を過ごすというトンデモ勝負を、大金を賭けてすることになるのだ。
“物質的な豊かさ”と“精神的な豊かさ”のバランスが大きく揺らいでいる──そんな“新時代”の生活様式で生きる私たちにとってのヒントが、本作には描かれているような気がする。
複雑化した私たちの日常
パウルとトニーの生活は、いたってシンプル。何せ、“所持品ゼロ”の状態からスタートするのだから、あるのは家と、その“身”ひとつということだ。つまりは裸一貫である。そこから倉庫に預けられている“モノ”をひとつずつ取り戻していくシンプルライフが始まるのだが、何を選ぶかは各々の自由。衣類を選ぶもよし、寝具を選ぶもよしだ。
□パウルとトニーの“100日間バトル”のルール
1)持ちモノすべてを倉庫に預ける
2)倉庫から1日ひとつだけモノを取り戻せる
3)会社の食料は食べてOK
4)買い物禁止
・期間:100日間
・勝敗:ルールに従い、100 日間成し遂げられた者が勝ち
・罰ゲーム:ふたりの会社のアプリ売り上げのうち、自身の手取りの半分を従業員に配分
現代において、情報収集の手段やコミュニケーション・ツールとしてスマートフォンは必須だが、“所持品ゼロ”であれば、それを選ぶのはあと回しになることだろう。こうしてパウルとトニーは得られる情報が限定されることによって、より自分自身(や、その周辺)と向き合わなければならなくなっていくのだ。
一方、私たちの生活はというと、新たな生活様式の要請によってシンプルになるかと思いきや、その逆に向かっているように思う。
「ステイホーム」「自粛」「おこもり期間」──といった言葉を頻繁に耳にするようになって久しい。これらが私たちの生活となじみ深いものとなってから、早くも半年以上が経った。それ以前の話をするならば、これらの言葉はほとんど耳にしたことがなかったように思う。
ところで、この3つの言葉は「家で過ごしましょう!」ということを意味している。とどのつまりは同じことだ。しかしながら、これらの言葉から受ける印象はそれぞれ異なる。
「ステイホーム」はカジュアルな響きで耳になじむが、高いところから人間が犬に対して放つ言葉のように、どうにも“命令調”な印象を受けてしまう。この言葉を口にすると、誰かからの命令を聞き入れるため自己暗示をかけているような気分になってくる。また「自粛」は、その字面からしていかめしい。辞書で引いてみると、“自ら進んで行動や態度を慎むこと”と出てくる。
しかしなぜ、ここに“戒め”的なものが潜んでいるのだろうかと疑問だ。みんながみんな、何か悪いことをしたわけでもないはずなのに。そんな中でもマイルドな言葉が「おこもり期間」だ。“家にこもる”という短いセンテンスの“こもる”という言葉に、接頭語である“お”をつけることで、どこか柔らかく前向きな印象を受けるのである。
同じ意味合いを持ちながら、異なる印象を受ける言葉──。これが意外にも、今、私たちが直面している現実の複雑さを、もっといえば煩雑さを表現しているように思うのだ。
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