『しくじり先生』の学ランは軽くて涼しい
とはいえ、ひとりで考えるのにも限界がある。特に番組の内容やキャスティングに関しては、これまで応援してくれたファンの気持ちもあるので、慎重に進めなければならない。そこで僕は、プライム帯の昇格を報告するついでにMCであるアルコ&ピースにもこの件を相談してみることにした。仮にも深夜帯で3年半一緒に番組をつづけてきた戦友である、もしかしたらプライム帯へ枠移動する上での斬新なリニューアル案を思いつくかもしれない。
さっそく、収録の合間に楽屋でくつろぐふたりに放送時間の変更を報告。「たぶん半年で終わるだろうな」と毒づきながらも平子も酒井も素直にプライム帯への昇格を喜んでくれた。報告も終わったところで、まずは酒井に「番組に改善したほうがいい点があるなら正直に言ってくれないか」と聞いてみた。すると酒井はしばらく俯いたあと、絞り出すような声でこう言った。
酒井「ちょっと言いづらいんすけど……
3年半着てる学ランあるじゃないっすか。
素材が安いからだと思うんすけど、
めちゃくちゃ通気性が悪いんすよ。
あれだけなんとかならないっすかね?」
もっとマシな意見はねえのかよ、である。ちなみに余談になるがこの「学ランの通気性悪い問題」、酒井当人は3年半の間ずっと気になっていたらしく『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)の収録に参加した際には、
酒井「『しくじり先生』の学ラン軽くて涼しい!
『勇者ああああ』の学ラン無駄に重くてクソ暑い!」
と、陰口を言っていたというタレコミが同番組の演出を務めるテレビ朝日の北野貴章から僕に入っている。学ランの重さ1枚でステーションパワーの差をまざまざと見せつけられるとは思ってもみなかった。
閑話休題。学ランバカがヤニをかましに喫煙所に行ったので、つづいては平子。やはりこういう相談はコンビのネタを書いているほうを頼ったほうがいい。
平子「『勇者ああああ』の前枠ってなんなの?
縦の流れで視聴率ってけっこう変わってくるでしょ」
さすが酒井の数倍はテレビに出ている平子、目のつけどころが業界人である。僕も悩んでいた「縦の流れ」についていきなり言及してきた。
板川「前枠は『新美の巨人たち』ですね」
平子「だとしたら……俺もどっちかっていうと“巨人”だから
そのつながりで“巨人好き”は意外に観てくれんじゃねえの?」
スーパーアカデミック番組『新美の巨人たち』をびっくり人間バラエティー扱いしている高円寺の巨人バカに僕はそれ以上何も聞かなかった。 結局MCのふたりからは、番組内容に関する大したリニューアル案は出なかった。というか平子も酒井も「このままでいいじゃん」ってことなんだろう。正直言うとそこに関しては僕も同意見。ゲストで知名度のあるタレントをブッキングすることはあるかもしれないが、番組を支えてきた人気企画やこれまでのキャスティングを変更するつもりはさらさらない。それに深夜帯で3年半の間一緒にやってきた出演者がどこまでプライム枠で戦えるのかを確かめてみたい。
アルコ&ピース
ラブレターズ
ハリウッドザコシショウ
ハチミツ二郎
ペンギンズ
マヂカルラブリー
GAG……etc
今をときめく第七世代のように括られることも、もてはやされることもなくただただ実力だけでお笑い氷河期を生き抜いてきた中堅芸人だけが活躍できる番組がプライム帯にひとつぐらいあってもいいんじゃないか、そんな気持ちで僕は枠移動の準備を進めている。出演者もスタッフも企画も何も変えずにプライム枠に乗り込む『勇者ああああ』は10月スタート、よろしくお願いします。
たぶんないとは思いますが、もしかしたらスタジオでラーメン食べてたり、猫のVTR観てたり、ご家庭で役立つライフハックを紹介したりする番組になってるかもしれません。そのときは「いろいろ大変だったんだろうな」って怒らずに長い目で見てください。
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#【連載】『勇者ああああ』芸人キャスティング会議
アルコ&ピース平子祐希が番組内で「むせかえるほど安いギャラ」と公言する、テレビ東京の低予算ゲームバラエティ『勇者ああああ』。
予算がなくたって、テレ東には「金がないなら企画を考える、有名人が出せないなら素人をおもしろく撮る」の伝統芸能がある。
この連載では、同番組の演出・プロデューサーを務める板川侑右氏が、過去に呼んだ芸人や今呼びたい芸人と、その理由などを明かす。
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