『BUSTERCALL=ONE PIECE展』:PR

誰も見たことがない『ONE PIECE』とは何か?その挑戦の全容

2020.12.14
『BUSTERCALL=ONE PIECE展』

文=ばるぼら 撮影=石垣星児
編集=田島太陽


『ONE PIECE』の公式企画でありながら、挑戦に満ちた、意欲的なアート展。それが、『BUSTERCALL=ONE PIECE展〜受け継がれる意志 人の夢 時代のうねり 人が「自由」の答えを求める限り それらは決して止まらない〜』である。

12月27日(日)まで横浜の「アソビル」で開催され、無料で入場(要事前予約)できるこの展示イベント。絶大な人気を誇るマンガ作品である『ONE PIECE』が、なぜここまで変化球なアート展を開く必要があったのか。

挑戦の背景と、イベントの“おもしろさ”を解説する。

「王道」「大衆的人気」のイメージとは真逆の空間がある

展示会場入口

音楽の世界では時折「公式ブート盤」が作られる。記録用に保存しただけの音源で、音質がよくないとか演奏を間違えているとか、さまざまな理由で本来はリリースする予定はなかったものを、意外な評判を受けて出してみた、といったケースだ。アーティスト本人の完成度を求める意志が介在しない制作物ではあるが、それゆえに聞ける音の生々しさ、荒々しさは、普段の作品では味わえない趣をもって愛聴されていたりする。

横浜駅アソビルで開催中の『BUSTERCALL=ONE PIECE展』をひとことで表現してしまえば、「公式ブート盤」とでもいうべき荒々しい表現があふれた異色の展示ということになるだろう。

展示の様子。フィギュア作品が並ぶ「TABLE」ゾーン

世界中にブランドとして認知されるマンガ雑誌『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の、世界中で広く愛読されるマンガ『ONE PIECE』(尾田栄一郎・著 )を、世界中のアーティスト約200組が自由に解釈したアート作品を一挙に並べた会場は、我々が『ONE PIECE』に対して漠然と持っている「王道」の「大衆的人気」マンガというイメージとは真逆の空間だった。

人気マンガとして類を見ない、異色なアート展

「落合が描いたワンピースのプラモの箱」(落合翔平)

プロジェクトの始まりは約1年前、2019年10月にまずインスタグラムで活動を開始。同年11月開催のファッション、ストリートカルチャーの祭典と呼ばれる『ComplexCon Long Beach』(ロサンゼルス)、12月開催『innersect Shanghai』(上海)のイベントブースに出展した。

そして翌2020年3月末に満を持して日本でも展覧会開催……の予定が、COVID-19の影響で延期となり、日程を改めて11月20日(金)から始まったのが現『BUSTERCALL=ONE PIECE展』というわけだ。

アートを強く押し出して、世界中のアーティストと共に原作の世界観を再表現するプロジェクトは、『ONE PIECE』ひいては少年マンガの歴史上では異色だと言える。ただ、その「異色な」部分がどこにあるのかは、実際に会場に足を運んで作品のひとつひとつと向き合ってみないとわからないだろうし、“いつもの『ONE PIECE』”の雰囲気とはだいぶ趣が違うので戸惑う人もいるだろう。

そこで、ここではあえて本展示の愉しみ方についてヤボな説明をさせていただく。この説明を読んでから観に行っても遅くない。

慣例となったルールを飛び越えた試み

作中で喜怒哀楽の感情が顕著に出ているコマを分解し、4冊の本にまとめ直した「ONE PIECE EMOTIONS」(KOJI FUKUNAGA)

この世にはファンが非公式に描いたイラストや小説が無数に存在する。『ONE PIECE』のコミックスにも読者投稿のイラストが毎巻掲載されている。「BUSTERCALLプロジェクト」の作品の一つひとつも、そんな読者投稿イラストの一種であると説明していいかもしれない。

読者の創作は自由だ。その「自由さ」へのこだわりこそ、この公式展示の「攻めた」点と言える部分だろう。

公式の展示やグッズを制作するとき、「こうしたらおもしろそうだけど許してもらえなさそう」「かっこよくなるけどルールからはハズレてしまう」等々、ものづくりには常に作品を守るためのルールがつきまとう。たとえば、マンガの絵とアニメの絵をコラージュしたり、描き足しや反転、通常とは異なる色での着彩など、公式の制作物となると簡単にはできないことは多く、その基準も厳しいのが常だ。

「新しい見え方」という模索

ところが『BUSTERCALL展』はどうだろう。マンガのコマをそのままコラージュの素材に使っている作品、コマを抽出して本にしてしまった作品、公式フィギュア(Ver.BBシリーズ)の顔を“映像がバグった”かのようにスライスした作品、色を塗り替えた作品、声優のセリフをそのままサンプリングした音楽作品もあり、それを公式が認めて表現したところにおもしろさを感じる。

『週刊少年ジャンプ』を模した雑誌が積み上げられて展示台が作られている
作中のコマが使われたオリジナルワッペン

参加作家はあまりにも多様で、アーティスト、イラストレーター、映像作家、造形作家はまだわかるとしても、文筆家/写真家の蒼井ブルー、格闘家の朝倉未来、お笑いコンビ・野性爆弾のくっきー!(COOKIE!)、建築設計事務所のスキーマ建築計画、フルーツカービング作家の佐藤朋子、フラワーショップのMUNSELL、植物屋の叢(Qusamura)、映画監督の枝優花、ファッションブランドのBlack Weirdos、ダンスグループのGANMI、HIP HOPアーティストのSUSHI BOYS、世界的ファッションデザイナー山本寛斎らにまで声をかけたボーダーレス過ぎる人選は、おそらく類例がない。

山本寛斎による作品
“いい顔してる植物”をコンセプトに活動する植物屋、叢-Qusamura-による「サボサボの実の能力者」

おもしろいのは、皆が皆『ONE PIECE』への“愛”を表現しているだけではないということだ。「昔から読者でした!」といった態度もないことはないが、そうしたファン心理を動機にした作品はもちろん、自分なら『ONE PIECE』を題材にどんな作品を生み出せるのか、という実験的な“姿勢”をここで表現しているのである。

公式企画らしからぬ“なんでもアリ”感。これがもうひとつの見どころである。

『BUSTERCALL=ONE PIECE展』
会場内のストアにはスカーフ、Tシャツ、MA-1などの公式グッズが並び、通販でも購入可

「BUSTERCALL」は何を目指すのか?

「Luffy Hosuke」(Robin Tang)

COVID-19の影響で入場は事前予約制となっており、こうした企画展でありがちな「来場者数○○万人突破!」といった宣伝はできない。運営者側も来場者数ではなく別の「成功」の指標を持っているはずだ。では何を達成すれば「成功」だと思っているのか。

おそらくそれは「『ONE PIECE』って大衆的だし王道すぎ」と思って入りづらかった人たちに、表現の仕方を変えることで新たな魅力に気づいてもらうことだろうし、従来のファンに「見たことがない新しい『ONE PIECE』のかたち」を見せること、にあるだろう。

どちらが優れているかという話ではなく、どちらもあっていい。作品の愛し方、表現の仕方はいろいろあっていい。そう思わせるものが今回の展示にはある。

展示会場入口

展示サブタイトルの「〜受け継がれる意志 人の夢 時代のうねり 人が「自由」の答えを求める限り それらは決して止まらない〜」は、マンガ第100話で登場した海賊王ゴール・D・ロジャーの言葉。アニメでも何度もくり返された名言としてファンには親しまれている。

はたして「BUSTERCALLプロジェクト」はどんな「自由」の答えを提示したのか。ヒントを書き過ぎた。あとは展示に足を運んでいただきたい。


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  • 『BUSTERCALL=ONE PIECE展〜受け継がれる意志 人の夢 時代のうねり 人が「自由」の答えを求める限り それらは決して止まらない〜』

    『BUSTERCALL=ONE PIECE展〜受け継がれる意志 人の夢 時代のうねり 人が「自由」の答えを求める限り それらは決して止まらない〜』

    会場:アソビル 2F「ALE-BOX」(神奈川県横浜市西区高島2-14-9)
    会期:2020年11月20日(金)〜12月27日(日)
    開催時間:10:00〜20:00(最終入場19:00)
    定休日:不定休 ※施設に準ずる
    入場券:無料 ※おひとり様各日5枚まで
    主催:株式会社集英社
    協力:東映アニメーション株式会社・バンダイナムコグループ

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