ゲームの知識でここまでやってきた構成作家
しかし、最近僕はそんな狂ったスタッフに出会ってしまった。『勇者ああああ』の構成作家・岐部昌幸である。
フジテレビの超人気ゲーム番組『ゲームセンターCX』でも構成を務める岐部。僕自身、学生のころから大好きな番組だったので、初対面のときは「あ! 有野課長にいつもイジられてる“岐部くん”だ!」とテレビでおなじみのスタッフが本当に実在するという事実にいたく感動した。ちなみにこの業界に入って裏方のスタッフに会って感動したのはこれが2回目。1回目はAD時代に会社の廊下で“世界のヘイポー”を目撃したときである。
岐部の最大の強みは、なんと言ってもそのゲームに関する知識量である。レトロゲームから最新のハードまで膨大な情報がインプットされているため、『勇者ああああ』でもプレゼン企画やクイズ企画といった情報系コーナーの構成はすべて担当してもらっている。また、ゲームに関するアイデアと引き出しの多さも凄まじく、『勇者ああああ』という番組タイトルやコーナーの間に挟まるローディングの演出も、もともとは岐部の発案だ。
さらに岐部はお笑いの分野にもめっぽう強い。「クールポコ。は昔、サシャナゴンというコンビ名でヒップホップ漫才をやっていた」なんていう情報は、岐部が教えてくれなかったら僕らは一生知らなかったはずである。『勇者ああああ』のテーマである“ゲーム×お笑い”をたったひとりで体現している構成作家、それが岐部昌幸なのだ。
そんな岐部が構成を担当している「芸能史とセットで覚えるゲーム年表」というコーナーがある。番組の準レギュラーでもあるペンギンズ・ノブオとゲストの講師がタッグを組み、ゲームの歴史とお笑いの歴史を同時に視聴者へ教授していくという、この番組にしてはわりとまじめな企画である。
先日、いつものように岐部と僕でこの企画の打ち合わせをしたときのこと。1時間ほどのリモート会議の末、次回のテーマは「2000年以降の家庭用ゲーム機と一発屋芸人の歴史」に決まった。それに伴うキャスティング案としてゲーム史の講師にペンギンズ・ノブオ、一発屋芸人史の講師に髭男爵・山田ルイ53世の名前が出たところで会議はつつがなく終了した。
しかしその翌日。岐部から僕にこんなメールが届いた。
ちょっとイカレたご提案をしたく、メッセージを送ります。
今度の収録の「家庭用ゲーム機の歴史」の紹介を、
私にさせてもらえないでしょうか?
語り口こそ丁寧だが、ざっくり言っちゃえば「ノブオじゃなくて俺をテレビに出せ」というプロデューサーへの直談判。本当にイカレたご提案である。
一応、本人の名誉のために言っておくが、普段の岐部はこんなお願いをしてくるような不躾な人間ではない。むしろゲームの話をヒソヒソと小声で話すタイプの控えめで優しい人間である。ではそんな人がなぜこんなことを言い始めたのか。メールのつづきにはこんなことが書いてあった。
自分が遊んできたゲーム機に思いを馳せては、
あれもこれも話したい、小ネタなんかも伝えたいと、
勝手ながら熱い気持ちになりまして
(中略)
自分もちょうど2000年に上京して、
仕事としてもいろんなゲーム機に触れてきたので
(中略)
今回だけゲームで飯を食ってきた作家として、
特別にゲーム機の歴史の話をさせてほしい
というワガママなお願いです。
上京して20年、子供のころは「なんの役にも立たない」とバカにされていたゲームの知識でここまでやってきた構成作家の熱い想いが詰まった文章だった。
僕は「やってみますか」とだけ返信した。その3日後、岐部から大学の卒業論文並みにゲーム情報が詰まった分厚い台本が送られてきた。当然、30分番組の放送尺で収まり切るわけもなく、企画はプライム帯初の週またぎでオンエアされることになった。そして役割もないのに収録に呼ばれてしまったノブオはただスタジオの片隅でニコニコしていた。
そんなわけで構成作家・岐部昌幸の集大成ともいえる「芸能史とセットで覚えるゲーム年表」は11月7日と14日の2週連続放送です。ゲームを愛し過ぎて狂ってしまった裏方による“ゲーマーの異常な愛情”、とくとご覧あれ。
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#【連載】『勇者ああああ』芸人キャスティング会議
アルコ&ピース平子祐希が番組内で「むせかえるほど安いギャラ」と公言する、テレビ東京の低予算ゲームバラエティ『勇者ああああ』。
予算がなくたって、テレ東には「金がないなら企画を考える、有名人が出せないなら素人をおもしろく撮る」の伝統芸能がある。
この連載では、同番組の演出・プロデューサーを務める板川侑右氏が、過去に呼んだ芸人や今呼びたい芸人と、その理由などを明かす。
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