役者としてのお笑い芸人の魅力と、今後演技を見たい若手芸人

文=かんそう イラスト=たけだあや
編集=鈴木 梢


昔からお笑い芸人がドラマや映画に出演することは多々あったが、ここ数年で、作品における役者としての重要性はさらに高まりつつあると感じている。一話限り、単発だけでの出演だけでなく、連続ドラマで主要キャストを務めることや、作品におけるメイン、主役級の立ち位置を演じている芸人は少なくない。

なぜお笑い芸人を役者として起用するのか

そもそもなぜお笑い芸人を役者として起用するのか。ひとつは演じることへの「耐性」の高さ。漫才やコントのネタとしてどこにでもいる普通の人物はもちろん、身の毛がよだつような異常者を日常的に、しかも自発的に演じている芸人はそもそも「演技力」の基本値がとても高く、難しい役柄でも難なくこなしてしまう「安定感」がある。

そしてもうひとつ、演技で重要なのが「何十、何百とやった会話をいかに初見の感じで聞けるか」という点。その点において、同じネタを何回も何回も披露することが当たり前になっている芸人の「自然体の演技」は数多くの作品において重宝されている。

近年の話題作とお笑い芸人たちの魅力的な演技

たとえば、2018年放送の大ヒットドラマ『アンナチュラル』(TBS)。においても、ずん・飯尾和樹が、ドギツパワハラ法医解剖医・中堂(井浦新)に怯える臨床検査技師・坂本を演じていたが、飯尾が普段見せるその飄々としたキャラクターと、中堂にビビリながらもいつか復讐してやろうという坂本のタヌキっぷりが絶妙にハマり、作品に刺激的なアクセントを加えていた。

また、4話でゲスト出演した我が家・坪倉由幸が演じた工場作業員・佐野は本当に素晴らしかった。いい意味で「どこにでもいる普通の父親、普通の会社員」をとても自然に、かつ印象的に演じており、最後まで愛する家族のため、仕事のために闘った佐野の男としての生き様と、やり切れない現実に涙が枯れ果てた。

芸人の「ギャップ」という部分も大きな要因になっているのではないかと思う。たとえば、ミステリーものやサスペンスものの作品においては何よりも「犯人の意外性」がその作品の評価を位置づける重要なファクターになっている。普段、舞台やテレビなどで明るく楽しい姿を見せているお笑い芸人が真逆の恐ろしい犯人役を演じたときの「ギャップ」は計り知れないものがある。

例を挙げると、2019年放送のドラマ『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ)で千原ジュニアが演じた警視庁刑事部長のエリート・壇浩輝。いつもの「気さくで面倒見のいいツッコミ兄さん」の面影は1ミリもなく、冷酷かつ残虐なサイコシリアルキラーを見事に演じ切っていた。特に最終回で主人公・真野(錦戸亮)に見せた不気味かつ気持ちが悪い言動の数々はまさに「怪演」。放送終了後にタイムラインを大いにざわつかせていた。

また、2020年放送のドラマ『テセウスの船』(TBS)で黒幕・田中正志を演じた霜降り明星・せいやも記憶に新しい。番組当初から「黒幕は誰?」とさまざまな考察が繰り広げられていたが、まったくの予想外の結末に度肝を抜かれた視聴者も多かったのではないだろうか。

【本人考察】テセウス田中正志が語ります!せいやが犯人バレると思った最大のヒントとは!?【霜降り明星】

しかし、公式YouTubeチャンネル「しもふりチューブ」でも「最初から黒幕だと知っていた」と本人が語っているように、内には「犯人である」という思いを常に秘めながら一般人を演じるという作業はエゲツないほどのプレッシャーであったはず。しかし、それを見事に隠しきり、最後の最後で怒り、憎しみ、悲しみ、あらゆる感情を大爆発させたあのクライマックスでのシーンは今でも脳髄にこびりついて離れないほど衝撃的だった。

今後俳優業をやってほしい若手お笑い芸人

これからも数多くの名作ドラマ、名作映画にお笑い芸人が出演し、その爪あとを残すことだろう。最後にぜひ俳優業をやってほしい若手芸人をピックアップしたい。

かが屋

日常のワンシーンを切り取り笑いに変換する生粋のシチュエーションコント師・かが屋。言葉を発せずとも表情や目線の動きだけで観客に状況を瞬時に理解させる「静の演技」はもはや芸術。コミカルからシリアスな役どころまで幅広く活躍すること間違いなし。2019年放送の『グランメゾン東京』(TBS)でも「自然すぎる演技」を見せ、多くの人から「え?あれ芸人だったの……?」と言わしめた。

金属バット

漫才師の中でも群を抜いて「初見の感じ」がうまいコンビ。斜め上どころか、朴訥とした外見からは想像もつかない宇宙から降ってくるような異次元のボケを見せる小林圭輔、出で立ち、雰囲気、ひと目見ただけで「ヤバさ」をプンプン醸し出ている友保隼平、コメディ、サスペンス、両方で圧倒的な存在感を示すことは想像に難くない。

宮下草薙

今や「苦悩する姿」が日本で一番似合う男・草薙航基はどんなジャンルの作品でも愛される存在になることだろう。そして、金属バット友保とは違った意味でヤバさの底が未だにまったく見えない宮下兼史鷹にはぜひとんでもないシリアルキラーを演じてもらいたい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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